年末年始はせっかくなので、原作結末を知らないために後回しにしていた「【推しの子】」の実写ドラマを追いかけて、原作ラストもカバーするという映画版を見ることにした。
12/30-31の帰省の新幹線往復+αでドラマ8話までを復習し、1/1に映画を観るという強行軍で辿った結果、大変満足しました!
ただ、最初に結論を言っておくと、この満足感は、あくまで実写ドラマとしての【推しの子】プロジェクトに対して感じたものであり、ストーリーを評価するものではない。さらには、歌の持つ力がプロジェクト全体を盛り上げたと思う。
以下、ドラマのキャストの素晴らしさについて振り返りたいと思う。
有馬かな
もともと「【推しの子】」は、アニメは2シーズンまで履修済み(3期は現時点では放映時期未定)なので、基本的なキャラクターとストーリーは知っているものの、原作未読のため、ラストを知らないという状況。
実写化については、勿論知ってはいたが、前述の通り、原作読み終えてから観てみようかな?という程度の熱意だった。ただ、ポスターなどで見るアクアがイメージ通り過ぎて(知らない役者ということもあり)気になってはいた。
そもそも、元々知っていたキャストは齋藤飛鳥とあのちゃんのみ。
そんな中、観る決め手となったのは、アクアに加えて、有馬かなを原菜乃華が演じることを知ったことだった。
原菜乃華は「真犯人フラグ」(2021)と「すずめの戸締まり」(2022)で完全にその人物を認識したあと、「波よ聞いてくれ」(2023)で、この人は漫画的なオーラをまとった演技をして、元のキャラクターが漫画的であるほどポテンシャルを発揮すると感じていた。(個人の感想です)
その原菜乃華が、「推しの子」でも最も目立ち、最も漫画的なキャラクターである有馬かなを演じる、しかもB小町でアイドルを演じるのは理に適っている!
と期待を膨らませて見たら、有馬かなそのままだったので驚いた。
そして何よりすごいのは、アイドル経験のある他の2人と比べても遜色ないレベルでアイドルをやり切ったこと。
卒業ライブには涙しました。
アクア
ドラマ序盤は、アニメで見たアクアのまんまだと感じるのと同時に、もしかして感情を出さない演技は簡単なのでは?という疑問も持った。
ところが、有馬かなやルビーなど、より漫画的なキャラクターとの絡みも自然にこなし、泣く演技まで含めてほとんど不満がなく、安定、というか完璧だった。
観るまで全く知らなかったが、演じる櫻井海音の父親はミスチル桜井和寿だという。彼自身も芸能人の両親を持ち、役と重なるところがある、ということも含めて凄味を感じる。
なお、見終えてから【推しの子】プロモーションのためのYoutube動画をいくつか見たが、性格的にも良さそうで、今後の活躍も楽しみです。
星野アイ
『映像研には手を出すな』(2020)のドラマと映画を観て、齋藤飛鳥は巧い役者と思っていたが、その期待通り、ドラマ第一回から全く違和感がなく、映画では、神々しささえ感じさせた。
結局、このドラマは、アイ役に「伝説のアイドル」としての説得力がないと、物語全体が緊張感の欠けたものになってしまう。しかも刺されるシーンや歌唱シーンは何度も繰り返される。アップのシーンも多い。
にもかかわらず、不満を感じずに観られたのは彼女の持つ天性の「アイドル性」故なのだろう。
「映像研」のときは現役アイドルだった齋藤飛鳥も、昨年卒業して、今は女優活動がメインということだが、他の出演作も観てみたいと思った。(乃木坂としての活動はあまり知らないのです…)
黒川あかね
茅島みずきは、櫻井海音と同様、今回の映画で初めて認識する俳優なので、特に気にしていた。しかも黒川あかね自身が「憑依するタイプの演技を得意とする」という意味で一番の難役。
特に、恋愛リアリティ番組「ガチ恋」のときに、アイになり切るシーンをどう演じるかが気になっていたが、このあたりは演技というよりも、日光などの演出でこなして交わされた感じ。
ただ、アクア、有馬、ルビーなど、それぞれ癖の強い他キャラとの1対1での絡みも違和感なくこなし、B小町の3人との配置から考えても、やっぱりこの人がピッタリだったと確信できる。
MEMちょ
あのちゃんは何でもできるし、元々、MEMちょというキャラ自体の立ち位置は完全にハマり役だったので、何も気にしていなかった。
実際、漫画と比べても全く違和感がなかった。
素でやっているのかと思ったら、本人は、「MEMちょとは性格が正反対だから役作りには苦労した」のだという。多忙な人だが、声優や役者での活動ももっと見てみたい。
ルビー
ここまで書いてきたように、出るキャラクター出るキャラクターすべてが100点満点以上を叩き出す中で、ルビー役の齊藤なぎさは、合っているのか合っていないのか最後まで判断がつきにくかった。
登場シーンでは、ストーリーを追いながら、他にもうまく演じることが出来る人がいるのではないか?と不憫に感じ、周囲から浮かないように頑張れ!と応援する側に回っていた。
ところが、それは「天真爛漫」というキャラクターを作り過ぎていたことが災いしていたようで、吾郎先生の遺体を発見する7話以降は、演技が自然になる。
さらに、生まれ変わる前の天童寺さりなが多く登場して以降は、「さりなブースト」がかかり、物語に入りこめたし、アクアが雨宮吾郎であったことを知る映画の中でも一番の名シーンでは泣いた。
また、B小町の3人は、演技というよりライブパフォーマンスが物語上でも非常に重要な位置を占めており、アイドル経験のある彼女の強みは十分に発揮されていたと思う。
最初は、スタッフロールでの齋藤飛鳥、齊藤なぎさと、微妙に漢字の違う2人の「さいとう」が並ぶのを見て、M-1グランプリの令和ロマンの「刀Y」を思い出して笑ったり等していましたが、齊藤なぎさの名前は覚えました。次回、他の作品での活躍も観てみたいです。
雨宮五郎&天童寺さりな
メインキャラクター以外では、この2人が本当に良かった。
特に、さりなちゃんを演じた稲垣来泉が素晴らしく、物語後半では、ルビーの中に彼女を見たし、ルビーとアクアが抱き合うシーンでは、成田凌との2人のコンビが重なって見えた。
もちろん神木を演じる二宮和也も良かったが、破たんしたストーリーに絡み過ぎているので、プラス評価というよりは、傷を最小限に抑えたという意味で重要な役回りをうまく演じたと感じる。
音楽
最初に書いたように、映画【推しの子】は、ストーリーというより音楽に感動した部分が大きい。特に、自分は松岡茉優&伊藤沙莉のドラマ「その「おこだわり」、私たちにもくれよ!!」の最終話で、松岡茉優がモーニング娘。16のメンバーとしてライブに出る流れが大好きなので、原菜乃華にそれを重ねて見た。
もしかしたら、本編以上にB小町のドキュメンタリーの方が好きかもしれない。
www.youtube.com
なお、B小町の楽曲は、アニメで使用されていた「サインはB」(作詞作曲は大石昌良!)以外で、3曲あり、いずれも全力投球されたアイドル曲で楽しい。特に、有馬かな卒業コンサートのシーンでもメインで使われた「SHINING SONG」が感動的な歌詞。
彼女たちはMステにも出たのだから、十分にリアルのアイドルと言えると思う。
また、その他の楽曲群も本当に素晴らしい。8話それぞれの主題歌として、物語や登場人物をなぞったような歌詞がふんだんに使われた曲が配置されるが、あのちゃんがI'sとして提供した「Past die Future」(第4話の主題歌)や水曜日のカンパネラ「動く点P」(第7話の主題歌)が特に好き。
ということで、ここまででも良いのだが、今後、原作漫画を読むときのために、映画で感じた物語への不満を書き残しておきたい。
物語の不満点
【推しの子】の物語は、アニメの第2シーズン(ドラマで言うと6~7話)までは、物語として非常に巧いが、それ以降の展開は本当に謎だ。
- アイの死に関する経緯を映画化するという展開に無理があり過ぎるし、それを、実際に現場の近くにいた実子2人が演じる、というのが、もっとあり得ない。
- 映画化に関して死者(主演候補の女優)が出ているのに、何事もなかったかのように製作が進行するのもおかしいし、なぜ神木が彼女を殺す必要があったのかも、自分には理解できなかった。
- 神木の犯行について鏑木プロデューサーが知っているかのような描写もよくわからないし、もし噂レベルでも広まっていれば、彼がのうのうと芸能活動を継続することは難しいはずだ。
- 試写会会場で火事が発生し、その間にアクアが刺され、ルビーは眠らされて誘拐される、という流れも、少人数での犯行が可能な内容とは思えない。また、刺されたアクアが動き回り過ぎなのも解せない。
- 少し遡って、アクアが黒川あかねをさらに利用して(GPSまでつけて)真犯人(神木)に辿り着く、というのもアクアの人間性が疑われるし、黒川あかねが実力行使(殺人)に出ようとしてしまうところも怖い。
- さらに遡ると、今回の実写映画の描写では、妊娠をめぐる流れがおかしいように感じた。(十分にお腹が大きくなってから、「生理が来ない」と宮崎の産婦人科を受診し、産むかどうかを判断する、というのは色々と順番がおかしい)
- アイが五反田監督にすべてを打ち明けてしまっている部分もよくわからない。
このあたりの展開を、ドラマ、アニメ、もしくは原作漫画で毎週待って続きを読むのでは、途中でリタイアしてしまう可能性も十分にある。その意味で、映画でこの流れを一気に見せるのは正解だったように思う。
アニメ第2シーズンのラストで出てくる新キャラが、実写映画には出てこないように、カットされた要素は多いのだろうが、全体として無理があり過ぎる点は変わらない。
このあたりは改めて原作漫画を読んでみたい。