Yondaful Days!

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Original Love オフィシャル・カバーアルバム『WWW』は名盤です


今回、Original Loveのデビュー30周年を記念して制作された初のオフィシャル・カバーアルバム「What a Wonderful World with Original Love?」を聴いて、カバー曲を聴く楽しみについて考えてみた。
アルバムの収録楽曲は以下の通り。

01.原田知世「朝日のあたる道 (Album Version)」
02.長岡亮介「ディア・ベイビー」
03.椎名林檎「LET'S GO!」
04.SOIL&"PIMP"SESSIONS & KENTO NAGATSUKA (WONK)「MILLION SECRETS OF JAZZ」
05.斉藤和義 & Rei「JUMPIN' JACK JIVE」
06.TENDRE「IT'S A WONDERFUL WORLD」
07.小西康陽「夜をぶっとばせ」
08.Yogee New Waves「月の裏で会いましょう」
09.東京事変「プライマル」
10.YONCE (Suchmos)「ショウマン」
11.Original Love & Ovall「接吻」
12.PSG (PUNPEE, 5lack, GAPPER) & Original Love「I WISH / 愛してます」

まずは何といってもカバー曲として披露される選曲の楽しみがある。
今回の12曲で、ベスト盤で入ることの少ない楽曲という意味では「ディア・ベイビー」「I WISH」もあるが、一番尖った選曲は「ショウマン」だろう。
自分の中ではオリジナル・ラブ最高のバラードだと思うが、ファン以外にはあまり知られていない楽曲だ。悲哀に満ちつつ一歩前に進もうとする歌詞も良い。YONCEのカバーは、原曲をあまり変えずに、でも楽曲へのリスペクトが溢れるようなカバーで熱い。
今回のカバーを聴いて、名盤『ビッグクランチ』に初めて触れる人もいるかもしれないと思うとそれもまた楽しい。
なお、アルバム用の特別HP(Original Love 30th Anniversary Site)では、ライオンカット*1田島貴男がピアノを弾いている動画を見ることができてこれも楽しい。
(こちらですね↓)

www.youtube.com


原曲の枠をはみ出た「超アレンジ」は単純に面白い。
今回のアルバムだと、長岡亮介「ディア・ベイビー」のカントリーアレンジが良い。オリジナル・ラブがデジタル方向に振り切っていた時期の原曲を、こう解釈するのか!という驚きもあるが、それよりも、原曲通りのブレイク部分が最高。
イントロで「そう来ましたか~。ふーん」と、すまし顔で聴いていたがブレイク部分で土下座だ。(そうなんですよ。この曲は、ブレイク部分の田島貴男のダンスが最高なんですよ!)
(こちらも公式からリンクされているYoutubeはこちら↓画像が粗い!ライオンじゃなくて若獅子かな。)

www.youtube.com


カバー曲を聴いて、改めて原曲の良さに気が付いたり別の一面を知ることがある。
一番わかりやすいのは女性が、男性歌唱の曲をカバーする場合だが、原曲とボーカルが違うこと(カバーなので当たり前だが)によるその差異が単純に面白い。
椎名林檎による「LET'S GO」は、原曲が良すぎて、どうアレンジしてもカッコよくなってしまう上に椎名林檎的なジャズアレンジで、ズルい。
小西康陽の「夜をぶっとばせ」は、ボーカルが無く、田島貴男の新録スキャットが聴きどころかもしれないが、終盤で執拗に1フレーズを押して、パーティー曲っぽくなってくるのが面白い。*2


そして、男性ボーカルで一番面白かったのは、Yogee New Wavesの「月の裏で会いましょう」。田島貴男と全く異なる発声と体温が低い歌い方は、何となく、そのまま「夏なんです」を歌ってしまう感じだ。
今回のアルバムは、Love Jam人脈総ざらいという一面もあると思うが、Yogee New Wavesの出演したLove Jam vol.3(2018年1月。行ってません)で一緒に出演したnever young beachがあまりに、大瀧詠一を彷彿とさせるボーカルだったので、当時、二組を少し齧ったとき、never young beachばかりが気になってしまったが、Yogee New Wavesももっと聴かなくちゃいけない。


さて、今回のアルバムで嬉しいのは男女共演曲が2曲もあること。
東京事変「プライマル」は、最初、既に3曲目の「LET'S GO」を聴いたあとに9曲目で、また椎名林檎の声が聴こえて、あれ?何故ここで、こんなに「薄い」感じのカバー?と思った。ところが2番で長岡亮介の声が聴こえて来て大納得。
そして何より斉藤和義Reiの「JUMPIN' JACK JIVE」。もともとが掛け合いで演奏するのが似合う曲とは言え、このギター対決は、完全に「別競技」が始まってしまった雰囲気で、1粒で2度美味しい。そしてReiの適度に気の抜けたボーカルが何度聴いても楽しくなってしまう。「踊ってみろよーほら」の部分はこのアルバム内でもボーカル部門の金メダル。


ラスト曲「I WISH / 愛してます」は、タイトルにもPSGの「愛してます」が入っているように、カバー曲では無い。「I WISH」をサンプリングした「愛してます」に「I WISH」をくっつけた楽曲だが、最後に、今の田島貴男が「愛してます」の方に侵食していく感じが、時空を超えていて感動的。
名曲「グッディガール」初披露となったLove Jam vol.4(2019年1月。行きました!)のときからこのコラボレーションは見ていたが、改めてアルバムのラストに入ったことも含めてちょっと涙が出る。
なお、「愛してます」についてJ-WAVEの番組で二人が対談した内容がこちらで読めるので是非。→
miyearnzzlabo.com


さて、こうしてカバー曲を聴いていると、「原曲とカバー曲が相互に補間する曲」が一番強いという結論に至った。*3
カバー曲を聴いていると、脳内では並行して原曲が流れていたりする。
もしくは、0.5秒遅れくらいで田島貴男の歌声が追っかけてきたりする。
そうして、やっぱり原曲が聴きたくなる。そんな曲が良い曲だと思う。
ただ、それとは反対に、原曲を聴き直したときに、カバー曲のアレンジが頭に浮かぶぞという曲もある。


それが原田知世の「朝日のあたる道」だ、この曲が一曲目なのは自分の感覚からすると当然で、最初のイントロだけで「負けました!」となってしまうほどの名フレーズ名アレンジ。
伊藤ゴローさんのアレンジとのことだが、原田知世の癖のない歌唱が良く、このカバー曲自体がまず何度も聴きたいと思わせる魅力がある。
そこに、アルバムのジャケを見ただけで思い浮かんでしまうイントロのフレーズ。完全にこのアルバムの顔だと思う。大御所・原田知世が今回このアルバムに参加した経緯も知りたい。


ただ、このイントロがそこまで心に響かない人も多いと思う。
というより、そもそも音楽を聴くときに脳内で起きていることは皆違うのだろう。
例えば、椎名林檎の「LET'S GO」を聴いて、椎名林檎の別楽曲が脳内に流れる人もいるかもしれない。
今回、取り上げなかったが「MILLION SECRETS OF JAZZ」のカバーはSOIL&"PIMP"SESSIONS & KENTO NAGATSUKA。ボーカルの長塚健斗さんはフルで日本語詞を歌うのは初めてということで、WONKのファンからするとまた聴こえ方が違うのだろう。
同じ楽曲を聴いていても、それぞれの「聴きどころ」が皆違うので、同じカバー曲を聴いても「新しい」と思う人と「ありきたり」と思う人がいると思う。
これまで聴いてきた楽曲の積み重ねで音楽の聴こえ方は違ってくるし、同じことが絵画などのほかのアートにも言えるし、文芸作品でも同じだ。

そういう意味では、カバーアルバムを橋渡しにして今まで聴いたことがない(少ない)ミュージシャンの曲を聴いてみるのが、リスナー側の正しい受け取り方なのかもしれない。
Love Jamというイベントも、おそらくそれが意図されていたし、フェスに慣れ、アルバム単位では楽曲を聴かない今の音楽文化に慣れた人ほど、言われなくてもそういう聴き方をしているのだろうとは思う。

このアルバムは、そんな理屈っぽいこと言わなくても名盤だとは思うが、そんな風にして、たくさんの音楽を聴くきっかけにしたいなと思った。
ただ、自分の中では盛り上がっている(Love Jam vol.5に出演した)中村佳穂が参加していたらなあ、とも想像してしまう。
まあ、今後があるか。
こんなアルバムやコラボレーションが今後も増えることを期待したい。Love Jamもまた行きたい。

*1:これをライオンカットと呼ぶのが正しいのかどうかは知らない笑

*2:ちなみに、今回のアルバムは、ジャケにアルバムタイトルを略した「WWW」が書かれているが、HPを見ると、カバー曲それぞれにも略称がある。「朝日のあたる道」の略称が日本語読みから「anam」(DAIGOかよ!)なのに、「夜をぶっとばせ」は英語タイトルそのままで略さない「LET'SSPENDTHENIGHTTOGETHER」なのは解せなすぎます

*3:実は、これは、今年の前半ずっと聴いていたRYUTist「水硝子」の良さを考えていて辿り着いた結論。このシングルはアレンジ版との2曲で発売されたが、このアレンジ版が適度に原曲を壊していて、原曲との2曲が補い合うことで楽曲の良さが何倍にも膨れ上がる奇跡の2曲。コーネリアスの「STAR FRUITS SURF RIDER」理論を地で行く。