Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

オリジナル・ラヴ「好運なツアー」個人的まとめ(2)〜「大人の余裕」について

第二回目です。
遅ればせながら、今回のセットリストは以下のとおりです。

  1. ミリオン・シークレッツ・オブ・ジャズ
  2. It's a Wonderful World
  3. 灼熱
  4. カフカの城
  5. The Rover
  6. 心 -angel heart-
  7. フェアウェル フェアウェル
  8. JUMPIN' JACK JIVE
  9. 夜とアドリブ
  10. ふられた気持ち
  11. Glass
  12. 夜の宙返り
  13. プライマル
  14. 接吻
  15. ディア・ベイビー
  16. ひまわり(新曲)
  17. GOOD MORNING GOOD MORNING
  18. Bird
  19. ボラーレ!

encore 1

  1. 朝日のあたる道
  2. 好運なツアー(新曲)
  3. 遊びたがり

encore 2

  1. ムーンストーン

encore 3

  1. 上を向いて歩こう


今回のツアー内容は「大人の余裕」を感じさせるものでした。漠然とそう思っていて、ライヴ終了後、他の人の意見も聞いたら、同じことを感じていたようです。
つまり、これまでのオリジナル・ラヴのライヴには、悪い意味でギリギリ感があり、田島貴男の全力疾走を観客が応援するみたいなところが、一部だけを抜き出すとあったわけです。ところが今回は、演奏者、観客が、ともに、その「スリル」を感じる必要がなかった。ゆえに、純粋に演奏に集中ができ、感動が増したのでした。


以前との違いは何なのか?について考えると、2つのキーワードに思い当たります。

「大人の余裕」キーワード1:血肉化*1

一つ目は、「血肉化」です。*2
前エントリにも書いたことですが、今回のツアーは、「今の自分はこういう音楽が好きです」とか「こういうことやってみました」的なことが少なかったように思います。2004年の“VINTAGE SONG”や“沈黙の薔薇”のライヴのときは、笠置シヅ子から沢田研二サザンオールスターズまでカバー曲が満載で、田島貴男が今興味を持っている音楽が前面に出た選曲でした。自分がオリジナル・ラヴライヴのベストに挙げる1999年の“FIREWALKING 焔歩”ツアー最終日の日比谷野音は「やってみました!」満載で、展開が全く読めないという意味でとても印象に残ったのです。
しかし、今回は、そういった飛び道具は無しにして、体内を通過して出てきたものだけを披露した感じがしました。この辺の違いは、アルバム『東京 飛行』に感じた好印象とも通じるので、以前のエントリ*3で引用した鈴木あかねの記事を再び引用します。

ちょっと前までは、アルバムを作る前に、方向性はこれで、言葉は夏目漱石を読んでメモっておいて、とか、創作のためにいろんな練習をして、その練習の成果をそのまま形にしていたと思うんです。
今回の『東京 飛行』が違うのはエレクトロニックもエスニックもやりました、美空ひばりにハマって歌唱に気を遣ってみました、そういう回り道の経験がきちんと体内を通過して出ているんですよね。(インタビュアー鈴木あかね氏の発言)

自分が「血肉化」という言葉を使うのは、演奏や歌というもの自体が、頭でひねり出す部分もありながら結局のところ肉体(フィジカル)に由来するものだからです。特に、今回は、はじめに挙げたバンド演奏以上に、田島貴男の「歌」がいつも以上に良かったように思えたのです。さらに言えば、声そのものが目立ち過ぎず、バンド演奏と調和していたことも、プラス要素でした。田島貴男の熱唱がポイントの「ふられた気持ち」の“雄叫び”部を抑えて歌っていたのは、物足りない気持ちもしましたが、演奏全体のバランスを考えてのことだと思います。バンド演奏全体が血となり肉となっているからこその、あの歌唱だったのではないかと感じたのです。


ややこじつけになりますが、たまりにたまった新曲をほとんど演奏しなかった*4理由もここにあると考えます。つまり、聴き手にとっても、体内を通過したものでなければ、ライヴ全体のグルーヴが生まれにくい。田島貴男一人だけではなく、バンド、そして会場全体が高いレベルで融合できる選曲だったからこそ、「大人の余裕」が感じられる演奏となったのです。*5
田島貴男は、つい先日の日記で、「自分が歳を取ったからか、ライブパフォーマンスの「コンセプト」に反応するか、「芸」に反応するかなら、明らかにいまの自分は、「芸」に反応するんだなあと思った今回のフジロックだった。」と、フジロックを見た感想を述べています*6が、まるで、「コンセプト」重視の“FIREWALKING 焔歩”ツアーと、「芸」重視の“好運なツアー”を対比したような表現だなあと思いました。

「大人の余裕」キーワード2:カンペ

一つ目が長くなりましたが、二つ目のキーワードは、「カンペ」です。笑
自分自身、普段から、それほど歌詞の間違いを気にしないタイプだからかもしれませんが、今回は、そういう点での危なっかしさは全くと言っていいほど感じませんでした。自分もラスト付近で気づきましたが、どうも譜面台に歌詞が書かれた紙が置かれていたようで、その御蔭みたいです。
普通に考えれば「血肉化」出来ていないから歌詞が覚えられない!と、上に挙げた内容と反するようですが、これはこれで矛盾していないと思います。苦手部分を無理して潰そうとして、得意部分まで殺してしまうことは、それこそ歌手としてはプロ意識に欠ける行為で避けるべきなので、大正解だと思いました。勿論、「カンペ」があることをほとんど感じさせないパフォーマンスだったので、実際にはあまり見ていないと思います。ふっとしたときに、頭が真っ白になるのだと思いますから、そういうときの助けはあった方がいいです。「大人の余裕」という言葉からは、やや遠いイメージになるのかもしれませんが、カンペがあることによって余裕が生まれるのならば、これからも是非、同じ対策でお願いします。

「大人の余裕」番外編:大爆笑

最後に付け加えておきますが、「大人の余裕」とは対極に位置するコーナーもあり、それが、ディア・ベイビーのダンスバトルでした。このダンスバトルの「ほつれ方」は、自分にとっては大爆笑ものでした。また、内容もさることながら体が大きい人なので、こういったパントマイム的なパフォーマンスは通常の人よりも映えると思います。そして、この大爆笑は、自分がオリジナル・ラヴに求めるものの一端として、前回目覚めたものだった*7ので、個人的な満足度は非常に高いものとなりました。*8そして、こういった子供じみたじゃれ合いも披露できるところまでもが「大人の余裕」を感じさせる源泉になっていたのではないかと思っています。
(つづく)

オリジナル・ラヴ「好運なツアー」個人的まとめ 目次

*1:「肉体化」という言葉を使っていましたが、少し変な(あまり使われないような)気がするので、通常用いられる「血肉化」に改めました。フィジカル⇒肉体的⇒肉体化という連想だったのだと思います。

*2:ここで自分が言っている「血肉化」は、以前のエントリで「肉体化」として詳しく触れています。⇒曽我部恵一VS田島貴男『東京 飛行』を語る(7)〜ジェンダー

*3:鈴木あかね氏の記事については⇒『東京 飛行』を語る(番外編)〜bridgeインタビュー

*4:2009夏以降に演奏されたアルバム未収録の新曲は「スターター」「希望のバネ」「ディランとブレンダ」「小さなラブバラード」「大追跡」「路上」「高い枝のクランベリー」と7曲あるが、今回はこれらを演奏せず。

*5:ついでにいえば、昨夏と同様「明日の神話」「鍵、イリュージョン」だけでなく、6月のベストアルバムに入っていた「ジェンダー」など、曲の魅力の中で歌詞が占める割合の大きい曲(頭でっかちな曲)も極力排していたように思います。

*6:引用元はこちらです。ところで、オフィシャルサイトには「本サイトに掲載されている画像、文章等、全ての内容の無断転載、引用を禁止します。」と書いてありますが、適正な範囲の引用であれば許可される、と解釈しています。

*7:ライヴでの大爆笑については⇒私的オリジナル・ラヴ論〜『東京 飛行』に無くて『HOT STARTER 09』ツアーにあったもの補足 私的オリジナル・ラヴ論〜(以下略)

*8:他にもポイントはありますが、特に、この「大爆笑」については、デビルマン飛鳥了の台詞を借りれば、田島貴男のパフォーマンスが、ことごとく「自分の思い通りに行き過ぎている」と不安になりさえしたのでした。