Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

なぜ唐突にバキ!~熊澤尚人監督『ユリゴコロ』

ユリゴコロ

ユリゴコロ

  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: Prime Video
ユリゴコロ (双葉文庫)

ユリゴコロ (双葉文庫)


先日、沼田まほかるの原作小説『ユリゴコロ』を読み終えて、さあ、感想を書こうと思ったら、3年前に既にブログ記事が書かれていることに気が付き、自分の記憶力の無さに大変ショックを受けた。だけでなく、内容も自分の書こうと思っていた内容そのもの(むしろ表現が巧み)であることに気が付き、ゲンナリしたという出来事があった。
しかし、今回、3年前はかなわなかった「映画版」の鑑賞が非常にしやすくなっているので、こちらを観る良い機会なのではないかとプラスに捉えることにした。色々なものと結びつけることで、どんどん記憶力も上がっていくに違いない…

「映画」的に表現した気色悪さ

さて、2度目の原作読後、あまり時間をおかずに観た映画だが、受ける印象が、原作で抱いていたそれとほとんど変わらないことに驚く。
特に、ミルク飲み人形のお尻、井戸の奥底、共通して何かの「穴」を覗き込む幼い美紗子の目。そして、小学生時代のミチルちゃんや、道路側溝に頭を突っ込んだ男の子の殺害シーンは、原作を読んで感じた禍々しいイメージそのままだった。
そして、目を背けたいリストカット描写。暗く陰のある女性「みつ子」を演じる佐津川愛美がすごい、ということになるのだろうが、大嫌いなリストカット場面のしつこさは、原作に抱いた印象と全く同じだ。
美紗子から亮介に、オムレツの味とともに受け継がれる「殺人者」の血。殺人のイメージが、美紗子・亮介がそれぞれ肉を捌く「包丁(に象徴される料理全般)」に現れているのも絵的に巧い。その意味で、亮介が開くお店がドッグランからレストランに変わっているのは巧い改変だった。そして、洋介(松山ケンイチ)と美紗子が初めて結ばれるシーンで過剰に強調されるオナモミも、美紗子の異常性の象徴として各所に上手く配置されていた。
ミルク飲み人形、水の中からの映像、リストカット描写、包丁、オナモミ、これらすべてがトータルとして、原作が持つ「イヤミス」などという軽々しい言葉では言い表されないような気色悪さ、「ユリゴコロ」というタイトルが醸す不安感を、映画としてうまく表現していたように思う。

吉高由里子

原作では、亮介が押し入れで発見するノートの書き手は、最初は性別さえ不明だったため、亮介は父(洋介)の書いたものかもしれないと思って読者は読む。一方、映画では、ノートの書き手として、最初から吉高由里子の声があてられるので、原作にあった性別さえ不明というミステリ要素は少ない。
しかし、この、吉高由里子の声こそが、この『ユリゴコロ』という映画の最大の魅力であるように思う。ベタッとした、無感動な、しかし少しの人間性を感じさせるような声。『劇場』における山崎賢人のモノローグが違和感を産み続けていたのとは対照的だ。
階段からラーメン屋のバイトを突き落とす場面とか、娼婦時代に殺人を無感動にこなしてしまう感じは、演じているのが吉高由里子だったからこそ、そしてベタッとしたモノローグでのフォローがあったからこそリアリティのあるシーンとなっていたと思う。
そして、松山ケンイチと出逢ってから少しずつ心を開き、子どもを産んで変化していく様子も、性格の移行に全く違和感を覚えなかった。勿論、相手役の松山ケンイチの上手さもあるのだろうが、年月をかけて人間が成長していくさまが演じられるというのは、さすが朝ドラで主演していただけはある。

唐突にバキ

原作との差異で言えば、原作にはあった、弟の存在や母親の入れ替わり等、もう少し細かい家族にまつわる背景設定が大幅にカットされているが、そこは時間的には仕方がない。
一方、一番問題の大きな内容改変は、細谷役として登場する木村多江に関する部分で大きく2つ。小さな方から行くと、原作では、千絵とは関わりのない人間として、亮介の店で働いていた細谷は、映画では、単に千絵の元同僚役として登場する。その時点で、細谷→亮介を結ぶ線が偶然の産物過ぎて、そのあと明かされる細谷の正体に素直に驚けなくなるのだが、まあ、それも次に示す改変に比べれば問題は小さい。
最大の問題であり、何故そのような改変をする必要があったのか頭を捻ってしまう部分は、亮介の婚約者である千絵の元夫役を、バリバリのヤクザにしてしまったこと。原作では、彼はもっと下っ端のチンピラで、故にクライマックスシーンは、千絵を奪還したあとで、亮介が手切れ金を払いに山中の待ち合わせ場所に会いに行くシーンで起きる。どうしてもお金が欲しい相手に一対一で会いに行く。こちら側が武器を持っており有利で、殺意があれば相手を殺害できてしまう状況なのだ。
映画では、設定が変わったためか、このクライマックスシーンは都内の暴力団事務所に監禁された千絵を助けに行くという無理難題に変わっている。しかも、亮介が行ってみると、既に事務所ではヤクザが3、4人殺されているのだった…。
一人でここに乗り込んで複数の暴力団員を殺してしまう。実際にそれを成し遂げてしまうのはバキ(グラップラー刃牙)のキャラクターくらいで、現実には到底あり得ない。そんなことをやってしまおうと考えた松坂桃李(亮介)も馬鹿で、ラストに近づくにしたがって、彼の興奮した演技も過剰になり、緻密に組み立てられた作品世界がどんどん崩れ落ちてしまう。
ヤクザ3~4人を殺した「殺人マシーン」が犯行声明的に現場にオナモミを残していくというのも謎で、やっぱり途中で『バキ』が混ざってしまったのではないかと邪推してしまう。
吉高由里子佐津川愛美吉高由里子松山ケンイチ、役者の演技で大いに盛り上がった中盤が勿体なくなるくらいラスト付近がダメ過ぎる。まさに「緊張の糸が切れた」とは、こんな展開にピッタリの言葉だ。

ユリゴコロ』以外の吉高由里子

なお、最近、ガッキーが長澤まさみと1歳違いと知り、イメージ的には長澤まさみがだいぶ年長のように感じて驚いたのだが、吉高由里子はガッキーと同学年だった。邦画は出演俳優が重なることも多く、こういった視点でも見る映画を広げていきたい。

吉高由里子の過去の出演作を調べるとと、フェイクドキュメンタリーや、攻めた設定の漫画原作ものなど、実験的な作品への出演も多い。もっと観てみたいなあ。

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参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com