Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

平井堅と「4人」とA君と

ここから平井堅の評価。
平井堅は前作『LIFE is・・・』*1しか知らないのだが、予想よりツボにはまり、新作『SENTIMENTALovers 』も聴きたいと思っていた。聴いてみると、ヒットシングル満載の割りには散漫にならずにしっかりまとまったアルバムになっており大満足。*2ちょっと曲調が古い感じのする曲も何曲かあるが、声と歌詞で十分カバー。ちなみにヒットシングルもどれも好きです。
ところで、最近まで知らなかったのだが、平井堅は全部の曲を作曲するわけでなく、結構人に任せている。それは、僕の好きなミュージシャンの典型とは大きく異なる。自分の中で殿堂入りといっても過言ではない4人=岡村靖幸スガシカオ田島貴男中村一義は、いずれも「一人で全部やりたい人」だ。ちょっと気になると思っていた平井堅が、彼らとは異なると思い始めたのは、H15末発売のカバーアルバム『Ken's Bar』の曲目を見たときだった。

5.LOVIN' YOU
6.WHAT A WONDERFUL WORLD
7.You've Got A Friend
8.Instermission
9.大きな古時計
10.FAITH
11.When You Wish Upon a Star
12.ABC(全15曲中5〜12曲目を抜粋)

おいおいと突っ込みたくなるほど直球ばかり。少しでも自分の音楽趣味がはっきりしている人なら、コンピレーションでもこんなに「大ネタ」ばかりにはしない。ましてやカバーアルバムなんて、半分くらいは選曲で決まるのでは?選曲に全く「衒い」(てらい)が感じられない。*3
この「衒い」、つまり、「俺ってこんな良い曲知ってるんだよ」もしくは「こういう曲は当然聴いているんだよ」という音楽知識のひけらかし(啓蒙でも可)というのは、通常のミュージシャンは持っているものだと思うし、渋谷系と呼ばれたアーティストには特に顕著だ。
僕は、これについて「最後の教養としての渋谷系」という文章を格好つけて長々と書こうと思っていて挫折して*4、さらにあまり面白くなさそうなことに気づいたので、もう書かないが、以前書いたエントリでも同じようなことを書いたことを思い出す。あのときは、オレンジレンジと会社の同僚A君の例を挙げて、「衒い」や「教養」の対になる言葉として「天然」と書いた。
そう、平井堅には、そういう趣味的なものに対するこだわりが全く感じられない。つまり「天然」だ。プロフィールを見ると1972年生まれということで、僕よりも年上なのだが、同じ時代を生きてきたとは思えない。
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話がねじれるようだが、先に名前を挙げたA君というのは「面倒だから」という理由で漫画を読まないのだが、これについて関連する話題があったので、引用する。

SF読んでる世代はメインが40代で、毎年平均年齢が1歳ずつあがっている、という、ジョークにあまりならないジョークがありますが、同じように、漫画読んでる世代はメインが30代、ゲームやってる世代はメインが20代で、今の10代は本を読むどころか、漫画も読まなければゲームもしません。携帯でメールのやりとりをしているだけです(メールで話すことのネタとして、話題になっている本や映画のようなものは、かろうじて読んだり見たりします)。電車に乗って周りを見てみるとわかるでしょうが、活字の本を読んでるのはたいてい40代以上の人間で、それも近くの図書館から借りてきた本です。

40代、30代、20代の話とも結構思い当たるフシがあるが、10代の話については、コメント欄で述べられているように、

id:oojiji『僕は中学生の親父でもあるのですが、10代がそんなにTVも漫画も読まないと言った印象は無いですよ。ただ、小説、漫画、TV、ゲームに関して選択肢がやたらと広がってしまい、同じ作品を読んでいる人の数が相対的に少なくなってしまい、知識ベースの共有が出来なくなっていると言った事はあるみたいです。』

というのが本当なのだろう。
また、10代が尾崎を聴かなくなった理由についても以下に引用したid:swan_slabさんの意見には納得ができるし、いくらでもオルタナティブがあるから共通の話題が存在しなくなり*5、それについて常識として知っておくべき「教養」も居場所を失ったのかもしれない。少し寂しい気もするが。

最近の若い世代が尾崎に共感できなくなったのは、彼らが尾崎より大人だからそんなみっともない反抗をしないのではない。自己形成するためのモラトリアムが必要なくなったのでもない。、学校という権力(暴力)装置が相対的におとなしくなったうえ、学校以外の場所から多様で自足的な価値観を選び取れるような選択肢が増大したせいであると考えることができる。学校で反抗する必要がなくなったし、パブリックな空間で正面から自らの自律性を主張し、反抗するまでもなく、誰にも干渉されない、ないしは他者に気がつかれないプライベートな居心地のいいニッチをみつけて自足生活を営める可能性を多くの若者が見出したことによるのではないだろうか。

かなりとっ散らかった文章だが、とりあえずこの話題はここで終了。
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さて、平井堅は「天然」と書いたが、否定的な意味ではない。『KEN's BAR』も、持ち前の歌唱力で魅力的なアルバムになっていると思う。というか「歌唱力」なんて3文字では表せない。ラスト曲では、故・坂本九とデュエットをしているのだが、こういうことが出来る日本人ミュージシャンはこの人くらいじゃないのか。
ただ、僕の好きな4人と比較すると、あまりにも違うので、それを結構面白がって見ている。平井堅が「俺が俺が」と前に出て全部仕切りだすと、非常に「自分好み」のミュージシャンになるのですが・・・。

*1:一曲目の「Strawberry Sex」が岡村靖幸風エロファンクで度肝を抜かれた。

*2:ただし、何度も書くように、一曲目にシングル曲を置くのはどうか?

*3:また、「bridge」の草野マサムネとの対談で、互いに聴かせたいCDとして、イエス『こわれもの』を紹介してもらい、「これ、洋楽ですよね」と返したのにはびっくりした。さらに、平井堅が、マサムネに薦めた本3冊の中に、あだち充『タッチ』が入っていたことにも仰天した。

*4:第一、僕自身に教養が無い。

*5:プロ野球が流行らなくなったのも同じ理由だろう。という意見をどこかで読んだが失念してしまった。