Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

匠の技を感じる本〜『佐藤可士和の超整理術』

佐藤可士和の超整理術

佐藤可士和の超整理術

内容は、日本を代表するアートディレクターが披露する問題解決の技術。
ドラッカーなどにも見られるよう、実務での適用事例が多く分かりやすい。
売れた本ということで手にとって見たが、自分にとって良い本だった。


〜〜〜
こういったノウハウ本のエッセンスは、突き詰めてみれば、どれも似通っている。
一方で、ノウハウ本の価値は、この方法を試してみよう!と多くの読者に思わせることができるか、という部分で評価されるべきだと思う。(本は面白いが、この方法は試したくない、というタイプの本は、違うジャンルの本だと思う)
したがって、良いと思えるこの種の本は、手法の斬新さ云々ではなく、以下の点に成功しているといえる。

  • 書き手そのものの魅力で読者を引き寄せ、試してみようと思わせる。
  • 従来からある手法を、全く新しい手法であるように料理し直して、試してみようと思わせる。

佐藤可士和の超整理術』は、この2点の両方で非常に魅力的な本だった。

書き手の人柄

結局のところ、自分はいい加減な人間なので、方法が正しいかどうかではなく、主張している人が良さそうな人かどうかに注目してしまう。
この本で挙げられる問題解決の事例は、有名企業の一般的なものなどではなく、全て本人の経験で構成されている。それがこの本のキモで、本人がぶつかった壁と当時の思いが上手に語られているので、自分はそれを追体験しながら、佐藤可士和にシンパシーを感じていった。また、自分が自分が!ではなく、基本的に、相手(客)の気持ちを大事にするところがこの本の特徴で、故に「他人事を自分事にして考える」などのコミュニケーションの工夫についても多くのページがさかれていた。佐藤可士和は絶対に「いいひと」だ。
ケータイや発泡酒ユニクロ国立新美術館など、これまで消費者として関わる機会があったものが多く題材として取り上げられており、試行錯誤の末に生まれたアウトプットが、シンボルマーク等の一目で分かるものであることもいい。
学生時代にこの本を読んだら、間違いなくアートディレクターという仕事に憧れていただろうと思わせる文章だ。

「視点」の導入

あとがきでも語られているように、仕事術に関する書籍化のオファーに対して、自分の思考回路を形にする切り口として「整理」を選んだそうで、本当は「問題解決の技術」が主要テーマであるといえる。
本書では、一冊を通して、別次元のものに思える「整理」と「問題解決」が、非常に強いつながりを持っていることが分かりやすく説明されているのだが、「整理」という視点を導入することにより、問題解決というテーマの見通しが非常に良くなる。特に、前述したとおり、ここで挙げられている事例のアウトプットは、整理の上で無駄を極力そぎ落とし、これ以上ないほどシンプルなかたち(シンボルマーク等)で世に出ているから、説得力がある。
この本で効果的に使われているキーワードに「精度」がある。たとえば以下ような使われ方をする。

自分の考えだけでなく、相手の考えもきちんと整理して理解することができれば、コミュニケーションの精度も格段にアップします。P154

視点に沿って情報の整理を行い、できるだけ無駄を省いて言葉を組み立てていくことで、伝わりやすくなるし、相手の思いを確認しやすくなる。つまり「精度」とは、単にゴールに向けて最短距離を目指す「効率性」を示すのではなく、「本質的」かどうかを示すと言えそうだ。
書いていて気づいたが、ほとんど「効率」という言葉は出てこなかったように思う。効率を追うのではなく、整理によって、「本質」に近付くことに全力を注ぐ姿勢が、佐藤可士和の人柄をより良く見せているのかもしれない。

佐藤可士和の超整理術とは

具体の超整理術の説明は、冒頭と最後にうまくまとまっている。
最後に、佐藤可士和の超整理術とは何かについて6章から引用する。

■整理術の「空間→情報→仕事」それぞれのレベルのポイント
1.空間の整理術
 整理するには、プライオリティをつけることが大切
2.情報の整理術
 プライオリティをつけるためには、視点の導入が不可欠
3.思考の整理術
 視点を導入するためには、まず思考の情報化を


■空間の整理におけるポイント

  • 定期的にアップデートする→モノを増やさないため
  • モノの定位置を決め、使用後はすぐに戻す→作業環境をすっきりさせるため
  • フレームを決めてフォーマットを統一する→わかりやすく分類するため

■情報の整理におけるポイント

  • 視点を引いて客観視してみる
  • 自分の思いこみをまず捨てる
  • 視点を転換し、多面的に見てみる

■思考の整理のポイント

  • 自分や相手の考えを言語化してみる
  • 仮説を立てて、恐れず相手にぶつけてみる
  • 他人事を自分事にして考える

それぞれのポイントは、具体例の中で、さらに分かりやすく紹介されており、この書籍全体(装丁も含む)が、これらの思考の過程から生まれたことは容易に想像がつく。そして、文章も装丁も「匠」の技と感じ行ってしまうほど、個人的には素晴らしいデザインだと思う。
この本は、しばらくしたら再読したい本だ。


なお、自分は整理ができない人なので、「空間の整理」についてのポイント「モノの定位置を決めること」「定期的にアップデートすること」は、オフィスや家で、自分のやり方を変えながら試している。「情報の整理」「思考の整理」も意識的に行っていきたい。