Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

あしかVSリングVSちくわ~三浦晴海『なぜ「あしか汁」のことを話してはいけないのか』

完全にタイトルに惹かれて読んだホラー小説だったが、良かった。
期待度と満足度、そして全体ボリュームがバランスした読書。
カクヨム発のホラーだというが、こういうエンタメに徹した小説が心地よい。


簡単な流れはこのような感じになるだろうか。

  • 周囲で起きる不可解な死
  • 謎を解くための手がかり
  • 謎の解明(第一段階)※地域の歴史
  • 協力者の死
  • 謎の解明(第二段階)※(自らの行動選択の)他者の死への関わりを自覚


最近のホラーブームには乗り遅れているので、かなり頓珍漢な指摘かもしれないが、これは、あれじゃないか!『リング』じゃないか!


ただ、『リング』と比べると、(自らが動き回って疲弊するが故の)追い詰められていくような怖さはなく、作り手が、複数の情報をどう組み合わせれば怖さが倍増するかを分かって作っているような感じがする。昭和のアイドルソングと最近のアイドルソングとの関係にも似ている。(両方とも好きです)
既にデフォルトの化学調味料が存在していて、消費者側も、自分の好みにあった味付けの物語を選ぶようなイメージ。
それでは、今回、その化学調味料は何だったのか?



(以降、少し直球のネタバレを…)



まず、怖さを引き出す化学調味料①は、「太平洋戦争中の隠されていた新兵器研究」だった。
これは常套手段で、たとえば、もはやホラーという認識の、漫画『劇光仮面』も序盤、戦争ネタをかなり引っ張って、怖い雰囲気を醸し出す。
それが成り立つのは、「戦争」が「命を失うかもしれないもの」であるから、ではないように思う。日本人にとって、太平洋戦争は、国が主体的に多くの人の命(敵味方関係なく)を奪った直近の記憶であり、「罪悪感」を刺激するものだから、怖さにつながるのではないだろうか。

そして『あしか汁』も『リング』も、自らが被害者の立場から加害者(をサポート)の立場に入れ替わるポイントが用意されており、やはり加害者としての「罪悪感」は恐怖のひとつの類型なのだろう。


そして、怖さを引き出す化学調味料②は「人肉食」だった。
これもホラーとしては昔からよくあるものと言えるのでは?ただ、地域の歴史や祈祷、呪術を用いた兵器という組み合わせ方に面白さを感じた。
ところで、読み終えて、結局、なんで「あしか汁」というネーミングだったんだっけ?と読み返してみた。

「あしか汁は……アシカのスープではない?それは、今まで食べたことのない物を説明するため、仮にそう名付けたに過ぎなかった?」
p165

という程度の書き方しかしておらず名前の由来に触れられていなかったが、これは明確に「足かじる」から来ているんですよね。
そういう意味では、タイトルの時点で気がつく人もいるくらい、「フェア」な謎の提示の仕方かもしれない。
ちょっとタイトル的には「あしか」VS「ちくわ」を対決させてみたいけれど、「ちくわ」は本当に、死ぬほどちくわが出てくる小説で、あれはあれでフェアだった。(笑)
pocari.hatenablog.com


次は、こうしたカクヨム発ホラーということで、まずは近畿地方を、そして『右園死児報告(うえのしじほうこく)』というのも読んでみたい。あと『リング』。


「アイドルのそれから」と「これからのアイドル」~深田晃司監督『恋愛裁判』

「淵に立つ」「LOVE LIFE」の深田晃司監督が、アイドルの恋愛禁止ルールを題材に描いたオリジナル作品。恋愛禁止ルールを破ったとして裁判にかけられる女性アイドルの姿を通して、日本で独自に発展したアイドル文化と、その中で暗黙の了解とされてきた「アイドルの恋愛禁止」問題について切り込んだ社会派ドラマ。深田監督が「元アイドルの女性に賠償命令」という新聞記事に着想を得て、構想から10年をかけて完成させた作品で、主演をアイドルグループ「日向坂46」元メンバーの齊藤京子が務めた。

まず簡単な感想

運良くアトロク主催の試写会に当たったので公開日より2週間早い1/9に観ることができた。
深田晃司監督作品は『LOVE LIFE』しか観たことがなかったが、ロケ地の団地を訪問したりと、思い入れの強い作品だったので、本当に嬉しく、期待のハードルも上げていた。

実は、観た直後は、「あれ、ここで終わるのか?」という感じがあった。
というのは、間山(倉悠貴)に思い入れを持って見ていたせいで、2人が別々の道を歩むことがはっきりしてからラストまでの流れにすぐに付いていけなかったからだ。
なので、映画を観た直後に、深田監督と宇多丸の対談があって本当に良かった。ここでやっと映画を上手く受け止めることが出来た。
要は、5人から成るアイドルグループ「ハッピーファンファーレ」のうち、寮に入っていた3人が、それぞれどんな道を選択するのか(→アイドルのそれから)、そして、真衣は「恋愛裁判」で何を勝ち取りたかったのか(→これからのアイドル)、という視点で観るのが正解だったのだ。しかし、自分は、そのレールにしっかり乗れなかった。

少し掘り下げた感想

まず、主役の真衣を演じる齊藤京子が、演技は巧いが、『この夏の星を見る』の桜田ひよりと同様、芯の部分に暗さがある(太陽と月で言えば月のイメージの)俳優*1なので、(個人的好みから)少し距離を置く見方となった。


むしろ、じっくり見るのが初めての倉悠貴に視点が行く。
実は、倉悠貴は、『六人の嘘つきな大学生』(未見)の6人のうちの1人であることでその存在は認識していたが、一週間前に初めて予告編を見て『恋愛裁判』に出演していることを知った。
直後に、映画館で『ロマンティックキラー』を見たら、『君の名は。』テイスト男子として登場し、『教場』予告編*2でも一瞬顔が映っていたので、完全に初めての齊藤京子よりも、興味が行きやすい状態だったのかもしれない。
美形ながら冷たそうな顔立ちは、若い頃の山田孝之も思い起こさせ、ちょっと不思議な感じ。
パントマイムやジャグリングは、表情だけは巧くこなしている空気を出しているが、実際にはあまり上手くないことが素人目にも分かった。しかし、逆に肩入れして、応援するように映画を観ていた。*3
だから、真衣単独ではなく、真衣と間山がセットで幸せになることに、自分の興味関心が集中してしまった。そこに、終盤の展開についていけなかった理由があった。


そもそも『恋愛裁判』というタイトルで、裁判を扱った映画が、「和解」でラストを迎える、ということなどあり得ない。「勝つ」か、芸能事務所側の悪を十分に見せた上での許せない「負け」なのか、のどちらかだろう。
しかし、間山に加えて、自分は事務所側の肩を持ってしまった。津田健次郎唐田えりかも「悪」には描かれておらず、社会人として比較的真っ当に見えてしまったこともある。
事務所の言うことに逆らわない、という意味では、ハピファン3人の中では「菜々香」に近い立場と言えるかもしれない。(が、菜々香には全然共感できなかったのですが…)


事務所の言い分もわかる…
損害賠償を払うという最悪の結末は受け入れられない…
それなら弁護士の言う通り、2人とも若いのだから、和解してやり直すのが良いのではないか?真衣は裁判を続けたいというが、意地を通す意味があるのか?


しかし、物語は周到に作られており、観ているときは気がつかなかったが、実際には、ダンススタジオでの練習シーン以降は、ラストまで一本道で分かりやすく出来ている。

アイドルを目指す子どもたちと話をして、「彼女たちの未来のために」という気持ちで行動することを決断。
→線路脇での、間山との会話で、さらに自分の気持ちを最終確認。
→和解を断り、「恋愛禁止」自体を人権侵害とする別訴を起こす。

この展開の意図がしっかりと分かっていれば、ラストまでの流れは自然。
真衣、菜々香、梨紗、三者三様の選んだ道についてが、最終結審後の車内の会話で分かる。
なお、対立するような道を選んだ真衣と菜々香の対決シーンは緊張感があって良かった。また、菜々香の謝罪配信シーンは、ホラー映画かと思うほどの怖さがあった。ラストにかけては、真衣と梨紗の2人の会話です済むが、菜々香の名シーンも多い。


試写会を観たあとの3連休は、ちょうど高校サッカーの準決勝、決勝を観たが、選手たちのJリーグ内定など選手たちの今後の話と合わせて、小中学生との交流など地域での活動の話題も多かった。
つまり、これからサッカーで高みを目指す子どもたちへ夢をつなぐように、選手権が機能していることがよくわかり、『恋愛裁判』で、真衣が別訴を起こした理由も今さらながら伝わってきた。
ただ、振り返って考えると、直近で観た法廷物が『ブルーボーイ事件』だったのが、ラストまでの流れで物足りなさを感じた一番の原因かもしれない。
ブルーボーイ事件』では、主人公が法廷に立ち、カメラに向かって、まさに基本的人権について熱弁を振るうシーンを観て、嗚咽級の涙を流してしまったので、同様のシーンを期待していたところがあった。そこは少し残念だった。


なお、試写会上映後は、深田晃司監督と宇多丸さんの対談があり、とても興味深かった。監督が、色々なことを意図して脚本を練り上げ、演出を手掛け、さらに楽曲の曲調まで決めていることがよくわかった。
そして何より、その誠実さに心を打たれたので、未見の作品はどんどん見て行きたい。まずは梨紗を演じた小川未祐さんが出演している『よこがお』からかな。
あと、監督本人の手によるノベライズも読んでみたい。


*1:個人的感想です

*2:『教場』は齊藤京子も出ているのですよね。観てみたい。

*3:自分がパントマイムやジャグリング経験者であれば、この時点で映画に集中できなかった可能性もある。それが起きてしまったのが『この夏の星を見る』の黒川想矢のサッカー…

「クソ世界」の一員だからこそ諦めたくない~『ネタニヤフ調書』×『オマルの日記』×年始のニュース

『ネタニヤフ調書』とアメリカのベネズエラ侵攻


映画を観たのは11月だったので、かなり前になる。
戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで逮捕状が出ているネタニヤフがどのような考えを持った人物なのかを知るという目的で鑑賞。


しかし、はっきり言って序盤は退屈。
というのも、戦争犯罪の映画だと思っていたのに、高級葉巻やシャンパンの贈賄の話がかなり長い間、続くから。
確かに警察尋問映像の物珍しさはあるが、ネタニヤフの印象は、テレビで見る通り鉄面皮で嫌な奴。という意味では代わり映えしない。


自分のアクセルがやっとかかったのは、ネタニヤフ夫人のサラの登場。
取り調べを受ける立場にもかかわらず、表情、動作のすべてからほとばしる傲慢。
若い頃からの映像が流れるが、年齢と共に「ザ・傲慢」になっていくようにも見える。


そしてダメ押しのヤイル(ネタニヤフの息子)。
朝からずっとネットを見ていると揶揄されていたが、ピュアなネトウヨ陰謀論者。傲慢という以上に、見たいものしか信じない狂気を感じる。
映画では、ネタニヤフは、サラの機嫌をいつも窺っているという言い方がされていたが、サラの溺愛を受けるヤイルも放任で育ったのだろう。


ただ、それでも序盤の話題は、あくまで贈賄が中心だ。
怖くなるのは、2021年6月の総選挙で退陣後、2022年に第1党に再起、宗教極右政党と手を結んでから。
宗教極右のスモトリッチとベングヴィルは、外見も、いかにも漫画で狂信的指導者として描かれそうな怖さを持っていて、発言も強烈だ。
それでもネタニヤフは、自らが裁かれないためにどう動けばいいかということのみを周到に考えて、ガザの紛争を長引かせ、入植活動もさせるがままにし、ガザ以外の周辺諸国(イラン、レバノン、シリア)とも戦争を始める。
スモトリッチとベングヴィルは、宗教的信念から、パレスチナ全域の壊滅を望んでいるが、ネタニヤフは、とにかく収監されたくない一心である、ということが映画から伝わる。
他人の人命、人権に全く興味がないのか、見ないようにしているのか…。



2026年の年が明けてからすぐの1/3に、アメリカがベネズエラに軍事攻撃を行い非難を浴びている。これに対して、ベネズエラマドゥロ政権の問題を挙げ、アメリカの行動を正当化する人もいるが、無血で大統領を拘束したなら、その言い方もわからなくもない。
しかし、民間人を含む100人ともいわれる死者が出ている時点で、(国際法を持ち出すまでもなく)明らかにダメだろう。そこには、彼らの生活があり、夢も希望もあった。それを無にできる権利は、アメリカ大統領にはない。誰にもない。


ミネソタ州でICE職員が女性射殺された事件に対するJ.D.ヴァンスの反応*1もそうだが、トランプ政権の幹部は、揃いも揃って人権意識がないどころか、人命軽視にもほどがある。

また、今回のベネズエラ侵攻は、エプスタイン問題など、進行中のスキャンダルから目を逸らすため、という見方もあるようだ。そうなってくると、葉巻とシャンペンの贈賄に関する捜査をうやむやにするために戦争を続けるネタニヤフといよいよ似てくる。*2


『オマルの日記』と自民党議員のネタニヤフ表敬訪問

…とはいえ、自分の、トランプを断罪しようという気持ち自体が、そもそもヴァンスの言う、極左的言説に影響されている可能性もある。それを避けるためには、ニュース関連情報を見ていても混乱が深くなるだけだろう。(Twitterでのコメント応酬などは特に×)
という意味で、読んだのが、ガザで避難生活を送る、29歳の薬剤師オマル・ハマドのXへの投稿をまとめた本書。


タイトルが「日記」となっているが、SNSであるが故、常に「こちら側」の視線を意識した文章になっている。
読んでいる側に語りかけてくる。

2024年6月7日
虐殺。
この言葉を見て、それが意味すること全体を理解し、その真の姿を思い描くのは難しいのかもしれない。
あなたはスマホで、住人の上に崩れ落ちる住宅や、キッチンと変室の間の廊下で腸を引きずっている子どもの姿を見ただろうか。救助者が近づけず、その体は腐敗している。それから、(略)。だが、こうした苦悩は、それを実際にこの目で目撃すること、その中で生きることと比べたらなんでもない。
ある時僕は、27人分のバラバラになった遺体をこの手で運び、ロバの引く荷馬車に積んだ。その日、僕の心は死んだ。虐殺の中で生きるとはどういうことか、本当のところはあなたにはわからない。
それは燃えるアパートメントのバルコニーに立って、飛び降りて死ぬか、焼け死ぬかしか選択肢がないのと似ている。その喩えですら、僕たちの毎日を正確に言い表してはいない。虐殺とジェノサイドを生きることは、スマホで見るのとは全然違うんだ。
p36

そして、絶望のあまり死んでしまいたい、というのと同じくらいの頻度で、(上の文章以上に)読んでいる側を非難するような言葉も多い。

2024年8月22日
これは僕の最後の投稿になるかもしれないし、ならないかもしれない。別にどっちでも構わない。今あなたは僕が書いていることを読むべきかもしれないし、読まないほうがいいのかもしれない。
戦争の機械が近づいてくる、音が聞こえる、銃声がする。(略)
戦争は今始まったみたいに激しくなっている。今のほうがずっと悪い。この貧者の皆殺しを戦争と呼ぶのは間違っている。
何人の命が奪われれば、このジェノサイドが終わるんだ?何人の子どもが体を黒焦げにされ、引き裂かれれば、この犯罪が止むんこのすべてを終わらせるのに、どれだけの悲しみが必要なんだ?
僕のことばを読む人に訊きたいことがひとつだけある。よく考えてほしい。もしあなたが僕の立場なら、あなたは死を拒みますか?
カウチに座って「無事でいてね、がんばって生き延びて、気をつけて」なんて言ってこないでくれ。そう言った後は、どうせ本のページをめくったり、面白い映画を観たりするんだろう。僕たちはコンテンツじゃない。僕たちは魂だ。毎日、奪われている魂なんだ。
こんなことを書いて心からお詫びする、おまえらクソ世界へ。
p81

また、「実験場」という言葉を使って、イスラエル以外の西側諸国全般を非難する記述も何度も登場する。

2024年8月17日

【関覧注意】涙を抑えられないなら、この続きは読まないでください。
繰り返される強制避難で息がつまりそうだ。100回も殺されるような気がする。(略)
僕たちは完全に疲れ果てている。もう行く場所なんかない。魂も心も打ちのめされている。体は弱り果てている。僕の手は死、殺人、弾圧、苦痛、煩悶以外のことを何も書けない。僕たちがまだ正気を失わず、心臓が鼓動を打ち続けているのが不思議で仕方がない。
僕は死にたい。家族全員と一緒に。こんな世界にもう留まっていたくない。いっそ死んでしまいたい。五体満足で死のうが、バラバラに吹き飛ばされようがどっちでもいい。どんな死であっても、もう構わない。
世界を建設するために地上に送られた人間は、殺人に喜びを見出す殺人者にしかならなかった。ガザはそいつが作るミサイルの実験場となり、見世物にされている
おまえたちを憎む。自分を憎む。すべてを憎む。世界全体が呪われればいい。
p78

2024年10月 25日
ジャバリアで1発の爆弾が13棟の家屋を吹き飛ばし、170人が殉教した。
僕たちは奴らの武器、爆弾、ミサイルの実験場になっている。アメリカと西側諸国はこうした武器を製造し、イスラエルに供与してまるで僕たちが実験用のラットでもあるかのように、テストさせているのだ。誓って言うが、ラットのほうが僕たちよりよっぽど優遇されている。
おまえたちはクソだ。
クソだ。
クソだ。
141


そんなイスラエルとは距離を置いているという認識だった日本でも、年明けに驚くニュースがあった。
小野寺五典自民党税制調査会長および安全保障調査会長)および一部議員が、まさに「実証実験済み」としてイスラエルが売り込んでいる兵器の購入を目的にネタニヤフを訪問した。
オマルの言葉と同様、このツイートも世界に届いているのだと考えるとクラクラする。

このあとのtweetも、あまりにイスラエル寄り過ぎて何なんだろうと思う。


はっきり言って、信じられないし、日本の悪評を高めないでくれと思う。
ただ、そういう風に言う自分も、政治信条の異なる議員の行動を叩くために、カウチに座って『オマルの日記』をコンテンツとして利用しているだけではないか。オマルからは、あまり変わらない「クソ世界」の一員に違いない。


だからこそ、政治家にすべてを委ねたり非難したりするのではなく、個々人が勉強し続けなければいけない。
同様のことは、ベネズエラでもグリーンランドでも、今、大規模なデモ活動が話題になっているイランでも言え、結局は、現場に近い人たちの声に耳を傾け、地域の歴史や周辺国との関係に関心を持ち続ける必要がある。
そうした情報に一般の人が触れにくいからこそジャーナリストが現地に行き、報道や映画、本などの情報として発信してくれている。
僕らは、映画や本という「コンテンツ」としてしか、それが題材にする人たちの「魂」に触れることは出来ないが、諦めないようにしたい。


*1:移民捜査官発砲で市民死亡、バンス氏「正当防衛」とメディア批判 [トランプ再来]:朝日新聞ミネソタ州でICE職員が女性射殺、全米各地で抗議デモ…バンス副大統領「左派の一員で正当防衛」 : 読売新聞

*2:韓国での取り調べを経て新たに明らかになった統一教会自民党の関係。そうしたスキャンダルから逃れるために、高市政権は解散総選挙に打って出ようとしているというが、どうしても通じるものを感じてしまう。

正解はない!試行錯誤しかない!~若月澪子『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』

年末はNHKドキュメント72時間スペシャルを観た。ひとつの場所にカメラを据えて72時間定点観測する内容で、特定の社会課題をテーマにしている番組ではないが、色々な立場の人が語る日々の出来事やそれそれの抱える小さな心配事は、当然実感が強く籠っており、胸に染みた。
www.web.nhk

こうしたドキュメンタリーは、自分とは境遇の違う人たちの生活を垣間見えるところが良いところだ。それとは違って、自分(51歳)と年代が近く、同じ不安を抱える人たちの話を読む面白さを存分に味わった本がこの本。

貧困大国化する日本。本業で稼げなくなり、様々な副業に奮闘する中高年男性を描く。アルミ缶回収、デリヘル送迎、ラブホ清掃、極寒の冷凍倉庫勤務からスタバのバリスタまで、おじさんの副業の悲喜こもごもを活写。


作者のスタンス

プロローグだけでも読むと全体のトーンがわかるが、この本は、当然「おじさんディス」が目的で書かれているものではない。
一方で、「副業で稼ぐコツ」などがあるわけでもなく、作者の立場としては、淡々とフラットに副業に奮闘するおじさんたちの状況をまとめている。
彼女自身、NHKのキャスター、ディレクターから結婚退職し、その後の職探しに翻弄された経験をベースに、プロローグを以下のように締めている。

この本でご紹介する副業探しに惑うおじさんの姿は、いずれも筆者自身が通って来た道、おじさんの苦悩は結婚や出産でキャリアを断たれた女性が味わってきた道でもある。
なにも成し遂げていない自分が偉そうに言うのは気が引けるが、おじさんたちも組織を離れると、個人が想像以上に非力な存在であると気づかされるのではないか。
われわれがこれから戦う相手は、グローバル人材でも、仕事を奪うAIでもない。下り坂を下りていく運命を背負った、自分自身である。おじさんの本当の戦いは、今始まったばかりなのだ。
p10

少年漫画に出てくるような威勢の良いフレーズ*1で前向きに読み進められるのが良い。

さまざまな職種の副業

目次を見ると、本の中でどのような職業について触れられているのかよくわかる。

第1章「副業の森」をさまよう
01 バブル組の終わらない「自分探し」(在宅オフィスワーク
02 「副業の森」をさまようおじさんにありがちな5つのフェーズ(ピザの配達
03 大手製薬会社の研究員も転職・副業には苦戦する(アンケートモニター
04 国家資格の試験会場はおじさんだらけ(マンション管理士

第2章 上流から下流
05 大手メーカーおじさんの「選挙前ならおいしい仕事」(スティング
06 「本業は環境保全活動」と言い張るけど(アルミ缶回収
07 進む晩婚化、元テレビプロデューサーと鑑工船”(倉庫作業
08 ブラジル人と一緒に工場で働くデザイナー(組立工場

第3章 若者に交じって
09 週末のウーバー副業でいくら稼げる?(フードデリバリーの配達員
10 宅配便おじさんの天国と地獄、アマゾン配達員(宅配便の配達員
11 意識高い系女子に交じっておじさんがスタバで副業(スタバのバリスタ
12 「せどり」は本当に稼げるのか?(輸出せどり
13 架空のヨガ美女に2000万円奪われたキャンプ好きおじさん(仮想通貨(暗号資産)

第4章 夜のしごと
14 ラブホテルは利用するのも働いているのも中高年だった(ラブホテル清掃
15 デリヘルの送迎は稼げるのか?(デリヘルの送迎
16 「カネが足りない」年収1000万円の大手営業マン(キャバクラのキッチン
17 LINEからの遠隔指示で風俗店のパシリ(メンズエステの雑用係

第5章 部活のノリ?
18 航空会社イケオジがハマった副業(塾講師
19 不動産会社の営業マンの楽しすぎる管備バイト(駐車場の警備員
20 紳士服業界の営業マンがスーツを脱ぎ捨て居酒屋で週末バイト(皿洗い
21 マイナス20度の冷凍倉庫で11年間副業を続ける50歳(冷凍倉庫

第6章 セカンドステージ
22 こういうおじさんが案外生き残る?(レンタカー清掃
23 原発の警備員として働く61歳が巡り会った理想の副業(放課後等デイサービスの児童指導員
24 元自衛官が4回転職した末にたどり着いたのは...(コンビニ店員
25 月収20万で家族5人、12年の副業 つかみ取ったハッピーエンド(夜の物流倉庫、喫茶店のモーニングの仕込み


とにかく量が多く、複数の副業を経由して辿り着いた職業が紹介されている場合もあるので、自分なんかが考えつくような副業は網羅されている気がする。
これに加えて、一部については体験取材が行われており、実感がこもった内容になっている。

いくつか感想を書くと…


1.当然だが、厳しい職業が多い。
副業バイト経験者が「もう絶対やりたくない」と声を揃える食品工場バイトについては、体験取材の経験談がまとめられている。単純作業というだけならよいのだが、自分のペースで出来ないことが辛いのだという。(P89)自分も学生のときに1日だけヤマザキパンの工場で働いたことがあったが、その通りだと思う。
冷凍倉庫の作業は、時給が高いが、マイナス20度は過酷な環境で、長く続ける人は少ないという。手荒れなどの外に見える症状は当然として、それが原因か不明だが、長期で副業バイトをしていて、就寝中に突然死した人もいると聞くと怖い。(P206)


2.当たり前だが、レートが変わると、全く稼げなくなる職種がある。
これは、アフィリエイトでも実感していたが、ウーバーやせどり、アルミ缶回収など、設定が変わると、同一労働に対する対価が大幅に上下するものも多い。ポスティングも種類によって単価が違って、選挙関連のチラシだと2.5~3.5円だというが、通常は1枚1円前後。もちろん首都圏と地方では単価の設定も異なる。これは辛い。


3.このときに備えて勉強や経験を積んでおけば良かったと思うものがいくつかあった。
居酒屋のバイトは、最近は若い人が減り、留学生や中高年が増えているという。単発の場合は皿洗いなどがメインになるが、時給は高め。ただし、経験者でなければ採用は難しいという。(P198)
教える職業も、紹介されていた放課後等デイサービス*2などの公的サービスは教員免許や保育士や看護師の資格を持っている人が歓迎される。(P222)
逆に、今から資格を取っても(それがマンション管理士ファイナンシャルプランナー中小企業診断士など難関資格でも)それを活かして仕事をしている人も限られる、ということも紹介されていた。(P50)やり方次第なのだと思うが、資格取得自体が目的になってしまう人が多い、ということらしい。

プロローグとエピローグに書かれていること

核となる部分は、プロローグとエピローグに巧くまとめられている。
まずはプロローグで「取材を通して気がついたこと」として挙げられていた3点

  • その1:おじさんは低賃金市場で人気がない
  • その2:すでに地方では副業が10年前からはじまっていた
  • その3:男はつらいよ (→男性の生きづらさ、男性のジェンダー問題)*3

このうち、「その2」の地方の話は、政府が副業を推奨し始めた2018よりも10年前、リーマンショックのときから副業が増えていたという話。上でも少し触れた冷凍倉庫の副業の話は、本業を抱えながら11年続けているものだったし、他にも長期継続事例が多く紹介されていた。実際、紹介されているような多様な仕事も、都市域だからこそで、地方に行けば行くほど選択肢が狭まっていくのだろう。


エピローグでは、多く取り上げられていたエッセンシャルワークの可能性について触れられている。つまり、エッセンシャルワーク*4はホワイトカラーと対極だからこそ、副業として大きな意味がある、というまとめ方になっている。世知辛い話ばかりだと気が滅入るので、明るい終わり方にしたのかもしれないが…。

私たちの社会は「ホワイトカラー信仰」にとらわれ過ぎていると感じる。(略)
エッセンシャルワークは社会における家事労働のようなものだ。誰かがやらなければならない。それでいて賃金は低く、主に女性や非正規労働者、外国籍の人が担っている。

副業はエッセンシャルワークと、ホワイトカラーとの垣根を下げる可能性を秘めているように思う。家庭内で家族が家事を分担するように、さまざまな人が副業として、ホワイトカラー以外の社会的な仕事に関わってみる。そうすることで、こうした仕事の重要性や待遇改善が、自分事になるのではないか。

関連して、4回転職して(最も賃金の低い)コンビニ店員に辿り着いた元自衛官の方が話す、「ありがとうと言われることに幸せを感じる」という言葉が印象的だった。
まずは、どんな仕事の人にも「ありがとう」と言える気持ちを持っておきたい。

サバイブしていくために必要な力

エピローグは、エッセンシャルワークの重要性にややシフトしたまとめになっているが、第6章では、副業やセカンドステージでの生き方に必要な力についても触れられている。

副業探しに迷いながらも、どこかで「答え」のようなものを見つけている人がいる。彼らに共通するのは、3~4つ以上のさまざまな副業を経験していることだ。どんな仕事が自分に合うのか、何が自分を夢中にさせるかは、仕事を渡り歩くことで見えてくるのかもしれない。
こうした「実験」を繰り返せることが副業のいいところでもある。失敗してもいい。困難を味方にして冒険を楽しめる人が、100年時代の勝者になるのではないか。
p210

という部分には、深く頷きながら読んだ。
ちょうど篠原信さんの記事で、同様に「どんな力が必要か?」に関連する内容のものがあった。
「転職おじさん」を念頭に書かれたものではないが、主旨としては共通している。セカンドステージにおいても、試行錯誤できることが重要であると改めて感じた。
note.com

人様のお役に立つ、というのは、簡単ではない。正解のある学校のお勉強とは異なる。役に立とうとして相手を困らせてしまうこともしばしば。そうした失敗も含めて、私たちは工夫と試行錯誤で少しずつ周囲のお役に立ち、貢献していくしかない。
そうした力が、本当の学力のように思う。好待遇を得ようとして学歴をゲットしようという魂胆では、将来、現実世界とのズレが大きくて苦労することになりかねないように思う。


よく、何かを始めることに遅すぎることは無い、というが、始めるべき「何か」は人それぞれバラバラで、失敗してやり直すことにも体力が必要であることを考えれば、あまりのんびりしている時間はない、と、新年早々焦りを感じている2026年正月です。



なお、篠原信さんの記事には続きがあり、以下も参考になる。
note.com

こちらも「教育」を意図して書かれているが、「転職おじさん」に必須の力だ。
言語化」のおこぼれをもらって何かを分かった気になっても仕方がないので、自分の力を見極めるべく、やっぱり少しずつでも行動に移さないといけない。


これから読む本

若月澪子さんの最新作はこちら。タイトルが容赦ないが大丈夫なのか…

おじさんの問題にも触れているという話の話題作も読まなくては…


*1:「本当の戦いは、今始まったばかり」というのは少年ジャンプの打ち切り漫画の最終回の「あるある」であることを考えるとちょっと嫌ですが…

*2:放課後等デイサービスとは、障害を持つ小学生から高校生が放課後に通う学童保育のようなところ。公的補助を受けて民間の事業者が運営する福祉サービスで、2012年に制度が始まって以来、各地で急速に広がっている。

*3:ちょうど聞き終えた「文化系トークラジオ Life」の「文化系忘年会2025」の外伝で、朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』の内容に絡めて「雑談できないおじさん」の話で盛り上がっていたが、自分のことを言い当てられているようで怖い…

*4:今回の『副業おじさん』の主旨とは異なるが、エッセンシャルワークが、副業などの非正規的な雇用を前提としないと成り立たないほど人手不足なのは何とかならないのか。この問題も、地方ほど厳しく、しかも都市域より早く問題が発生しているわけで、おじさん個人の不安ではなく、日本社会将来が不安になってくる。

スラスラ読めてグングン頭が良くなりそうな配信者SF~宮澤伊織『ときときチャンネル 宇宙飲んでみた』

スポーツを題材にした小説や漫画を読めば、試合のシーンでは、主人公らの活躍を応援したくなる。
一方で、小説全編に渡って試合のシーンばかり、ということは無いので、ずっと応援ということは無い。
しかし、この小説は、全編に渡って応援したくなる、何なら投げ銭したくなる一冊。



タイトルからも何となく予想がつく通り、この本は、動画配信の小説。それどころか全編が「配信口調と視聴者コメント」で出来ているのが大きな特徴。6編が入っており、記念すべき配信第1回目から6回目までの道のりを追うことが出来るので、チャンネル登録者必携のガイドブックと言える。
配信者は表紙の2人の女性であらすじは以下の通り。

十時さくらは配信サービス《ときときチャンネル》で同居人のマッドサイエンティスト・多田羅未貴の発明を紹介し、収益化して生活費の足しにすることを目指す。
マグカップで宇宙を飲む? 時間の結晶を飼う? 無限に拡張していく家の中で迷子? 外ロケに出たら異世界へ入り込み、通販でエキゾチック物質をお取り寄せ!
多田羅の発明品が巻き起こすトラブルもこみで、ゆるやかに楽しくお届けします。目指せチャンネル登録者数1000人!
全編配信口調と視聴者コメントで語られる新感覚の百合配信者SF。

表紙の通り、小さいから中学生に間違えられる十時さくらが、ツンデレで身長179cmの天才科学者・多田羅未貴を上手くおだてすかして、彼女の毎回研究成果をネタに配信する。
面白いのは、多田羅さんが作るのが、何か目的がある発明品ではない、ということ。
たとえばドラえもんひみつ道具のように「モノを巨大化させる」とか「時間旅行をする」という目的はなく、科学的興味で、つい生み出してしまったモノが毎回紹介される。
どんなものが作られるか想像できる(想像できない)6編のタイトルのうち5話まではこちら。見てわかる通り、初回からもはや哲学的な領域に入り込んでしまっている。

#1【宇宙飲んでみた】
#2【時間飼ってみた】
#3【家の外なくしてみた】
#4【近所の異世界散歩してみた】
#5【エキゾチック物質雑談してみた】

その特殊な文体を説明するため、たとえば「#2【時間飼ってみた】」から一部引用する。

そんなことできるんですか?自分で時間作れたら最強じゃないですか。
<一日の長さ二倍にしたりできるってこと?><マジで!?><やりたい放題じゃん>そう思いますよね!どうなんですか、多田羅さん。
「他人と比べた自分の時間を伸ばすなら誰でもできるよ」
ほんとに?<どうやるんですか!?>ほら、みんな訊いてますよ。
「速く動けばいい」
どのくらいですか?
「車に乗ってるだけでも何百億分の一秒とかのレベルで時間の流れが遅くなる。光速に近付くほど効果が大きい」
p72

このように、

  • 地の文:十時さん
  • 「」の中:多田羅さん
  • <>の中:視聴者コメント

という記載ルールが最後まで続く。
ちなみに、光速に近付くほど、重力が強いほど、他人と比べた自分の時間を伸ばすことが出来る、というのが相対性理論なので、高い場所に登山すれば百億分の数秒レベルで時間の進みが速くなる。つまり自分の時間を伸ばしたい人は地下に行かなくてはいけない!

このように、発明品というよりは、時間や空間などの概念の説明が多く、そこがむしろSF心を煽って楽しい。
時々、多田羅さんがホワイトボードに図を描いて説明してくれるのも嬉しい。

「君が知覚する世界には限界がある。その限界は光の速度によって決まる。光の速度は不変なので、この壁は絶対に越えられない。その向こうは認識できないし、関わることもできない。
非因果的領域というのはそういう意味」


なお、ここで図に描かれた光円錐については、このあとの「世界線」の解説でも使われる。
ここは、毎回、話題になる「配信者の住所特定」を避けるため#4で多田羅さんが作った「スクランブラー」という処理の説明なのだが、自分も「誤用」の方に慣れているので、とても勉強になる。

えーと、つまり…?
あ、もしかして、別の世界線の映像をカメラに流してるってことですか!
「う~~〜~ん、並行世界と言った方がまだ正確かな」
並行世界って世界線のことですよね
「いや、完全に誤用が広まっちゃってるから言っても無駄だと思うけど、誤用。世界線ってのは本来、時空図を移動する光子の軌跡。並行世界とは全然違う概念」
お?お?わかんなくなってきたんですけど?
「いや、君は知ってる」
え?
「前に説明した光円錐、あのバッテンが世界線ミンコフスキー空間を移動する光子の軌跡」あれって実際には砂時計型の立体でしたよね?
「そう。だから砂時計型の立体の表面は”世界面”になる。まあ、あれも時空の複数の次元のうち空間と時間の二成分だけ示した結果そう表現できるって話なんだけど、君がそこまで気にしなくていい」  p155


視聴者との掛け合いが、全然別のところに行くことがあるのも魅力のひとつだ。
(ちなみに、うちの子ふたりは、ちゃんと「延々と」派で安心した。)

ロマネスコっていうんだっけ、あれはわかりやすくフラクタルだな」
同じ図形を永遠と繰り返すやつですよね。
「延々と、な」
ん?永遠と?
「最近の子、その言い方するよな」
なんか間違ってます?
「“延々と”を“永遠と”って言うの、言い間違いだろ」
ええ?そうなんですか?だって意味的には合ってますよ。
「合っててもむずむずするんだよ。」
<わかる><俺もだめ><どうしても気になるよな>え、え、ほんとですか。うーん。私は永遠の方に慣れちゃってて、延々って言われてもピンと来ないなあ。
<永遠派です><延々って言いにくいしずっと続いていく感じが薄い>そうそう、  私もそれ!
p200

ちなみに、ロマネスコを知らないことについて、さくらが世間知らずの多田羅さんをからかっていたが、自分も名前は知らなかったし食べたこともない。
ちょっと気持ち悪い感じなので食べてみたい。
nazology.kusuguru.co.jp


ロマネスコについては作中でもフォローが入るが、配信なので、説明なしに放置される視聴者コメントも多い。しかし、それがかえって気になり調べたくなるのもネットぽくて良い。

   ⇒バンダースナッチ - Wikipedia

  • p81 シミュラクラ現象:顔のないバンちゃんに、さくらが無理やりマーカーで目と口を描いた時の視聴者コメント。

   ⇒シミュラクラ現象 - Wikipedia

  • p85 混沌に目鼻つけた話みたい:同じくバンちゃんの顔描いたことへの視聴者コメント。

   ⇒渾沌 - Wikipedia(この中国神話の怪物を指す場合は渾沌、渾敦と表記するようですね)

  • p129 ウィンチェスター・ミステリーハウス:場所特定を避けるために第三話で多田羅さんが作ってくれたスクランブラーによって、自動生成されていく廊下や階段が、奥に行くにしたがって破綻していく様を評した視聴者コメント。

   ⇒ウィンチェスター・ミステリー・ハウス - Wikipedia


そんな風にして進んで、最後の6回目のタイトルは

#6【登録者数完全破壊してみた】

チャンネル登録者数にこだわるさくらちゃんに対して、雑談の果てに、多田羅さんが量子もつれ(+グレッグ・イーガン塵理論量子化)を使って解決しようと試みる。
ということで、裏技も駆使して無事に500を達成するのだが、目標は1000なので、つい先日、この本の続きが出ている。
チャンネル登録者数がどのくらい増えたか気になるので、早く読まなくては!
また、宮澤伊織さんは他にも有名シリーズを抱えているので、そちらも気になります。


僕のマラソンは分岐する~湘南国際マラソン2025

新年あけましておめでとうございます。
新年の抱負代わりに、本当は昨年の内にアップするはずだった湘南国際マラソン振り返り記事を上げます。



これを無くしては歳は越せない12月の湘南国際マラソン
昨年も12月に、毎度毎度のサブ3.5を目標に掲げて参加してきました!



結果は3時間44分台。
ということで、何とか3時間45分はギリギリ切れたというところ。
ただ、毎回思うのですが、マラソンの結果はタイムだけ見ても全くわからず、そこでは個々人がそれぞれの戦いを繰り広げていると思うのです。今回は、そんなことを書いてみたい。

前哨戦

今年はハーフも含めて4つの大会に出ていて以下の結果に。

今年は湘南国際以外にフルマラソンを2度走っている。
かすみがうらマラソンは最近は毎年出ているが、繁忙期明けの4月という言い訳も抱えながら走り、「願わくばサブ4」という姿勢なので、タイムは気にしない。
一方、横浜マラソンは、既に湘南国際マラソンに向けた練習を開始している時期で、何だかんだ言ってもサブ4は行けるのではないか?という甘い期待があった。
しかし惨敗。
その惨敗の仕方が酷くて、それまではキロ5分で走れていたのが、18キロあたりで切れてしまい、以降は歩きに近い状況で、1キロごとのペースを数字で確認すると、29~39キロあたりはキロ7分~8分台。
当該区間は高速道路の上の、なかなか気持ちの良い区間だったのだが、ダメな自分に呆れて笑いながらトボトボ足を運んだ。
理由はいくつかあるが、この日の横浜は低温の雨予報で、そもそもリタイヤ覚悟で臨んでおり、気持ちの面で負けていた。
さらに、一週前の尾根幹*125キロのタイムから考えて、サブ4は厳しいことは何となくわかっていて、それがマイナス思考に働いたこともある。


だからこそ、今回は辛くなってから気持ちで負けないように、いつもは1回に留める28キロコースを本番2週間前と1週間前の2度行った。
(自分は平日全く走らないので、オーバーワークにはならないだろう、と思っていますが、この辺もよく考え直す必要があるかも…)

そして本番

湘南国際マラソン当日の12/7の天気予報は晴れ。ただし、スタート時刻の9時ころは極寒の可能性があったので、それだけ心配していた。(しかし、結果的には寒さも大したことは無かった)


さて、問題は、20㎞以降に突然やって来るペースダウン。
10年以上、自己流でやっていても結局そこから抜け出せず、ネット上ですが似た相談を見かけても根本的な解決策を教えてくれるものはなく、諦めている。
2023年にサブ3.5を達成したときは、そのペースダウンが29キロくらいで発生した。その後、気力で持ち直し、緩やかにペースダウンしていくも最終的にはアベレージでキロ4分56秒で走ることが出来ている。(サブ3.5ギリギリ)
要は、「ペースダウン」は必ず来るので、それを出来るだけ遅らせることで、全体のタイムを伸ばせるという原理で行くしかない。


果たして今回は?


今回、スタート地点に行くまでが結構混雑し、Bブロックでも後ろ側だったので、スローペースのスタートだったが、それ以降はキロ4分50秒程度でペースをキープできた。
ただし、折り返し(約19キロ)地点の前で、しんどさを感じていたので、絶好調というわけではなかった。(以前は20キロ超まで、速くなり過ぎないよう、ペースを抑えるというパターンも多かった。老い?)
さて、それではペースダウンはいつ来たのか。
結局、しんどさを感じながら無理矢理保っていたキロ5分以内のペースは、25キロで破られてしまった。


サブ3.5を達成した2023年は29キロ付近で来た「それ」が25キロ付近で…。
自分の走り方では、既にサブ3.5は達成できないことがこの時点でわかってしまうので、一気に気力が落ちる。それまで、自己のコントロール下にあった身体は、言うことを聞かなくなる。
ここで「僕のマラソンは分岐する」のだ。
ここまでは、キロ4分50秒くらいで20キロ以上走れる「自分①」が走ってきたが、彼が力尽きたときに誰が走るのか。
自分の中にも、根性があり、期待に応えられるタイプの人間がいる。一方で、根気とかどうでもよく、期待を裏切るタイプもいる。
ペースダウン時の気持ちの「盛り下がり」のあとで、どちらにバトンが渡されやすいか、と言えば、後者だ。それを「自分②」とする。


横浜マラソンのときには、18キロ付近から変わった「自分②」は40キロ付近まで変わらなかった。しかし、湘南国際マラソンでは35キロ付近で、やっと根性論のみで走る「自分③」が出てきて「このままじゃだめだ!」と、周囲のランナーのエネルギーを吸い取るようにして、「期待を裏切らない自分」が復活する。


そんなとき目の前にはちょうど3時間45分のペースランナーが!
ということで、ここから3キロ近くは、視線を狭め、ペースランナーのゼッケンだけを見て、自分の身を競争相手として走る。競馬で言うブリンカーだ。
ところが、それも38キロ付近で気持ちが切れ、ちょうどコースは湘南国際マラソン唯一の難所、ウルトラランナーみゃこさんの言うところの「世界でいちばん長く感じる2キロ」が始まる。(ゴールゲートが見えているのに、そこを通り過ぎて遠回りさせるゴール直前の心理的難所)
www.youtube.com


毎回出ているので長いと知っているはずなのに、実際に走ってみると本当に長く、折り返し地点が全然見えてこない。ただ、タイムを見ると、まだギリギリ3時間45分を切れるかもしれないことが分かり、辛い2キロの後半=39キロ地点くらいから最後の力を振り絞る。
折り返し地点手前で用意してきた90分のプレイリストは終わり、「舞台に立って」からのラスト5曲*2に戻す。
ちょうど近くにさっきとは別の3時間45分のペースランナー(今度は女性)を見つける。
彼女についていければ!
抜きつ抜かれつでそのまま歩を進め、何とかゴールは3時間45分を切ることが出来たのでした。

反省

もうよくわからないが、自分なりの攻略としては、キロ4分40~50秒ペースで走れる「自分①」ができるだけ30キロ以上走り抜いて、そのあとは、根性論で走る「自分③」にバトンを渡すしかない。
いや、「自分①」がエネルギー切れになるタイミングが、距離ではなく時間で決まっているとしたら、キロ4分15秒で走れる距離を延ばせば一気にサブ3を達成できるのでは?笑
ということは、やはり、「自分①」一人だけで走り切れるハーフをもう少しペースを上げて走れる練習をしよう。

帰り道で

ゴール後、会場から大磯港までシャトルバス(港から大磯駅までは徒歩)が出ているので、それに乗る。バスは、一部、往路を通るので、ちょうど復路を走っているランナーたちとすれ違うことになる。
バスの窓から眺めていると、たくさんのランナーの中には、横浜マラソンで途中で諦めてしまった自分(湘南でも25~35キロくらいまでを支配した「自分②」もしくは、すべてを諦めてしまった「自分④」)が入っていると感じる。
そう考えると、フルマラソンで見ている風景は、分岐した大量の自分の可能性を(そして、その他のランナーの可能性を)俯瞰しているのかもしれず、だからフルマラソンの大会は面白い。
そんなことを感じた2025年の大会でしたが、引き続き自己ベストを更新できるよう精進します。
2026年は、まずハーフマラソンをもっと早く走れるようにしたいです!

*1:いつもの練習コース

*2:自動的にスピードが1割増しになる魔法のセットリストYOASOBI「舞台に立って」/堂島孝平「Re-try」/堂島孝平「ハヤテ」/米津玄師「BOW AND ARROW」/B小町「SHINING SONG」

2025ベストドラマとベスト俳優、そして『宝島』

今年は、異常に地上波のドラマをたくさん見ることになった。
特に夏以降は、1週間という期限に間に合うように、TVerNHK+で速度を上げて追われるように見て、エンタメ摂取のために体に鞭打つような生活をしてしまった。

もちろん楽しい作品に恵まれたとも言えるが、自分にとっての適切な分量は、朝ドラ、大河ドラマ仮面ライダーを除いて2~3本程度で、秋以降は明らかに過剰摂取。
このせいで映画や本の感想を書く時間を取れなかったと考えると、来年は見るドラマを厳選する必要がありそうだ。
NetFlixなどのドラマを見る時間はそれらを削って余裕があれば、という世界で、今のところ、そんなにうまく時間を作れそうにない。


以下、今年観たドラマを列挙したあと、2025年のベストドラマとベスト俳優を挙げたい。

2025年に観たドラマ

  • 冬ドラマ(1月~)
  • 夏ドラマ(7月~)
    • 僕達はまだ(途中まで)
    • 完全不倫
    • ちはやふる~めぐり
    • しあわせな結婚
    • ひとりでしにたい
  • 秋ドラマ(10月~)
    • シナントロープ
    • ちょっとだけエスパー
    • もしもこの世が舞台なら、 楽屋はどこにあるのだろう
    • できても、できなくても
    • ロイヤルファミリー
    • いつか無重力の宙で(夜ドラ)
    • ひらやすみ(夜ドラ)
  • 大河、朝ドラ、その他

ベストドラマ

まず、ベストドラマについては、前回書いた映画のように迷ったりすることなく『べらぼう』一択です。
最初から写楽は一体どうするんだろう?と引っ張りつつ、最後数週間で

  • 松平定信が、打倒治済のために蔦重らと手を結ぶ
  • 写楽は、複数人のプロジェクトとして開始する
  • 平賀源内が生きているという噂を流し、写楽を売り出す
  • 治済の得意技である「毒」が炸裂して多数の犠牲者が発生
  • 真打ちの阿波の能役者・斎藤十郎兵衛が意外な形で登場し、写楽の正体説も意外な形で包含
  • 史実で亡くなっていない治済については、天罰を下らせたあと「入れ替え」で処理

というように、懸案事項が一気に解決する終盤が見事過ぎる。
べらぼうの役者では、(こちらも殿堂入りしている橋本愛はもちろん)皆良かったが、喜多川歌麿を演じた染谷将太(「シナントロープ」「爆弾」)、恋川春町を演じた岡山天音(「ひらやすみ」)は、彼らが演じる他の役とは全く違った雰囲気をまとっており、そのイメージはずっと自分の中に残る気がする。
ドラマ全体を通して、いわゆる日本史で勉強する歴史と合わせて、江戸に暮らす人たちの生活がイメージできたのは本当に良かった。
この当時の芸術作品は、今でも鑑賞する機会が多いので、今後の糧となることでしょう。


ベスト俳優

まず、映画も含めて今年意識して作品選びをした原菜乃華(「推しの子」「あんぱん」「ババンババンバンバンパイア」「見える子ちゃん」「ちはやふる」)は、どれも良かったが、どれも1月に観た映画『推しの子』には勝てなかったのが残念。彼女の歌声が好きなので、上白石姉妹のように歌手活動をしてほしいのだが、どうにかならないだろうか。


次に、原菜乃華も出ていた朝ドラ『あんぱん』は、『虎に翼』を上回るくらい熱を入れて見ていたが、もちろん北村匠海今田美桜、そして役者としては既に自分の中で殿堂入りしている河合優実は言うことなし。
さらに、本当は美少年なはずの高橋文哉が、その素振りを見せず、役者の凄味を感じた。また、ミセスの大森元貴は、このドラマでかなり好感度が上がった。


その、北村匠海河合優実も出演した映画『悪い夏』では、メインキャラクター以外では、箭内夢菜も良かったが、伊藤万理華がとにかく良かった。

そこからの流れで、伊藤万理華を見るためにみた夜ドラ『いつか無重力の宙で』は、高校時代からの親友4人を演じた伊藤万理華以外の3人、木竜麻生、森田望智、片山友希、そして大学生役の奥平大兼(「御上先生」)のツンデレキャラが良かった。そして、森田望智の高校生時代を演じる、来年の朝ドラ俳優・上坂樹里(「御上先生」)の演技が光っていた。どちらが寄せているのか定かではないが、同一人物だから役としては当然なのだが、話し方が一緒なのだ。
また、『いつか無重力の宙で』終了後の夜ドラ『ひらやすみ』は、岡山天音と同居するいとこ役の森七菜が漫画的表現をリアルで演じることが出来ていて驚く。


そんな中で、ベスト俳優は、妻夫木聡(「あんぱん」「宝島」「ロイヤルファミリー」)。
というのも、今年一番テレビから目が離せなくなったのは、たまたま休み中に見た7/28放送のNHKの生放送「あさイチ」だからなのだ。
映画『宝島』の宣伝も兼ね、妻夫木君が沖縄の旧友のもとを訪ねたり、コザ暴動について現地の人の話を聞いたりするのだが、妻夫木君が終始涙目で、話している途中で涙をこらえ切れなくなる。
特に、漫画『隙間』でも扱われた佐喜眞美術館や米軍基地の状況について語る場面には、こちらももらい泣きしてしまう状況。
番組に出演していたジョン・カビラも沖縄出身ということで、適切な追加解説が入り、沖縄基地の現状についても、なあなあには扱わない力強さを感じた。
※ちょうどNHKにページがあった。↓
www.web.nhk



ということもあったので、映画『宝島』には特に思い入れが深く、実際に観て、コザ暴動や、クライマックスの妻夫木聡窪田正孝の対決シーンには感動した。
だからこそ、(『国宝』との比較したときに)興行収入的に失敗したことを揶揄するような声には我慢がならない。
公開から少し経ってから上がったCDBさんの文春オンラインの記事は、そんな自分の気持ちが代弁されているように感じた。自分の見ていた「あさイチ」でのジョン・カビラについても少し詳しく触れられており、それも良かった。

スタジオゲストには妻夫木聡とともに、アメリカ人の母と日本人の父のもとで沖縄に育ったジョン・カビラが招かれ、『宝島』で描かれる米軍の横暴、そして現在も続く日米地位協定の理不尽に触れたのち、「本当の『日本人ファースト』ってこういうことなんじゃないですか」と問いかけた。ジョン・カビラの訴えは切実な重さを持っていたが、左派からは「排外主義を思わせる言葉を使うのか」、右派からは「本当のとはどういう意味だ」と左右双方から糾弾されかねないリスクをあえて取った訴えに見えた。

bunshun.jp

なお、『ロイヤルファミリー』は、最終回の有馬記念の結果も含めてストーリーが良かった一方、ほぼ毎回登場する妻夫木聡の涙につられ、見る度に泣いてしまうドラマだった。
ただ、「あさイチ」の涙は、ロイヤルファミリーの比じゃなかったんですよ。あれは絶対に演技ではできない、と信じています。

2026年に向けて

ということで、改めて2025年を振り返ると、自分個人としては、今年は戦後80年イヤーということを強く意識して、戦争関連の色々な情報に触れてきた。
一方で、日本の現状はどうかと言えば、防衛費増や武器輸出、非核三原則見直しなどに積極的な高市政権は、日中関係にひびを入れてまで「空気」を作り出しているようで、危うく感じてしまう。

そういった流れに抗うには、自分の言葉が必要だ。

昨今、「言語化」がブームだが、実際に必要になってくるのは「思考をショートカットできるような言い換えや語彙」ではなく「言葉にならなくても、思考を積み重ねること」であって、安い「言語化」に惑わされない思考力の方が重要だと思う。


ただ、ドラマを見る時間も重要(笑)なので、2026年は、これまで以上に短い時間で思考を積み重ね、可能であれば文章として残すように意識したい。
ドラマは厳選する予定だが、1月からの新ドラマは今泉力哉監督、杉咲花主演の『冬のなんかさ、春のなんかね』は確定です。

www.ntv.co.jp