- 作者: 池田信夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 新書
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突然だが、この10月から、地震の大きな揺れがくる前に「これから揺れがきます」と知らせる「緊急地震速報」のサービスが始まった。専用の受信機を購入する家庭は稀で、多くの家で、情報受信の媒体として、テレビを考えていることだと思う。
しかし、デジタル放送では、地上アナログ放送と比べて1-3秒(札幌地区以外の北海道地方では4秒)のタイムラグがあるため、十分に機能しないおそれがある。
「遅延問題」は、日本で行われる(今後の)災害情報通知への問題を含んでいる。具体的には、「緊急地震速報」への通知手段として、現行のアナログ放送では、同時の通報が可能であるが、一方「遅延」が発生する地上デジタルテレビジョン放送では、3〜5秒程度伝達遅延が発生する。その為、仮に5秒前に速報を発進できても、事後(被災後)となる。津波情報に対しても緊急性が要求されるので、人命にからむ問題である。
正直に言えば、これだけをもってみても、地上波デジタルへの移行には大きな問題があるのではないか、と思う。
ましてや、テレビの問題に、相当の国費が投入されていることを知れば、まずます何のためのデジタル移行なのかと悩んでしまう。
すでに「難視聴対策」と称して100億円が支出されている。生活保護世帯には国費でチューナーを支給するといった案もあるようだが、放送を見るにはアンテナなど1世帯あたり3万円ぐらいかかる。生活保護を受けているのは100万世帯程度なので、これだけでも300億円かかるが、残りはどうするのか。また、そういう案が表に出ると買い控えが起こるので、今のところ政府は「無条件に止める」という公式見解を変えていない。
そして、そういう実態に陥った原因の核となる、込み入った事情について詳しく書かれているのがこの『電波利権』ということになる。
エッセンスの部分を簡単に言えば、上に引用した著者blogのエントリのラストに書かれているよう「最初から最後まで役所とテレビ局と電機メーカーの都合だけで計画を進めてきて、土壇場になって消費者がついてこないことに気づいてあたふたしている、という日本の産業政策の失敗の典型だ。」ということになる。外国との交渉下手な日本、ということも含めて、業界話にとどまらず、日本全体に通じるところのある話だと感じた。
以下、5月に書いて放置していた読書メモをお蔵だし。(全くまとまっておらず)
〜〜〜〜
3冊連続して読んだ「テレビ」に関する本では大本命だった本。*1
『CM化するニッポン』のように、もっと「テレビ」に焦点を当てた本だと思っていたが、タイトル通り「電波」について多くのページが割かれ、結果として、テレビの問題が暴かれる。
ところが、基礎知識が不足しすぎているため、語るべき言葉はなく、引用を始めると膨大な量になるため、今回は、目次を羅列し、章ごとのポイントだけを述べるかたちにして記憶のフックとし、今後気になることがあれば、再読できるようなかたちにした。
第1章 浪費される電波
⇒電波の一割しか割り当てられていない携帯電話が、電波利用料の93%を支払っている。(放送は同程度が割り当てられているが、1%しか支払っていない)
⇒電波利用料の大半は、地上デジタル放送の「アナアナ変換」に使われている
第2章 テレビ局を覆い続ける「田中角栄」の影
⇒一部の地方局は、キー局から「ネット料」と呼ばれる補助金をもらって生きながらえている。
⇒日本のテレビ局は、県域免許が建前になっているため、各県ごとに放送局を設立しないと、その県では放送できない。(番組配信のためにはキー局が中継局を建てれば済む)
第3章 政治に翻弄されたハイビジョン
- 政治力学が生んだ複雑さ
- NHKの「ハイビジョン」
- 帯域をふさぐための技術
- NABの勝利
- 標準化の失敗
- 「日本脅威論」が台頭
- 見殺しにされたハイビジョン
- 「デジタル放送は最大の失敗だった」
- 泥沼化するデジタル放送
- 日本でもデジタル化の流れに
- 何のためのHDTV?
- ハイビジョンの教訓
⇒日本で開発されたHDTV技術が「帯域をふさぐ技術」として米国で採用
⇒一方で日本を脅威と見て、日本生まれのアナログハイビジョンは採用されず、デジタル化へ
⇒本来ならばハイビジョンが「国際標準」となる可能性もあった
⇒BSデジタルも帯域をふさぎ、新規参入を防ぐ技術として用いられた
⇒さらに、インターネットを恐れるあまり、HTMLでなく、独自言語であるBMLでのデータ放送としているため、ネットとの互換性がない
⇒地上デジタルへの移行に伴うコストはNHK・民放あわせて中継設備だけで1兆円以上。「コストが1兆円以上で収入増がゼロ」のプロジェクト。
⇒そもそも衛星で行えば200億円で済んだのに地上波でやるのは地方民放の延命が目的。
⇒デジタル用の周波数を空けるために、アナログ局の周波数を別のアナログ局の周波数に変更する「アナアナ変換」には国費(電波利用料)が投入されている名目は「電波の有効利用」。
⇒2011年にアナログ放送を終わらせるのは不可能。受像機の買い替えができない社会的弱者から娯楽を奪うことになる。2016年程度まで「暫定措置」が行われる、というのが業界関係者の観測。結果として、デジタル、アナログの電波はかなり長い間ふさがれることになり、有効利用は無理。
第5章 NHKは民営化できる
- 不祥事続き
- 圧力に弱い経営陣
- 政治に弄ばれてきた歴史
- NC9カット事件
- 島体制とその崩壊
- 島追い落とし工作
- 島の功罪
- 海老沢長期政権
- 安定と停滞の時代
- ゆらぐ受信料制度
- 議論すべき「公共放送」のあり方
- NHKの民営化
- ニュース部門は非営利組織に
⇒民営化は、BSデジタルのような「視聴料」方式にすれば可能
第6章 携帯電話「標準化」をめぐる攻防
⇒日本は、国際標準化について、第二世代で失敗。第三世代でも失敗。(iモードは成功)
第7章 無線インターネット革命の夜明け
- 有線に20年遅れたわけ
- 無線LANの登場
- 超広帯域無線
- ソフトウェア無線
- オーバーレイ
- 無線LANによる公衆無線
- 最大の問題は周波数の制約
⇒(この章は、他の章との繋がりが希薄で、理解度がイマイチ)
第8章 電波開放への道
⇒電波の配給制度をやめて、オークション形式とするべき
第9章 通信と放送は融合できるか
⇒日本のテレビ局は、電波利権を守るため、IPを拒否するが、海外では広がっている
⇒最近になって、IP活用が言われるようになった(総務省審議会中間答申)が、県域放送は堅持。⇒地方民放の既得権を守るため。
第10章 電波社会主義を超えて
⇒IPが情報通信の基幹的なインフラとなる時代(IP時代)には、電波の相対的価値が下がる