Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

映画

関心を持たざるを得なくなるドキュメンタリー映画~『ビヨンド・ユートピア 脱北』

映画を観に行くシチュエーションというのは自分には2パターンあって、見る映画が完全に決まっている場合と、映画を観に行く日と時間だけ決まっている場合がある。 映画が決まっていない後者の場合でも、常に観たいストックはたくさん貯めているので、あまり…

2つのパープルと苦手意識~映画『カラーパープル』×大河ドラマ『光る君へ』

『カラーパープル』は公開初日に観たのだが、鑑賞前に、映画.comでの感想を流し見して「誰にも共感できなかった」と書いている人がいるのを目にした。黒人差別という、構造的にはわかりやすいはずの問題を扱っていて「共感できない」ということがあるのだろ…

尋常じゃない「聡実くん」祭り~綾野剛・齋藤潤主演『カラオケ行こ!』

チラシを見たときから「これは、漫画そのままでは?」と思っていた。未読だったが、原作漫画の存在は知っており、和山やま作品も『夢中さ、きみに。』を読んだことがある。チラシの2人は漫画の2人にイメージ的にぴったりじゃないか。 実は初めて原作漫画を読…

前澤友作の世界平和の語り方~『僕が宇宙に行った理由』

映画を見るときにネタバレを避けるためレビューは読まないが、映画.comやFilmarksで、どの程度の人が観て、★5つを満点として何点くらいついているのか?というのはどうしても気にしてしまう。 本作『僕が宇宙に行った理由』は、『プペル』のように「信者」的…

2023年下半期の振り返り(映画、本、音楽、そのほか)

もう年が明けてしまったが、昨年同様、年間の振り返りを行おう。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 映画(下半期ベスト、年間ベスト) 映画については上半期のまとめを7月に行っていた。pocari.hatenablog.com下半期に見たのは以下の12作品。 7…

役所広司演じる「平山さん」の禅と欺瞞~ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』

年末の帰省の際、名古屋駅周辺で時間を使う必要があり、上映時間スケジュールが、予定とぴったり合う、この映画を観に行った。自分の中ではディズニーのアニメ映画『ウィッシュ』が最有力候補だったが、一緒に観に行く息子に断られてこちらに。ヴィム・ヴェ…

戦争ではなく現代日本の問題として〜『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

2023最後の映画鑑賞は『ゲゲゲの謎』。 あまりに評判が良い上に、 2回見た知人からも繰り返しオススメされたので行ってきた。 前評判の高さがハードルを上げた部分もあったが、 全体を通して見ると過剰に興奮するような場所はなく、 何となく聞いていたもの…

差別・偏見とトットちゃん~佐々涼子『ボーダー 移民と難民』×映画『窓ぎわのトットちゃん』

佐々涼子『ボーダー 移民と難民』 ボーダー 移民と難民(集英社インターナショナル)作者:佐々涼子集英社Amazon佐々涼子さんの本は、昨年5月に『エンドオブライフ』を読んで非常に考えさせられたが、最新刊『夜明けを待つ』のあとがきで、佐々さんの現在の状…

世界は変わる、変えられる〜ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』

ドキュメンタリー映画ではあるが、キャラクターが立っており、その特殊な状況から、メイン登場人物たちが、最後まで無事でいられるのか、ハラハラしながら観た。 映画で特にスポットが当たるのは、新聞社「カバル・ラハリヤ」のミーラ、スニータ、シャームカ…

原作小説の「アンチ多様性」要素は映画でどう表現されたか~岸善幸監督『正欲』

原作小説を読み返して 正欲(新潮文庫)作者:朝井リョウ新潮社Amazon今回は、映画公開に備えて原作小説を読み返してみると大きな発見があった。 前回読んだときの感想は、その後、ビブリオバトルで発表することも考慮して、後半部のストーリーを避けるような…

怖い!楽しい!カッコいい!VFX技術ってすごい!山崎貴監督『ゴジラ-1.0』

劇場公開初日に観てきました! 怖い!楽しい!カッコいい! 何度も乗りたくなるジェットコースター的な映像美に満ちた作品でした!ただ、不満点もありましたので、良かった点(ゴジラプラス)、悪かった点(ゴジラマイナス)とに分けて感想を書いてみました…

「なかったこと」にはできない思い~石井裕也監督『愛にイナズマ』

終わってみれば王道の枠内だったが、内容を知らずに「高評価のコメディドラマ」だと思って観に行ったので、どう転がるのか分からないうちに一気にエンディングへ。 皆が嘘を抱えて生きている。 嫌なことは忘れ、世間の常識に自分を合わせて暮らしている。 そ…

「道徳」的な映画だろうと思って観たら今年ベスト~森達也監督『福田村事件』

『福田村事件』は、公開初日に観に行こうかとも思っていた映画。 しかし、少しずつ行く機会を逃し、また、アトロクの映画評も聴いてしまったおかげで何となく観た気にもなったことに逆に不安を感じ、無理矢理予約を入れた。 結果として、今年ベスト1級の作品…

全然わかりませんでした…~グレタ・ガーウィグ監督『バービー』

もともと、映画『バービー』は、予告編を何度も観たが興味が湧かず、スルーするつもりでいた。 それが、いわゆる「バーベンハイマー」*1での炎上騒ぎで悪い意味で注目される一方で絶賛評も多いことから、少しずつ気になっていったが、決め手は、もう一つの炎…

怖いムロツヨシを求めて~吉田恵輔監督『神は見返りを求める』

今年のNHK[大河ドラマは『どうする家康』では、8/13放送回で小牧・長久手の戦いの前半部を放映。 ついに対決する徳川家康と豊臣秀吉。 その豊臣秀吉を演じているのがムロツヨシだ。これまでも怪演を見せていたムロツヨシの豊臣秀吉にさらに焦点が当たってい…

ノルウェーの団地×少年少女×超能力~エスキル・フォクト監督『イノセンツ』

公開初日に観に行った! 大大大満足! 事前に予告編等は見ていなかったが、『わたしは最悪。』の脚本を手掛けたエスキル・フォクト監督の作品であることに加え、団地×超能力×少年少女というキーワードで既にノックアウト。さらには、「ある日本漫画」にイン…

2023年上半期の振り返り(映画)

あっという間に7月も下旬に入ってしまったので、2023年上半期に見た映画のベストを。 なお、去年は上半期、下半期とも振り返りを行っていましたので、今後も半年ごとに継続したい。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 上半期に見た映画は以下の通…

傑作アニメVS実写の魅力~『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』VS『フラッシュ』

6/16(金)公開の2つの映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』、『フラッシュ』は両方ともアメコミ原作ということで、公開前から何となく比較してしまっていたが、実際に見るとテーマの共通点・相違点がはっきりしており、両方見て良かった…

ラストを除いて大満足~『M3GAN』

最初に予告編を観たときから数か月、映画館で毎回予告編を見て、「これは絶対に行く!」と決めていた 『M3GAN』を公開初日に観てきました! ラストの違和感を除けば、最高に面白い映画でした。 ケイディとミーガン とにかく、ミーガンの相手役のケイディが素…

ほんとうのさいわい~是枝裕和監督・坂元裕二脚本『怪物』

是枝監督作品はそれほど見ていない。 それでも今作のタイトルにはとにかく惹きつけられたし、少年2人が楽しそうな予告編との「怪物だーれだ」という言葉の組合せはインパクトがあった。 残念だったのは、実際に見る前に「文脈」を意識せざるを得ないキーワー…

個人的好みから外れた「絶対安全コナン」~『名探偵コナン 黒鉄の魚影』

公開時期から少し遅れて4/29に観てきました! 総評 展開が早く、隙なくまとまって面白かった。登場人物の豪華さとテンポだけで言えば、コナン映画の中でもベストと言えるかもしれない。 灰原がさらわれて本題に入るのも早く、映画恒例の「楽しく華やかな(で…

終わらせ方への違和感と「犯人の動機を報じるな」問題~ダニエルズ脚本・監督『EVERYTHING EVRYWHERE ALL AT ONCE』

経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。 いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)…

イランとトー横と境界線~アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危…

何度聴いても飽きないUNION~『SSSS.DYNAZENON』全12話×『SSSS.GRIDMAN』全12話の感想

大好きだったグリッドマンの劇場版。 当初は続編の『ダイナゼノン』を観ていないのでパスするか…と思っていたが、あまりに評判が良いので、『ダイナゼノン』全12話を見て、さらに全部見るつもりのなかった『グリッドマン』全12話を見返し、劇場版に備えた。…

心に貯まる風景・言葉~映画『エンドロールのつづき』×井戸川射子『ここはとても速い川』

『エンドロールのつづき』 インドのチャイ売りの少年が映画監督の夢へ向かって走り出す姿を、同国出身のパン・ナリン監督自身の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。 平日に映画を観に行く場合は、作品以上に上映開始・終了時間が重要で、3つくらいの候補の…

三浦透子の横顔が印象に残る~玉田真也監督『そばかす』

前向きになれる映画だった。 事前情報としては、主人公がアセクシュアルであるということ以外は、アトロクの年末映画特集(放課後ポッドキャスト)で名前が挙がったことくらいしか知らず、その意味では色んな映画に出ずっぱり*1の三浦透子を見るのが一番の目…

2023不満初め~原恵一監督『かがみの孤城』

最初、『かがみの孤城』をアニメ映画でやるというのを知ったとき、「本屋大賞を取っているし、辻村深月作品はよく映画化されるね」と思った程度で関心は薄かった。絵柄を見ても、全く惹かれない。 ところが、アトロクでアニメ評論家の藤津亮太さんが激賞して…

2022年下半期の振り返り(自転車関連、ドラマ、映画、音楽)

2022年上半期はまとめをしたので下半期もまとめをしようと思います。 下半期は大きな傾向がいくつかあります。 自転車関連マイブーム(本) 引き続きフェミニズム関連(本) ドラマを多めに見た 映画をたくさん見た pocari.hatenablog.com 自転車関連ベスト …

岸井ゆきのとガラーン感~三宅唱監督『ケイコ 目を澄ませて』

生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコは、再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。嘘がつけず愛想笑いも苦手な彼女には悩みが尽きず、言葉にできない思いが心の中に溜まっていく。ジムの会…

「音のない世界」とか言われても困る~好井裕明『「感動ポルノ」と向き合う』

「感動ポルノ」と向き合う: 障害者像にひそむ差別と排除 (岩波ブックレット NO. 1058)作者:好井 裕明岩波書店Amazon 今回読んだ好井裕明さんのブックレットは、タイトルに書かれている『「感動ポルノ」と向き合う』という主旨が独特で、そこに自分はとても共…