ここ最近、気が付けばずっと聴いているRYUTist『ファルセット』についてアレコレ書いてみた。
RYUTist『ファルセット』を買うまで
アイドルをしっかり聴いたのはモーニング娘。の「黄金の9人」*1の時代で、ピークの頃は、さいたまスーパーアリーナに行ったりするほどの熱の入れようだったが、その後、アイドルというジャンルの曲は全く聴かなくなってしまった。
最近、唯一聴いたのはNegiccoで、2018年の矢野フェスの予習でベスト盤を買ったのが久しぶりのアイドルCD。
その後、アトロク*2でよく名前の挙がるグループをちょこちょこ聴くようになる。
最初に「おー!」と思ったのはsora tob sakana「広告の街」で、ポストロックというのだろうか、リズムも変則で歌詞も実験的にもかかわらず、アイドルソングとしても成立しているのに衝撃を受け何度も聴いた。
sora tob sakana/広告の街(2019.7.6 sora tob sakana LIVE TOUR 2019 「天球の地図」@代官山UNIT)
今年になって聴いたものだと、フィロソフィーのダンスも良かったのだが、何といってもRYUTist「青空シグナル」にの疾走感に撃たれた。作詞・清浦夏実と作曲・沖井礼二はTWEEDEESコンビなのだが、沖井礼二は元Cymbals。
RYUTist - 青空シグナル【Official Video】
90年代後半の自分は、渋谷系という音楽ジャンルが好き過ぎたが故に、ROUND TABLEや、Cymbalsなどの(楽曲的に)「ど真ん中」枠は、1曲だけ聴いて「このタイプは自分の好みにピッタリ合っていることを既に知っている。だから聴かない」という理屈で、むしろ避けていた。(若かった…)
ところが、RYUTist は「青空シグナル」のみならず、「黄昏のダイアリー」も 作編曲が沖井礼二・北川勝利(ROUND TABLE) (作詞は清浦夏実 )という、「ど真ん中」の布陣による鉄壁の楽曲で、ナイフみたいに尖っていない40代のおじさんは軍門に下るしかないのだった。
さて、アルバムに興味を持ったのは、3年ぶりの新作が新型コロナウイルスが原因で発売延期になったという話を聞いて「気の毒だなあ」と思ったのがきっかけ。
たまたま7月中頃に、久しぶりにタワレコに行ったときに、延期になっていたはずのアルバムが発売されていたことに運命の出会いを感じ、一曲目の「GIRLS」を試聴して、「コーネリアスの実験音楽」っぽい感じに、すぐに買うことを決めた。
RYUTist『ファルセット』を買ってから
アルバムの凸凹があると、好きな曲ばかり聴くようになってしまう。
例えば、自分にとっては「青空シグナル」は鉄板過ぎるので、こればっかり聴いてしまう可能性もあった。
しかし、構成の妙なのか、万遍なく聴けるアルバムとなった。(収録時間は54分と短いわけではない。繰り返し聴けるアルバムの長さはよく言われるように40分程度と思う)
特に、全12曲中の2曲目(実質1曲目)の(ラップでなく)「語り」の掛け合いが気持ちを盛り上げる「ALIVE」(蓮沼執太フィル)、11曲目の、ピコピコ極まる「春にゆびきり」(パソコン音楽クラブ)という配置が周到だったのかもしれない。
RYUTist - 春にゆびきり【Official Video】
さらに、聴きこむほどに味が出る、というより、聴くたびに、好きな曲が動くのは、これもバランスが良いということなのだろうか。
特に、日本のシティポップを志向するインドネシアのバンドIkkubaruの「無重力ファンタジア」のサックスソロのカッコよさと、いかにもシティポップ然とした佇まい。(作詞は清浦夏美。コーラスでIkkubaruも参加)
シンリズムがプロデュースした「センシティブサイン」の少し泣けるバランスの良い盛り上がり。(「青空シグナル」は盛り上がり過多)
弓木英梨乃作詞・作曲の「きっと、はじまりの季節」は「新しい船を建て」など、「はじまり」に「船」が出てくるKIRINJI「進水式」を思い起こさせるポップな曲。
そして、何といっても「ナイスポーズ」(柴田聡子)の変な歌詞、変な譜割り、変な構成 (サビがラストにやっと登場)。最初に聴いたときは、出だしがサタデーインザパークっぽく感じて、「いつもの奴」かな?と思ったものの、聴くたびに「変」さが際立っていく。しかも、ボーカルの受け渡しも含めてアイドル楽曲として最高級なのでは。
RYUTist - センシティブサイン【Official Video】
しかし、シンガーソングライターの曲を聴くことが多い自分にとって、ここまで雑多な人が曲作りに参加していながらアルバム1枚で通して心地よく聴けるというのはとても不思議だ。(しかも複数年に渡ってリリースされたシングルのベストという側面すらあるアルバム)
いつもアルバム単位で聴くYUKIの場合は、作曲は別々だが歌唱が強過ぎるので必然的に一体感が生まれるし、YUKIは歌詞も書くので、あまり比較にならない。
ただ、考えてみると『ファルセット』も、複数楽曲で歌詞が共通するものもいくつかあり、そこが上手く橋渡しになっているのかもしれない。
そもそもコロナ騒動がなければ5月に出ていたアルバム。PVや歌詞カードの写真を見ても「はじまりの季節」=春や桜をイメージさせるものも多く、発売が7月中旬という「夏」に延期になってしまったことを考えると、失われてしまった2020年の「はじまりの季節」を思い浮かぶ一枚ともいえる。MusicVideoも桜が登場するものが多い。
- 今がきっと、はじまりの季節/今がそう、おわりの季節(きっとはじまりの季節)
- 今日は旅立ちの日/今日が決別の日(青空シグナル)
- 薄紅の街は霞み 風に舞うスカート(青空シグナル)
- 花咲いてる季節だね(絶対に絶対に絶対にGO!)
- 桜並木が恋をして(ALIVE)
- 指切りで夜を灯して(センシティブサイン)
- 消えないよう忘れないように ほら ゆびきりしよう(春にゆびきり)
- いつか大人になっても変わらずにいたいな(絶対に絶対に絶対にGO!)
- いつか僕らは大人になるから(春にゆびきり)
- 大人になり切れない 子供じゃいられない(黄昏のダイアリー)
いやいやいや、「大人」関連の歌詞も含めて、アイドル楽曲の定番歌詞なのではないか。
やっぱり声なのかもしれない。下のリモートライブの動画を見ると、それぞれ声に特徴があるし、結構コーラスを細かく入れている。(この動画は、ウィンドウが分かれているので、4人のボーカルパートが明確にわかり、かつ、沖井礼二のベース+リズムボックスのみの「青空シグナル」や、シンリズムの一人多重録音の状況が分かる「センシティブサイン」も楽しい。「ナイスポーズ」の全貌も良くわかる。)
リモートライブ「ガチでRYUTist HOME LIVE #001」
それにしても、MiKiKiのインタビューの充実度合いはすごいな…。
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今後チェックしたいアルバム
『ファルセット』を聞いて一番良かったのは、次に聴きたい音楽が増えたこと。
シンリズムは、一枚目だけしか聴いたことがなかったので、その後の変化も楽しみ。ikkubaruは8/26発売。柴田聡子は、『ファルセット』購入日に、偶然、試聴機で「変な島」を聴いて変な曲と思っていた…。
つまり、『ファルセット』は、1粒で2度、どころか、数珠繋ぎにいろんな音楽が聴きたくなるという意味では、「無限に楽しめる」アルバムとなったのでした。
- アーティスト:TWEEDEES
- 発売日: 2018/10/31
- メディア: CD
コード&メロディーズ CHORDS & MELODIES [帯・解説付 / 歌詞対訳付 / ボーナストラック5曲収録/国内盤CD]
- アーティスト:イックバル IKKUBARU
- 発売日: 2020/08/26
- メディア: CD
- アーティスト:柴田聡子
- 発売日: 2019/03/06
- メディア: CD