Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

誰にでもオススメしたい上半期ベスト級の2冊~香山リカ『61歳で大学教授やめて...』×石田夏穂『わが友、スミス』

先日行われた5分で2冊を紹介する特殊ルールのビブリオバトルの紹介内容を、読みやすくまとめてみました。紹介なので、ネタバレはありません。
自信を持って選んだ2冊は、実際のビブリオバトルで勝てたのか負けたのか、それも含めてお楽しみください。




読んで何かを始めたくなる、そんな本が大好きです。
自分の場合、自転車、消しゴムはんこなどは、本をきっかけに実際に始めた(続くかどうかは別として)趣味です。
ただ、今回紹介するのは、「何かを始めたくなる、だた、”これ”は始めないだろうな、という2冊」です。

香山リカ『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』

1冊目は、この本です。


著者の香山リカは、90年代からゼロ年代にかけて、テレビや雑誌で広く活躍されていました。最近は継続的に本は出されていますが、表舞台にはあまり出てこない印象です。
そんな香山リカに対する自分の印象は「社会を斜めから見て評論するサブカル精神科医」という虚業っぽいイメージ(偏見)でしたが、そんな人が、へき地医療なんていう、実務バリバリの忙しい現場に!という興味から、この本を手に取りました。
本全体としては、へき地医療を「始めて」からの話は10%に満たないボリューム(5章)で、ほとんどが、以下のように「始めるまで」の話。

  • なぜ、へき地医療への道を選んだのか(1章)
  • 就職活動および、へき地医療に向けた準備(2章)
  • なぜ「むかわ町」なのか(3章、4章)

新しい生活を選び、忙しいながらも生活が充実していることがわかり、読んで楽しくなる、まさに何かを始めたくなる1冊です。(へき地のお医者さんは始められないですが…)


精神科医が、内科外科も含む総合医療の「お医者さん」になるには、当然専門的な部分からの準備(研修)も必要で、その上で地方の生活で必須の運転免許の話や、体力づくりのための護身術の話など、就職先が決まるまでのアレコレがまず楽しい。(2章)

そして、北海道の「むかわ町」を就職先に決めたのは、恐竜博2019で出会った大型恐竜の全身復元模型が、むかわ町で発掘されたものだったから。
そもそも、彼女は医者になりたかったのではなく、大学で科学を学びたかったんだ、という子ども自体からの科学熱が明かされる3章、4章が熱い。


この本を読むと、香山リカがへき地医療への道に辿り着いたのは運命的なもので、むかわ町に行くことでこれまでのいろいろな伏線を回収しているようにも見えてきます。(そういう本なので当たり前なのですが笑)
しかし、逆に言えば、彼女は61歳になってから「へき地医療始めてみるか」と腰を上げたのではなく、それまでの準備を重ね、つまり、さまざまな伏線を張って来たのだ、ということに気づかされます。
自分もいい年なので、しっかりと、いろいろな伏線を張っていかなければ新しいことも始められないぞ、と(楽しみながらも)考えさせられた一冊でした。

石田夏穂『我が友、スミス』

そして2冊目はこちらの小説です。

この本の「何かを始めたくなる本だけど、”これ”は始めない」という、”これ”は、ボディビルです。
アラサー女性会社員がボディ・ビルにハマる小説です。

筋トレに励む会社員・U野は、Gジムで自己流のトレーニングをしていたところ、O島からボディ・ビル大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理を始める。しかし…

ボディ・ビルという馴染みのないスポーツに触れる楽しみは、面白さの大きな要素を占めますが、この本の一番の魅力は、その「言葉」です。
冒頭、ひとりで黙々と筋トレを続けている彼女に、新しいジムを立ち上げるというトレーナーが声をかけます。もっと本格的に鍛えてボディ・ビル大会への参加した方がよい。そのために、うちのジムに来ませんか、と。
その時の誘い文句が最高です。
「うちで鍛えたら、別の生き物になるよ」
ここで主人公はハッと悟るわけです。
自分は、ダイエットや運動不足解消ではなく、別の生き物になりたかったんだ!と。


それからは本格的なトレーニングに入ります。いや、トレーニングだけではありません。
ボディ・ビルが筋トレだけでなく、食事制限が重要なことはすぐにわかります。また、競技者のイメージを思い浮かべると、ポージングの練習や水着の準備もいるのだろう、ということもわかります。
でも、大会までの準備はそれだけではない。こんなことも、こんなことも!という知識が面白いし、それに対する主人公U野の「そんなことまでする必要ある?」という反発も面白いです。
そしてボディ・ビル大会の日を迎え、あっという間にクライマックスからエンディングに。この終わり方が最高に良いのです。


いい小説読んだ!と誰かと思いを共有したいところで、文庫解説の山崎ナオコーラさんが、熱を共有してくれた上に、作品テーマについて分析してくれてこれも分かりやすい。
至れり尽くせり、そして、鍛えたい!と思える、この小説は、今年上半期に読んだ小説のベストです。

ビブリオバトルで何に負けたか?

さて、珍しく2冊とも直近に出た本で揃え、実際にどちらも大好きで、絶対に勝てる2冊と確信して臨みましたが、負けてしまいました。
2024年の一大イベントに備えるための実利的な2冊に負けてしまいました。


2冊目はアメコミ。

国の行く末を憂うSHIELD捜査官マイケルが、魔術の力を借りてアメリカ歴代大統領を蘇らせた。ところが、悪しき力によって蘇った大統領たちが全員ゾンビ化。しかも、世界を滅ぼすために悪の軍団を結成し、アメリカ全土に侵略を始めた。この一大事に手を焼いたSHIELDは、事態の収拾を我らがデップーに発注。かくして、”再生可能で更生不可能な男” VS. 不死(アンデッド)軍団の果てなきバトルの幕が上がった! ワシントン、リンカーン、ベンジャミン、ルーズベルトJFKニクソン……etc。アメリカ建国の父から名宰相、スキャンダルで失脚した大物政治家まで、歴代大統領たちとデップーのもうなんでもアリな抱腹絶倒バトルを、とくとご堪能あれ!

という内容で、これは読みたくなるに決まっているやつです。
過去のアメリカ大統領の「生前の活躍」と「死後の活躍」を網羅して勉強できる2冊で、これこそ大統領選に向けて至れり尽くせりの2冊でした。
今年は世界各地で重要な選挙が行われる「選挙イヤー」と言われ、それを締めくくるアメリカ大統領選。
そして身近なところでは、まさに東京都知事選が来週に迫っています。アメリカ大統領選も、都知事選も、ともに「カオス」と呼ばれるような状況になっていますが、東京都民として民主主義を諦めず、希望を持って選挙に行きたいと思います。
なお、都知事選つながりでは、立候補されている安野さんの本も読んでみます。