Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

小論文に「あなた」を出すための3つの方法

「あなたの意見が見えない」小論文

今年は、8月に行われる資格試験の小論文指導をお手伝いさせてもらう機会が多く、いろいろな人の書く小論文を、添削する立場で読ませてもらっている。。
自分が指導のお手伝いをしている技術士試験(建設部門)の問題は例えばこんな感じ。

維持管理・更新投資が増大すると見込まれる中で、その現状と課題を述べ、今後の社会資本整備のあり方について、あなたの意見を述べよ。(180文字以内)(H18年の問題)

受験者が作成してきた回答を見ていると、書かれていることは正しいにもかかわらず、ありきたりというか、読んでいて全く面白みを感じない答案が多数ある。自分に限らないが、そういう答案に対して、添削者が書くコメントは大体、以下のようなものになる。

「一般論の羅列」「白書の丸写し」「あなたの意見が見えない」

さて、この添削結果をもらった人は、ちょっと頭を悩ますかもしれない。
国土交通白書で勉強したとおり書いているのに、こんなことを言われても・・・・と。
以下、どうすれば、小論文に「あなた」を出すことができるか考えてみた。

(1)面白い話を研究する

先日読んだ大塚英志『キャラクター生活の作り方』(第八講 お話の法則を探せ)に、「お話の法則」についての話が載っている。「貧乏脱出大作戦」「プロジェクトX」などの(当時の)人気テレビ番組には、共通して以下のような法則があるという。

  1. 何かが欠けている(お金が無かったり/救急医療制度がなかったりする)
  2. 課題が示される(新しいレシピを覚える/今の技術では治せない患者さんが登場する)
  3. 課題の解決(レシピや治療法を身につける)
  4. 欠けていたものがちゃんとある状態になる(お金が入ってくる/救急医療が確立する。)

この本の中では、ネイティブアメリカンの民話や『千と千尋の神隠し』の中にも、これらの法則が、繰り返し織り込まれていることが指摘される。最後に、他人の作品に向き合うときにも、この法則に意識的になり、面白さを嗅ぎ取っていく力こそが、やがてそれを自分の作品に生かせる力につながる、とまとめられている。
最後の一文は重要だ。
実は、この種の法則=「型」が大事だ、ということは、小論文指導では、繰り返し指摘される。実際、上で取り上げた技術士試験についても「現状−課題−解決策−今後」という型にしたがって書くように、という話は、それこそ耳が痛くなるほど聞く。
したがって、重要なのは「法則を知る」こと以上に、「面白い話を知る(さらに、何故面白いか考える)」ことの方なのだ。つまり、模範解答*1や、自分が「面白い」と思える他の人の回答は十分研究しておくべきである。いわば「あなたの理想」の論文が分からなければ、他人の指摘を受けて右往左往を繰り返すだけになってしまう。

(2)「骨格」を見えやすくする

小論文といえども、資格試験であれば、何らかの専門的知識の有無を問われる。
その際、実業務で習得できる以上の知識を身につけるためには、本などでの勉強が必要になり、技術士試験の場合は、国土交通白書などで勉強することになる。
しかし、白書は、読みやすいように工夫が凝らされているとはいえ、そもそもの目的は政策のカタログである。
したがって、これをいくらうまく抜き出して切り貼りしても、論文としては成立しない。
オリジナルのアイデアである必要はないが、自分の頭を通過して書かれたものかどうか(あなたの考えかどうか)というのは、採点する側からは、結構わかってしまうものだ。
そして、実は、そこの部分は、専門知識の体系的な理解とは無関係な部分なのだ。

たとえば、最近2ちゃんなどで流行ったという、これ*2

プロジェクトX〜挑戦者たち〜 ミートホープの挑戦。奇跡の牛肉抜き牛肉風味コロッケ」

メーカーから、もっと安い牛肉コロッケを作れと迫られていた。
思案に暮れていたとき、社長は意外な事を言った。
「牛肉を抜いてみたらどうだろう」
工場長は戸惑った。
牛肉コロッケから牛肉ミンチを抜いたら牛肉コロッケでなくなってしまう。
「無理です。出来ません」工場長は思わず叫んだ。
「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で作り上げるんだ!」
社長の熱い思いに、工場長は心を打たれた。肉屋の血が騒いだ。

「やらせてください!」
それから、夜を徹しての偽装ミンチ作りが始まった。
牛肉の代わりに、豚でも鶏でも、肉ならなんでもミンチにして混ぜた。
しかし、本物の牛肉コロッケの味は出せなかった。
工場長は、来る日も来る日もミンチと戦った。
いっそ、自分がミンチになれば、どんなに楽だろうと思ったこともあった。
追い詰められていた。
そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。牛は肉だけで出来ているんじゃない」
そうだ。血だ。牛の血があった。暗闇に光が射した気がした。
工場長は何の肉を入れたかよくわからないミンチに牛の血を混ぜてみた。
牛肉ミンチ特有の鮮やかな赤みが蘇った。
「これだ、これが探してた俺たちのミンチなんだ!」
牛肉抜き牛肉風味コロッケの誕生だった。
社長と工場長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。
工場長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、この涙も混ぜていいですか」工場長は言った。
「ああ、いいとも。塩っ辛くならない程度にな」
社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。

社長たちがとった対応の是非は別として(笑)、文章自体はスラっと読めて非常に面白い。
さらに、上に挙げた「お話の法則」と見比べてみると、それを満たしていることが、深く考えずともわかるだろう。
つまり、面白い話は「法則」が目に見えるかたちで組み込まれている。
小論文も同じで、「法則」つまり論文の「骨格」が見えやすい論文の方が高く評価される。
勉強した知識(辛い思いをして暗記した知識)をこれでもかと詰め込もうとする論文は、骨格が見えにくくなって、どんどん「カタログ」的になっていく。
「骨格」を見せることよりも、「知識」の披露を優先してしまうことが、「一般論の羅列」「白書の丸写し」「あなたの意見が見えない」と叱咤されるひとつの原因なのだ。

(3)試験は会話であることを踏まえる

どんな論文試験/口頭試験にも共通するのだが、試験は会話と同じであることは頭に入れておかなければならない。つまり、出題者⇒回答者⇒採点者(≒出題者)のコミュニケーションの流れを気にしなければならない。
したがって、以下の2点が重要になる。
[1]出題者の質問の意図するところを理解して回答する
[2]採点者に、どう読まれるかを考えながら回答する
これらは、折角暗記してきた「知識」を出したい気持ちに振り回されると、つい、おろそかになりがちな部分だが、絶対に必要な部分だ。
中学校の期末試験で、答案の裏に「美味しいカレーの作り方」を書いて点数が上がった、というような話をよく聞いたが、あれも、実は上の[2]を強く意識しているという意味では、間違っていない行為だと思う。(ただ、本当にやってはいけない)
同様に、文字が異常に汚かったり、答案がよだれでぐしゃぐしゃだったりすると、内容以前の段階で低い評価になる可能性がある。
そして、[1]の出題者の意図については、それ以上に注意が必要だ。

  • はじめに問題文をチラリと見る。
  • 回答を少し考えてみる。
  • 関連知識を2、3思い出す。
  • それらを繋げて書いてみる。
  • うまく書けた、満足。

このように、論文を仕上げる流れの中で、元の問題文を忘れて、出題意図とはかけ離れた回答になってしまう、ということは、実はよくある。
それだけでなく、問題文は何度も見ているはずなのに、自分流の解釈にしたがって論文を作成してしまうこともよくあり、「カタログ的」な回答をつくってしまう遠因になっている。
よくある答案をケーキ屋に喩えて書いてみる。

  • 問題:客足の減少を受け、チーズケーキ専門店「とぷかぷ」の店長は、チーズケーキ以外のケーキをメニューに加えることにした。新メニューについて、あなたの考えを述べなさい。
  • 回答案:新メニューについては、以下のようなものが考えられる。(1)ショートケーキ:スポンジケーキの台に、イチゴなどの果物とクリームをあしらった洋菓子(2)モンブラン:スポンジ台の上に生クリーム、マロンクリームを山のように仕上げたケーキ(3)シュークリーム:・・・

この回答の悪いところは、「あなたの考えがない」であることは比較的よくわかるのではないだろうか?ケーキ屋の店長は、新メニューをどうしようか、と悩んでいるのだから、「あなたの考え」は、例えば「ケーキで最も人気のあるのはショートケーキだから、地域の名産品である苺を使ったショートケーキがオススメ」などと答えてあげないと、店長の悩みは深まるばかりだ。
出題者を想定するだけで、論文がカタログ的になることはかなりの確率で回避できる。
出題意図が分かりにくい悪問が出ることもあるのだが、そんなときも片言の外国人に道を聞かれたときのように、広い気持ちでなるべく丁寧に答えてあげるべきだろう。

まとめ

再度おさらいする。
「一般論の羅列」「白書の丸写し」「あなたの意見が見えない」と言われないために重要なのは以下の通り。

  1. 自分にとっての「面白い」論文を研究する
  2. 骨格の見えやすい論文にする
  3. 出題者と採点者を想定して会話するように回答する

そういう自分も、知識面も文章面も、まだまだ修行が必要で、上の文章も無意味に長く、読みにくいは思うが、勉強する人のなんらかの参考になれば、と思い、書いてみた。
技術士試験までは、あと1ヶ月なので頑張ってください。

*1:全然面白くないこともあるので注意が必要。

*2:竹熊健太郎さんのブログで知りました