Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

環境にも健康にもやさしい「Velib」の成功に続け!

昨日の日経春秋に「Velib」の話題が出た。(全文を引用)

「傘の自由化」なるアイデアを作家の大崎善生さんが書いている。必要なとき差せるよう傘を社会の共有財産としてあちらこちらに備え、雨がやんだら近くの置き場に返せばいい。駅や温泉街で時折見る仕組みが東京全体にあったら、と作中の主人公は夢想する。

▼パリでは、去年7月に市が始めた「自転車の自由化」が1年ですっかり景色に溶け込んだ。制度の愛称「ベリブ」はフランス語の「自転車」「自由」の合成語。駐輪場1200カ所の1万6000台を24時間、好きなとき好きなだけ使う。うるさ型の多いパリで、利用者の94%がサービスに満足というから驚きだ。

▼もちろんタダとはいかないが、ミソは料金の累進制にあるのだそうだ。例えば1日券を1ユーロ(約170円)で買うと、30分までなら何度乗っても無料。ところが、30分を超えたら次の30分は1ユーロ、1時間を超えたら次の30分は2ユーロ、1時間半を超えたら次の30分は4ユーロにも……。

▼駅などの置き傘は「善意の傘」とも呼ばれる。ただし、家に持ち帰ったまま忘れたか、忘れたふりなのか、この善意は少々怪しげではある。一方の自転車は、エコだの健康だのの大義に損得の味がからむ。せっせとこいでさっさと返す。30分を超えそうなら手近な駐輪場で乗り換える。これがコツなのだという。

冒頭で挙げられている大崎善生の著作は『パイロットフィッシュ』である。記憶力には全く自信がないが、これについては胸を張って言える。なぜなら彼の著作は一冊しか読んだことがないから・・・
・・・
それはさておき、「自転車の自由化」については、日本でも多くの自治体が取り組んできたはずである。
調べ出すときりがないので、少しだけググってみると、こんなページを発見。
自転車ツーキニストとして有名な疋田智さんによる文章だ。

今月のアタマ(03/12/1)の朝日新聞朝刊に何だかヤーな感じのする記事が載った。
記事の内容は上記の如くで、荒川区が共有自転車を導入したというもの。本当に行政とメディアとの「分かってなさ」の連係プレーには、困ったものなのだ。
この「フリー自転車(=共有自転車)」というのは、そのまま「フリーバイク」を日本語読みしただけのもので、1960年代からヨーロッパ各市で、失敗に失敗を重ね、今では誰にも相手にされない「妄想のプロジェクト」のことである。

かつてオランダが2回もそれをやって、2回とも失敗した。盗難とコスト高のためだ。
ドイツの自転車最先進都市ミュンスターには、レンタサイクルはあっても共有自転車は最初っから無い。
(略)
共有自転車の実験は、諸々の問題点、これから考えるべき点を提示しながら、もう終わった。私はそう思っている。
日本でもつくば市で500台を導入し、やはり惨敗とも言える失敗をした。
練馬区西武線の駅前に400台の共有自転車を持っている。だが、10年間、その数は増えない。むしろ350台に減った。10年間もの「長期実験」の末に、である。
唯一、続いているかに見える(まだ5年に満たないが)九州のある街にしても、学生ボランティアの存在なしにはやっていけないのだ。
こういう事実に本来はもうそろそろ気づいてもいい頃ではないか。

疋田さんの主張する「共有自転車」の問題点は概ね以下の通り。

  1. 自転車非利用者が使用することが多いので、放置自転車対策には逆効果になる。(導入台数分だけ放置自転車が増加する)
  2. 無料の「公共物」は大切に扱われないため、維持管理費用(公費)がかかりすぎる。(過剰に利用者の善意に期待するシステムが誤り。⇒特に、故障時に、自転車屋に持っていく利用者はほとんどいないと考えられる)
  3. 自転車の持つ、ドアトゥドアの良さが失われる。(関連して、域外居住者による乗り捨て被害が予想される)
  4. 使用される「ママチャリ」はクオリティが低く、自転車利用の普及につながらない。(一方で、「公共物」にするには、ママチャリしか選択肢がない←盗られてしまうから)

自分も、「共有自転車」は良い考えなのになあ・・・と思っていた時期に、各地での失敗についての話を知ったので、やはり、これは「妄想」的なアイデアなのか、とがっかりした覚えがある。
だから、最近良く話題にのぼるパリでの「べリブ」の成功を聞いて、うまくいく地域もあるのだ!と驚いた。
ところが、疋田さんの記事にも書かれているように、レンタル代によって、メンテとリスクを他人に負わせる「レンタル」は、「共有自転車」とは別物ということである。したがって、春秋の記事で「傘の自由化」に対応するかたちで「自転車の自由化」として「べリブ」を引き合いに出しているのはおかしなことといえる。春秋の記事にも、料金制度のうまさが「べリブ」成功の鍵であることがはっきり示してあるのだから、ただのイチャモンなのだが。
ただし、料金制度をいかに工夫したとしても、東京など日本の主要都市は、職住が離れていることから、自動車や電車などの通勤手段の代替としての自転車利用は普及しないだろう。また、道路インフラ(自転車専用道路)の整備が追いつかないことから、都市内の移動手段としても使いづらいことが想像される。特に、自転車利用による首都圏の交通渋滞などが起きると厄介である。
とすれば、東京で「べリブ」を成功させるためには、自動車規制がまず必要ということになるかもしれない。それ以前に、環境対策なのか、放置自転車対策なのか、はたまたメタボ対策なのか、目的を明確にしておくことが大前提だが・・・。

補足:ICタグでの管理もポイント

大変に思える管理は、ICタグで行っているようです。
あまりまとまったページが見つけられなかったのですが、以下に、科学技術振興機構の定期刊行誌からユビキタスの大家である坂村健教授の文章を引用します。

ヴェリブという貸し自転車は全部にICタグがついているんです。こういうステーションが市内750か所にあって, どこで乗ってもどこで降りてもよくて,30分以内だとタダ。しかもこの支払いはクレジットカードだけ。これは非常に便利ですよ
この自転車は, どこで何台借りているのか, どこに何台あって, 走っているのは何台かというのが全部コンピュータで管理されています。1万3,000人が年間パスを登録して,パリ市内に1万5,000台の自転車が配置されています。今年の7月にオープンしたんですけれども, もう大人気です。非接触ICカードを使って, 返すのも借りるのも簡単, 短距離移動での自転車の利用者を増やすという目的を明快に打ち立てて, 新テクノロジーを最大に投入したということが功を奏したのです。

この文章のあとでは、運営しているのが大手の広告代理店!という少し変わった仕組みについても書かれていますが、やはりICタグの技術があってこそ可能のことのようです。