Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

7/1オリジナル・ラヴ『HOT STARTER 09』ツアーin渋谷CLUB QUATTRO(1)

まずは頭でっかちの感想を書きます。
追ってライトな感想を書く予定。

最初に「メジャー」について書かせてほしい

つい先日、NHKで毎週土曜日に放送されていたアニメ「メジャー」の第5シリーズ「ワールドカップ編」が終わった。
最終回は、ワールドカップを終えたあとの主人公・吾郎の今後を描く内容で、タイトルは「明日への道」。いわば第6シリーズの予告編だ。
〜〜〜

ワールド・カップ勝戦で、父の仇(かたき)でもあり、吾郎の生きる拠り所であった、メジャー投手ジョー・ギブソンとの最初で最後の対決を終える。*1結局、試合には敗れるものの、全力を出し切った素晴らしいゲームとなった。
しかし、いわば人生の目的だった対決を終え、燃え尽きてしまった吾朗には、野球を続ける理由が見つからなかず、ライバルたちがシーズン前のキャンプで必死に競い合っている中、日本に戻ってきてしまった。


一方、吾郎の活躍を見て、居ても立ってもいられなくなった小中高のチームメイト達が、連絡を取り合い、近所で野球をすることになった。
闘志を失った吾郎を心配したガールフレンドからの電話で、試合の存在を知った吾郎が駆け付けた野球場には、かつての戦友たちが沢山いる。エラーも多く、スコアボードに並ぶのはザ・草野球という二桁の得点だったが、そこにはボールを追いかけるのに夢中なたくさんの笑顔が溢れていた。


そこで吾郎は気づくのだ。

将来の目標とか
勝負へのこだわりとか
そんなややこしいもんが最初からあったわけじゃねえ!!

投げる 打つ 捕る

その一つ一つがただ
ワクワクするほど楽しくて
ちょっとずつ上手くなっていくのが嬉しくて
気がついたら
グラブを持って外に飛び出していた!!

そうして考えに耽っていた吾郎の肩越しに声がする。
「何、しょぼくれた顔してんだよ。ごちゃごちゃ考えるより体動かせよな」
それはリトルリーグのユニホームを着た小学生の吾朗だった。

驚いた吾郎は問いかける。
「なあ、お前、何で野球やってんだ」

「そんなの分かりきってんだろ!野球が大好きだからに決まってんじゃん!」

そして、吾郎は、自分を取り戻し、戦友たちのもとに駆け寄り、一緒になって野球を楽しみ、メジャーへの決意を新たにする。

「原点回帰」としてのHotStarterツアー

『メジャー』の主人公である吾郎は、勝負に意味を与えすぎて、自分にとって野球は何であるかを忘れていた。しかし、野球を仲間と一緒に楽しむことで、かつての自分を思い出し、野球への情熱を取り戻すのだった。
今回のオリジナル・ラヴのライヴは、まさに、それだった。
かつて無いほど無邪気な田島貴男と3人の仲間の笑顔は、まさに『メジャー』のキャラクターが見せた笑顔と重なって見えた。

過去のアルバムを振り返る

少し振り返ってみると、大雑把に分けて『ムーンストーン』までのアルバムは、外からのオリジナル・ラヴ「像」から逃げようとする意識が強かった。その後『踊る太陽』以降の、最近のアルバムは、音楽性へのこだわり以上に、自らが何を語るか伝えるか、という部分に田島貴男の関心が集まっていたように思う。別の言い方をすれば、musicianではなく、artistたろうとしていた。岡本太郎の影響もあるのかもしれない。
その極北は『街男 街女』で、このアルバムは、ジャケットに描かれているように、多くの人を酔わせるキツイお酒でありながらも、一見さんお断りの雰囲気を持つ。オリジナル・ラヴのアルバムの中では、最も「不親切」な部類に入る作品といえるだろう。*2

ただし、田島貴男の、「作品を通して何かを伝えたい」「人を感動させたい」という強いこだわりは決して無駄には終わらず、「鍵、イリュージョン」と「明日の神話」という傑作二曲に実を結んでいる。
その方向性は、自分にとって望むところだし、そういう田島貴男を応援していた。

迷いの象徴としての2007年ツアーと『東京 飛行』

しかし、田島貴男自身には迷いがあった。
迷いの象徴が2007年の「エクトプラズム、飛行ツアー」。
このとき、自分がこのブログに記した感想は、“musician田島貴男”よりも、近作に顕著な“artist田島貴男”を前面に出して欲しかったという批判だったが、おそらく田島貴男自身もどちらの方向に振れるべきか迷っていたのではないか。初期の曲重視というスタンスも出しながら、artist田島貴男の方向も捨てきれないという、どっちつかずの状態だった。
今思えば、アルバム『東京 飛行』にも同じことが当てはまり、悪く言えば中途半端で、覚悟を欠くアルバムになっていたように思う。


ただし、こういった批判は、単純に耳で聴いて楽しめるかどうかという視点ではなく、そのアルバムの存在理由は何かというような頭でっかちな視点から来るものである。一方で、例えば□□□のように、そういった音楽への姿勢に魅了されている人も数多くいるはずだ。*3

2000年代以降の田島貴男を本当に理解している人が果たしてどれくらいいるのだろう?とよく思います。もちろんアーティストの理解等と全く無関係に聴き手が感じたままに音楽そのものを楽しむというのも全く正しいし、自分もそういった楽しみ方をする事の方が多いタチなのです。彼のここ最近の異様なテンションは、情報過多からの逃避という意味で原理主義的に一方向に吹っ切れてしまう、最近のアーティストがよく陥りがちなパターンとは全く異なります。

むしろ彼ほど誠実に一アーティストとして時代と向き合い、活動している人はそうはいないです。だけに、同時代に生きる僕達としては彼からのメッセージを受け止める責任(というと大袈裟ですが)があるのではないかとついつい思ってしまうのです。まあ単純に自分が好きだからみんなもっと分かれよ、っていうことなんですが。
(アルバム『踊る太陽』の推薦コメント)

原点回帰の意味

ムーンストーン』以降、何度となく繰り返された「原点回帰」という言葉は、移ろいやすいオリジナル・ラヴの「音楽性」について指し示すものだったといえる。しかし、音楽的な「回帰」は、「逆戻り」にも映るため、常に音楽的な進化を目指す田島貴男には、どうしても受け入れられない。
一方で、相変わらずライヴで人気の高いのは、昔の曲ばかり。そういう中で出たのが『東京 飛行』というアルバムである。1992年発表曲を改題してセルフカバーした「夜とアドリブ」が入っているのが象徴的だが、音楽的な部分で回帰している部分も多々ある。


しかし、ファンと同様、田島貴男も「原点回帰」という言葉の意味を勘違いしていたということを、今回のライヴを見た今だから言える。
音楽性とは無関係に、まず、演奏しているミュージシャンたちが楽しむこと。そして、それを聴くファンも一緒になって楽しむこと。それこそが、オリジナル・ラヴに限らず(メジャー)ミュージシャンの「原点回帰」に他ならない。


2007年ツアーと今回のライヴの違いは、ツインギターにベース、ドラムという編成だけではない。セットリストを見ると、リメイク曲である「夜とアドリブ」を除き、近2作からの選曲が無いことに大きな意味がある。特に「明日の神話」「鍵、イリュージョン」が無くなったのは、「伝える」よりも「楽しむ」を重視した結果であるように思う。いわば、これらの曲がないことが「原点回帰」の象徴なのだ。

新曲とこれから

今回、新曲4曲が披露されたが、どれも歌詞も曲調も明るく、印象はいい。今回演奏された「恋の彗星」同様、さわやかな曲が多かった。

  • 「スターター」と「希望のバネ」*4は、歌詞内容がやや重なっているものの、ポジティブで未来志向の曲。
  • 「ディランとブレンダ」は、中高生の頃のクラスのヒーローのことを歌った歌?で、これも前向きなもの。(まさか「太郎と敏子」のあとに、この二人が来るとは思わなかったが・・。)
  • 「タイトル無し」は現在進行形のラヴソングで、これもポジティブなもの。

中でも、ビバリーヒルズ高校白書から着想を得たという*5「ディランとブレンダ」が最高。ライヴでも盛り上がっていたし、サビで繰り返される言葉が「Dance to the music」*6であることは、今後の展開のヒントになっている気がする。

若干の不満

ということで、近2作からの選曲がゼロなのには若干の不満もあるが、今回のライヴは大満足だった。
ただし一つ文句をいうとすれば、Tシャツのデザイン。
今回のツアーグッズはTシャツ(黒)のみだったのだが、あのデザインはどうなのだろうか。体育祭用に高校生がつくるTシャツでも、もっといいものが作れるように思う。通常、よかったライヴでは、お布施代わりにグッズを買うことが多い自分でも、絶対に着ることが無いTシャツにはお金を払えない。人の好みもそれぞれなので、実際に「売れるデザイン」を考えるのは大変なのだろうが、無理に「売れないデザイン」にする必要もないと思う。
だからグッズにすべきは。デザインが悪くても使えるスポーツタオルだと思うのだが・・・。(原価が高いのか?)


田島貴男の心境を語った部分はフィクションです。)


続き⇒7/1オリジナル・ラヴ『HOT STARTER 09』ツアーin渋谷CLUB QUATTRO(その2)

*1:ギブソンは心臓の病気のために現役続行が不可能であるため、再戦は叶わないのだ。

*2:ビッグクランチ』と方向は違えど、同様の「不親切さ」「異常さ」があるアルバムといえる

*3:同じコメントを過去のエントリでも取り上げています。http://d.hatena.ne.jp/rararapocari/20051221/kuti

*4:「希望のバネ」はオバマ大統領に影響を受けて作った曲だという。この曲だけは、サビ以外が歌謡曲ぽくて評価は微妙。ちなみにタイトルも微妙だ。何といっても「希望の轍」があるからね・・・。

*5:歌詞に「ビバリーヒルズ」という言葉も出てくる

*6:そのまま次作のアルバムタイトルにしても良い気がする。