心に太陽を持てくちびるに歌を持て、などと言うが、自分にとって、物語は、第一義的には、自らを癒し、励ますためのものであると言える。逆に言えば、どんな物語も、誰かを癒し、励ますことを目的に書かれているのではないかという気持ちがある。
ところが、そういう物語ばかりではないということを、久しぶりに気づかされた。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/09/29
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 126回
- この商品を含むブログ (168件) を見る
さて、本作は『インシテミル』で気になった米澤穂信の作品。著作の中では、Amazonのレビュー数が最も多く、代表作ということになるのだろうか。
恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。
(Amazonよりあらすじ)
あくまで「パズラー志向」の『インシテミル』の印象と、高校生が主人公の青春小説という紹介、そしてパラレルワールドへの転送というSF設定と、明るい色合いの単行本カバーから、もっと軽快な内容を想定していた。
が、当ては外れ、非常に鬱屈した重い気分が残る内容だった。それこそ、作品の舞台である金沢の空のように、晴れが少なく、暗い雲に覆われるような気分だ。*1
そもそも、『インシテミル』〜『螢』の自分の読書の流れは、ミステリの持つ爽快感を求めてのものだったが、何か全く逆の沼に嵌り込んでしまったようだ。
特に、つい先日読んだ森絵都『カラフル』が、似た設定だったことが悪い方に働いた。具体的には
- 家庭の問題を抱え、自分の境遇を不幸だと思いこむ15-16歳の主人公
- パラレルワールド的な世界で、自分の人生を見つめ直す試練を受ける
というような類似点がありながら、『カラフル』が最後に残すメッセージが非常にポジティヴなもので、元気が出るものであった。
『ボトルネック』の作品の展開からは、どうしても明るいラストを期待してしまったのだが、それは、『カラフル』の「方程式」のようなストーリー展開の完成度が高かったため、同じ図式になるとしか思えなかったのだ。
以下、ネタばれになるが、本文中からクライマックスでの主人公の「気づき」を引用。
*1:作品の舞台となる金沢、北陸の気候については、物語を象徴するように徹底的に暗く描かれていると感じます。北陸在住の人は怒るのでは?笑