Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

2024-01-01から1年間の記事一覧

湘南は晴れているか(湘南国際マラソンレビュー)(2024)×2024年に聴いた音楽

12月に毎年挑戦している湘南国際マラソン。 ブログでも毎年書きかけては、力が入り過ぎて結局全部書けない、ということが続いているので、最初に結果を書くと、2024年は3時間42分台でのゴールでした。 昨年(2023年)は3時間29分台ということで、2018年以来…

藤野知明監督『どうすればよかったか』×2024年ベスト映画

年末に、今年ベストどころか、今後しばらく「残る」だろう映画を観た。 ドキュメンタリー監督の藤野知明が、統合失調症の症状が現れた姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけた両親の姿を20年にわたって自ら記録したドキュメンタリー。面倒見がよく優秀な8歳上…

人生リセットの誘惑~チョン・ハナ『親密な異邦人』

親密な異邦人作者:チョン・ハナ講談社Amazon 7年間小説を書けずにいる小説家――「私」は、目にとめた新聞広告に衝撃を受ける。そこには、「この本を書いた人を探しています」というフレーズと小説の一部が掲載されていた。その小説は、「私」がデビューする前…

これはもう「ゴリラに翼」だ!~須藤古都離『ゴリラ裁判の日』

ゴリラ裁判の日作者:須藤古都離講談社Amazon 最近は、「変なミステリ」を脱して、「ジャンルレスな力強いエンタメ」という雰囲気をまとってきたメフィスト賞。前回の『死んだ山田と教室』も気になるタイトルだが、前々回の受賞直後に、これは絶対に面白いは…

もしトラ×『シビル・ウォー』×ガザ攻撃1年(Nスぺ)×ドイツの分断(マライさん記事)

ボディ・ブローのように効いてくる、という言い方があるが、映画『シビル・ウォー』は、まさにそんな感じで、ダメージが増していくばかり。 そもそも映画と非常に関わりの深いアメリカ大統領選に暗雲が立ち込めているように見える。 ハリスが辛勝(トランプ…

あまりに衝撃的なラスト~高橋久美子『その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱』

その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱作者:高橋久美子ミシマ社Amazon先日、最新作『わたしの農継ぎ』を新聞書評欄で知り、高橋久美子(元チャットモンチー)は、絵本書いたり小説書いたりしていたと思ったら、今は農業をやっているんだ!と驚いた。…

ナオコーラさんが透けすぎる小説~山崎ナオコーラ『あきらめる』

あきらめる作者:山崎 ナオコーラ小学館Amazon山崎ナオコーラさんの本は比較的多く読んでいて、前作『ミライの源氏物語』にも共感し、出演したラジオ番組も楽しく聴いたので、親しみのある作家と言える。 文学の力を信じていて、文学を通じて世界にモノ申した…

分断と対話~アレックス・ガーランド監督『シビル・ウォー』×橘玲『世界はなぜ地獄になるのか』

アレックス・ガーランド監督『シビル・ウォー』 不思議な映画体験だった。 アメリカの内戦の話だが、結局、内戦が起きた背景や具体的な対立は描かれない。 あるのは、分断と戦争。 そして、音、音、音。 静寂と爆音(本当に爆音。嫌になる爆音)。 不協和音…

怖くないのは何故だろう?~澤村伊智『邪教の子』

邪教の子 (文春e-book)作者:澤村 伊智文藝春秋Amazon既読が2作品で偉そうなことは言えないが、自分にとって澤村伊智は高い信頼を置いている「鉄板」のエンタメ作家。 今回も、タイトルのイメージから想像していた通りのホラー要素に、いかにも澤村伊智らしい…

『虎に翼』×上野千鶴子『ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために』

こんな世の中に誰がした? ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために作者:上野千鶴子光文社Amazon 『虎に翼』が終わった。 今年見た映像作品の中では、最も考えさせられ、心揺さぶられた作品と言えると思う。 戦前から始まった物語の最終回第130話…

結末を思い出せないくらい異常な小説~吉田修一『湖の女たち』

湖の女たち(新潮文庫)作者:吉田修一新潮社Amazon 異常な小説でした! そもそも映画『愛に乱暴』を観た帰りに本屋で原作小説『愛に乱暴』が醸す物語としてしっかり構築された雰囲気を感じて、久しぶりに吉田修一の小説を読みたい!と思っていたところ。 ち…

5-1=6という考え方~広瀬浩二郎・相良啓子『「よく見る人」と「よく聴く人」』

「よく見る人」と「よく聴く人」 共生のためのコミュニケーション手法 (岩波ジュニア新書 975)作者:広瀬 浩二郎,相良 啓子岩波書店Amazon 目の見えない人や耳の聞こえない人の本が好きで、定期的に読んでいる。 自分はそこに何を求めているのか漠然としてい…

2024年ベスト「落差」&ベスト純文学作品~砂川文次『ブラックボックス』

ブラックボックス (講談社文庫)作者:砂川文次講談社Amazon 令和6年最大の「落差」が観測された。 ちょうど、先日聴いていた荻上チキsessionで、今年上半期の芥川賞受賞作家である松永K三蔵(受賞作は『パリ山行』)が、純文学の魅力を「何でもあり」と語って…

大技を支える絶妙なリアリティライン~麻耶雄嵩『隻眼の少女』

隻眼の少女作者:麻耶 雄嵩文藝春秋Amazon(今週のお題「好きな小説」)先日の『あぶない叔父さん』不完全燃焼からそのままの流れで読んだ、同じ麻耶雄嵩作品で、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した作品。 麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇…

傑作かどうかは俺が決める!~北沢陶『をんごく』×押山清高監督『ルックバック』

映画『ルックバック』は、傑作と評価が高い。 実際に見てみると、確かに、よく挙げられるスキップのシーンも含めて、原作以上の表現、アニメならではの印象的な表現も多かったのは素人目にも歴然としていて、原作から加点要素こそあれ、減点要素がほとんどな…

蓄積する「嫌な感じ」に立ち向かう江口のりこ~森ガキ侑大監督『愛に乱暴』

映画館に行くときは、時間と場所だけを決めて、何を観るかが決まっていないときがよくある。今回、日曜の午前中早い時間に開始という条件で考えて、『ソウルの春』『サユリ』『侍タイムスリッパ―』などの候補から、吉田修一原作ということで気になっていた『…

期待感だけなら満点の反則ミステリ~麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』

あぶない叔父さん(新潮文庫)作者:麻耶雄嵩新潮社Amazon 紀伊国屋の新宿本店で、ミステリかホラーか「怖い」に関連するフェアで見かけてこの本を知った。その時のポップに惹きつけられるものがあって手に取った。 麻耶雄嵩 は久しぶりだったが、全く知らな…

「ブラタモリ前」の硬派な街歩き本~松本泰生『東京の階段』

東京の階段―都市の「異空間」階段の楽しみ方作者:松本 泰生日本文芸社Amazon 図書館で、サイクリングマップとか街歩き関連の本を繰り返し借りている。 この種の本は、購入した場合「死蔵」してしまうことが多く、図書館で、背表紙を眺めながら、「これ久しぶ…

落ちるVS吸い上げられる~スコット・マン監督『FALL』×リー・アイザック・チョン監督『ツイスターズ』

『ツイスターズ』は映画館で、『FALL』は配信作品として鑑賞。特に意識して選んだわけではないが、どちらの作品も、バズるために危険なことに挑戦するという題材は似ており、また、観客として、恐怖を感じるスペクタクル映像を求めている点も共通する。 ただ…

根本的な問題はどこに~橋迫瑞穂『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』

この本を読むまで 今年出版された三砂ちづる『頭上運搬を追って~失われゆく身体技法』という本を読んだのが、そもそものきっかけとも言える。頭上運搬を追って~失われゆく身体技法~ (光文社新書)作者:三砂 ちづる光文社Amazonこの本は、かつて日本全国で…

「知らぬ間に築いていた自分らしさの檻」の話~ケルシ―・マン監督『インサイド・ヘッド2』

『インサイド・ヘッド2』が好調と聞いて、録画した金曜ロードショーで前作を予習してから劇場に足を運んだ。 で、感想としては、期待していたほどではなかった。 というより明確に前作の方が良かったと感じたので、その理由について文章にまとめておきたい。…

一貫性と政治的正しさと共感から逃れる〜九段理江『しをかくうま』

[asin:B0CXDMG6N9:detail]すごい(すごく意味の分からない)本を読んでしまった。 本を手にしたきっかけは、間をあけて2件の書評を読んだことだったと思う。 あとから読んだのは池澤春奈さんによる書評(読売新聞)だった。その書評からあらすじ紹介部分を抜…

つづいていくよ~ジョナゴールド『Hi-Score』×堀米薫『この街で夢をかなえる』

Hi-Scoreアーティスト:ジョナゴールドリンゴミュージックAmazonいつも聴いているラジオ番組*1のアイドル楽曲紹介コーナーで、ジョナゴールド「Oh! sunshine」「後悔のしるし」の2曲が取り上げられていた。アイドル楽曲というよりシティ・ポップど真ん中で好…

阿Q伝承の精神勝利法に衝撃~綿矢りさ『パッキパキ北京』

パッキパキ北京 (集英社文芸単行本)作者:綿矢りさ集英社Amazon綿矢りさは相当久しぶり。 味わい尽くしてやる、この都市のギラつきのすべてを。コロナ禍の北京で単身赴任中の夫から、一緒に暮らそうと乞われた菖蒲(アヤメ)。愛犬ペイペイを携えしぶしぶ中国…

誰にでもオススメしたい上半期ベスト級の2冊~香山リカ『61歳で大学教授やめて...』×石田夏穂『わが友、スミス』

先日行われた5分で2冊を紹介する特殊ルールのビブリオバトルの紹介内容を、読みやすくまとめてみました。紹介なので、ネタバレはありません。 自信を持って選んだ2冊は、実際のビブリオバトルで勝てたのか負けたのか、それも含めてお楽しみください。 読んで…

福祉は届くべき人に届いているのか?~入江悠監督『あんのこと』

河合優実は、実は"問題"のドラマ「不適切にもほどがある」でしか観たことがなく、映画では初だ。 つい先日観た『ミッシング』(石原さとみ主演)とは以下の点で似ており、その比較の中での鑑賞となった。 実際の事件をもとにしている。 主演女優の演技が映画…

青春ストーリーとアンチ・ストーリー~映画『違国日記』×漫画『違国日記』

瀬田なつき監督『違国日記』 そもそもこの映画を観た理由の90%がガッキー。 『正欲』で死んだ目をしたガッキーを見て、その魅力の虜になった自分は、『違国日記』の予告編を見て、あの「死んだ目ガッキー」の「その先」の姿に激しく惹きつけられた。 『違国…

手札の多さが底知れない~青崎有吾『地雷グリコ』『11文字の檻』

名前は知っていましたが、初めて『地雷グリコ』で青崎有吾を知り、他の作品にも手を伸ばしたので、まとめて感想を。 『地雷グリコ』 地雷グリコ (角川書店単行本)作者:青崎 有吾KADOKAWAAmazonもともとはアトロクで池澤春奈さんが激推ししていて知った本。物…

映画を先に観ていなければ受け入れられなかった小説~柴崎友香『寝ても覚めても』

寝ても覚めても 増補新版 (河出文庫)作者:柴崎友香河出書房新社Amazon観てから読むか、読んでから観るか、よく聞く話だが、この作品については、映画が先で正解だったのではないか、という気がする。 原作小説は、これは劇薬だ。 特に「なんだこれ!?」とい…

どんな組織でも起き得る事態~イルケル・チャタク監督『ありふれた教室』

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を得ていく。ある時、校内で盗難事件が相次ぎ、カーラの教え子が犯人として疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自に犯人捜しを…