ようたは、最近、本屋に行くと、回転書棚がお気に入りで、棚を回したり、思い思いの本を立ち読みしたりしている。
当然、そういうところにある絵本は、偕成社とかポプラ社とかの「ブランド物」ではなく*1、知らないメーカーがつくった「アニメえほん」シリーズなどの、明るい絵で内容が易しく、低価格の本なのだが、二週間ほど前、昔話の「本当は怖い」部分がどうアレンジされているか少し気になって、「さるとかに」を手にとってみた。
いわゆる「さるかに合戦」について自分は、基本的なあらすじを以下のように覚えていた。
- 猿と蟹が、柿の種とおにぎりを交換する
- 蟹は猿に青い柿をぶつけられて死んでしまう。すると、甲羅の下から子蟹がうじゃうじゃ這い出してくる。
- 子ガニが敵討ちのためにサルの居場所へ向かう。その途中で、栗、蜂、石臼、牛の糞という援軍を得る。
- 猿を懲らしめて終わり
確認してみると、予想通り「アニメえほん」バージョンでは、上記(2)(4)について、(2)親がには死なずに寝込むだけ(4)猿と蟹は仲直りする、という部分が異なっていた。が、それだけではなかった。
確認したのは2種類(ここではA,B)あるのだが、(3)の援軍の部分も記憶とは異なっていたのだ。すなわち
- 絵本A:牛の糞は登場しない
確かに、敵討ちにおける「牛の糞」の役割は、蜂に刺されて外に飛び出た猿を転ばせるだけの役割、いわば石臼のアシスト役なので、なくてもいいし、「牛の糞」が仲間になるくだりは、親がやや説明しにくいのかもしれない。ところが、もう一冊では、
- 絵本B:牛の糞の代わりに昆布が登場する
ということでびっくりした。どこかの地方のアレンジなのかもしれないが、どうも、牛の糞のことは「なかったことにしたい」らしい。
その後、図書館に行ったときに、松谷みよ子の紙芝居で確認したが、やはり昆布は出てこず、(1)〜(4)とも、自分の記憶とほとんど変わらない内容で安心した。
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ところが、だ。
土曜日、仙台市博物館に行ったのだが、昔の玩具が充実している幼児遊戯室で見つけた本では、さらに内容が異なっていた。
「夕鶴」で有名な劇作家・木下順二が文章を書いたもので、タイトルは『かにむかし』。1959年発表の本で、タイトルにも聞き覚えがある。これはオリジナルの匂いがすると思ったのだが・・・。
- 作者: 木下順二,清水崑
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1976/12/10
- メディア: 大型本
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- 蟹は、柿の種を自分で発見し、猿との遭遇は、柿が実って以降。
つまり、印象的な「おにぎりと柿の種の交換シーン」は除かれている。
多分バリエーションの違いだとは思うが、もしかしたら、交換シーンそのものが「そらいろのたね」(1967)の冒頭シーン(そらいろのたねと模型飛行機の交換)からインスパイヤされたアレンジなのかもしれない。
そして、問題の(3)の援軍について
- 子蟹は、きびだんごをやることで仲間を増やしていく。
- 栗、蜂、石臼、牛の糞に加えて「はぜぼう」が援軍に加わっている。
きびだんごの話は、これもバリエーションだとしても、はぜぼう(収穫後の稲を干す際に使う道具とのこと)には驚いた。
はぜぼうの役割は、石臼を上に置いておくつっかえ棒役で、相当に地味。彼が出てこない話では、石臼は自分で屋根の上にのぼってしまうので、はぜぼうの出る幕は無い。牛の糞以上に地味なので、省略されても仕方の無いことなのかもしれない。
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その後、青空文庫で見つけた芥川龍之介の猿蟹合戦(後日談)を読むと、援軍として挙げられているのは、臼、蜂、卵ということで、これまた大幅に異なっている。牛の糞の代役を卵が務めているのかもしれない。
この文章を見るに至り、昔話のオリジナルを一つの話に求めようと思った自分がバカだったことに今更気が付いた。
ちなみに、この後日談によれば、敵を討った蟹の一味には、以下のような処分を受けたようである。
彼等は仇(かたき)を取った後、警官の捕縛(ほばく)するところとなり、ことごとく監獄(かんごく)に投ぜられた。しかも裁判(さいばん)を重ねた結果、主犯(しゅはん)蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。
芥川龍之介は、相当、理屈っぽく、素直でない人間なのだなあ、と思ってしまった。
追記(12.3)
その後、ようたと一緒に大型書店に行ったときに、以下の本を見つけた。
- 作者: 谷真介,高橋信也
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 1990/11/01
- メディア: 大型本
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巻末にある著者による解説によれば、やはり地方によってバリエーションがあり、「卵」は栗の代わりに出てくるキャラクタのようで、「昆布」についても言及があった。「標準的な」ストーリーである、この『さるかに』という絵本は、中国、四国地方のバージョンを元にしているという。
また、かにが柿の種に歌う歌(早く芽を出せ柿の種/出さねばはさみでちょん切るぞ)についても詳しい解説があり、勉強になった。
そして、なるほどと思ったことが一つ。
キャラクタとして「牛の糞」が出てくるくだりは、牛の糞のような、ふだん役に立たないように見えるものでも活躍の場がある、というように解釈するのだそうだ。
ほら、やっぱり「牛の糞」が出てこそ、さるかにですよ!
自分も牛の糞のように頑張る。