Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

NHKスペシャル「脳梗塞からの“再生” 免疫学者多田富雄」(12/4)

壮絶な病との闘いで得た生きる力
脳梗塞からの“再生”免疫学者多田富雄
NHKスペシャル◇国際的な免疫学者として広く知られ、エッセーの執筆や能の創作も手掛ける東大名誉教授の多田富雄氏に密着する。71歳の多田氏は4年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、右半身不随になった。介護なしでは日常生活も送れない日々に一時は自殺まで考えた多田氏だが、科学者の目線で病気を見詰め、受け入れた。以来、多田氏は車いすでどこへでも出掛け、エッセーでは福祉の不備を厳しく指摘するなど精力的に活動している。そんな多田氏は、科学者として世界の核問題に危機感を覚え、原爆を題材にした能を創作。がんという新たな困難にも負けず、公演の準備を進める多田氏の半年間を追う。

強烈な印象の残るドキュメント。
上の番組紹介にあるように、多田氏は国際的な学者なのだが、右半身不随になってからは、咽喉の機能の関係で「飲み込む」動作、「話す」動作ができない。
特に「飲み込む」動作ができないことは相当な苦痛のようで、「これから死ぬまで乾いたのどを潤すために水を飲むことができないのか、と思うと死にたくなる」(うろ覚え)と本人も語っていた。また、そもそも唾液を飲み込めないので、常に片手に持ったハンカチで口を拭かなければならない。大好きなお酒を飲む時は、ゼリー状のものに和えて食さなければならない、と本当に苦労が多い。
勿論、学者だったのだから、「話す」ことにも相当な執着がある。リハビリの効果があるのは脳梗塞後の半年程度で、それ以降は、著しい効果が望めないという。しかし、多田教授はリハビリをやめない。リハビリは、人間の尊厳を取り戻すべく行う「創造的な」行為だという。リハビリの甲斐あって、あるレセプションの乾杯の発声「かんぱーい」のひとことが言えるようになったのには涙が出た。
しかし、志は高い。まだ現役の研究者で、若い学者との議論も怠らない。脳梗塞で倒れてからも著作を重ね、能の創作も手がけている。上記のような状況で、だ。確かに、普通の71歳とは異なり、自分を後押しするものが多いかもしれない。これまでの積み重ねもあるだろう、周りからの信頼もあるだろう。しかし、自殺まで考えた人が(しかも今年に入って癌まで発病した人が)ここまで出来るのは、やはり科学者としての使命感が人一倍強いからだろう。
短期的な成果を追い求めず、遅れてもいいから「寛容で豊かな研究」を、と説く多田教授の言葉は非常に重みのあるものだったし、研究者ではない自分の人生にも強く訴えるものがあった。
著作は是非手にとってみたい。

http://www.rs.noda.tus.ac.jp/~immunol/tada/mes.html(多田教授HPのメッセージ)