いつも聴いているラジオ番組*1のアイドル楽曲紹介コーナーで、ジョナゴールド「Oh! sunshine」「後悔のしるし」の2曲が取り上げられていた。アイドル楽曲というよりシティ・ポップど真ん中で好みだったので、この曲が収録されているEP『Hi-Score』を確認したら丸ごと5曲捨て曲無し。どの曲も詩曲ともによく聴くほどに味が出る。5曲目「つづいていくよ」なんかは名曲の類。
ただ、「ジョナゴールド」はりんごの品種名。女性ミュージシャンによるコーネリアス的なプロジェクト名だとしても、変わった名前だとは思っていた。
そんな時に、たまたまこの本に出会い、ジョナゴールドだけでなく、しばらく前からテレビで見かけていた王林も、ともに、かつて「りんご娘」のメンバーであったこと、また、りんご娘のメンバーの名前はりんごの品種名を採用していたことを理解した。そして、この本自体、そんな蘊蓄に止まらない、とても読み応えのある内容だった。
この本のメインはタイトルにある通り「リンゴミュージック」なのだが、さらに突き詰めれば、すべては社長の樋川新一氏に行き着く。
「地方アイドル」の概念がほとんどなかった2000年当時に、地域活性化と農業活性化を目的に、芸能スクールを「月謝を取らずに」始めようとする挑戦心もすごいが、父親から継いだ自動車会社の経営もありながら、経験もない中で、自ら作詞作曲まで手掛けてしまうという点には本当に驚いた。
新潟の古参アイドルNegiccoのConnieさんなど、地方アイドルをサラリーマンが副業で支える実例というのも知ってはいたが、Connieさんの場合は、元々趣味で楽曲制作をやっていて、そこからアイドルへの楽曲提供にスライドするという自然な流れ。
樋川氏の場合は、
アイドル立ち上げるぞ!
→楽曲がないし、お金もないので、自分で作るぞ!
という、悪い言い方をすれば「泥棒を捕らえて縄をなう」ようなやり方。
しかし、中心人物の熱量の凄さがあったからこそ、万年資金不足のリンゴミュージックは快進撃を続ける。
樋川氏の熱意に打たれてワンピースのように人が集まっていくのは、ある意味爽快だ。
- クラシックバレエ出身でダンス指導の工藤由佳子(のちに樋川氏と結婚)
- スクール生の全面的指導にあたる藤本盛三(樋川氏の小学校時代の吹奏楽部顧問)
- 劇団の脚本や作詞、MV制作などを手掛ける下田翼(活動をきっかけに弘前に移住)
- りんご娘が2016年に優勝した「愛踊祭」の審査員という立場から楽曲提供、その後弘前に移住する多田慎也(シンガーソングライターで嵐、AKB48などへの楽曲提供(代表曲は「ポニーテールとシュシュ」か)も多い)
- 2018「愛踊祭」の審査員という立場から、その後多くの楽曲の振付に携わることになるHIROMI
こういった分野毎のプロフェッショナルだけでなく、OGによるサポートがあるのも、リンゴミュージックを応援したくなる要素だ。この本の中で、何度も登場する、いわばレジェンドメンバーである「初代ジョナゴールド」は、一時期、看護学校に通いながら事務所の仕事を手伝っていたという。
そして、アイドルの活動の軸足がブレず常に弘前(青森)であることが、りんご娘というアイドルグループの最大の魅力なのだろう。
- 「ラストアイドル」出演後、秋元康プロデュースのアイドルとして活動後、東京ではなく青森を選び、りんご娘に戻る王林(2017)
- コロナ禍で初の全国ツアー中止など活動がストップする中、打ち出した「半農半芸」の活動に対する反発とユーチューブ神回(2020)
- さらに続くコロナ禍の中で、FOURsと呼ばれたメンバー4人全員の卒業(2022)
こういった様々な出来事を踏まえて、りんご娘卒業後に、全国区で知られるようになった王林が、現在も青森のアピールを続けているのを見、また、青森発信のポップミュージックを続けるジョナゴールドの音楽を聴くと、また感動もひとしお。
樋川氏は、「リンゴミュージックを100年続けていく」ことを目標に掲げているというが、その情熱と20年以上の実績を見ると、嘘っぽく感じず、むしろ納得。現在の新生りんご娘をはじめとするリンゴミュージックの音楽や、王林の活動にも今後も注目していきたい。
*1:アフター6ジャンクション

