Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

土居丈朗『財政学から見た日本経済』★★★★★

財政学から見た日本経済 (光文社新書)
さて、選挙前に、勉強のために読んだ本がこれ。*1以下は、9/11の日記の最後に「続く」と書いているのだが、本当は、そのときに書く予定だった内容。
作者の土居丈朗はJMMの月曜日の回答者にも名前を連ねている新進気鋭の経済学者。1970年生まれということなので、団塊ジュニアという括りなら、自分と同世代ということで親しみを覚える。
僕がこの本をオススメする理由は、内容がわかりやすいだけでなく、そのテーマ(問題意識)が、自分自身の将来に大きく関わる可能性を感じたからである。
作者自身が言うように「私達の将来の日常生活をどうするかを考えるためには、「財政」の話を抜きにして考えられなくなってしまったのである。(P30)」

以下、備忘録代わりに、章別に内容を整理。

第1章 税金はどこへ消えた?

  • 日本の税金は諸外国と比較して軽い
  • それでも重税感があるのは、使われ方に問題があるから

 

第2章 景気対策はなぜ失敗し続けるのか

  • 1997年の不況のきっかけは「財政政策」だった。
  • しかし、深刻化した原因は「金融危機(金融期間の信用不安)だった。
  • 小渕内閣は、金融政策でなく、財政政策で対処し、借金がふくらむ原因となった。
  • また、90年代の公共投資による景気対策は、有効に機能しなかった。これは投資の地域配分が原因である。
  • 効率を考えれば、地方ではなく都市部に重点的に投資する必要があった。
  • 地方重視は、与党議員の地域的に偏った影響力の結果がもたらしたものだった。

 

第3章 地方が自立できない真の理由

  • 地方偏重の背景には定数格差(一票の格差)の問題がある。
  • 地方財政の制度自体にも、地方部の自治体が国からの補助金に依存して自立できない状態にする仕組みがある。
  • 国は借金をしてまで財源を調達して地方自治体に補助金を配分している。
  • 現行の地方交付税制度には、歳出削減と税収増加を怠る誘因が内包されている。(歳出削減と税収増加に力を入れると補助金が減る)
  • これからの時代は、日本の財政赤字の問題が解消するまで、「私有財産権の合法的侵害」に伴う無駄(不必要に多く税金を取ること)をいかに省きながら多くの国民がよりよく幸せになれる政策を施すかが問われている。 p108
  • 公共事業がなくなれば倒産する建設会社が地元経済にある、という地域があるとすれば、そんな倒産しそうな建設会社のために、一億二千万人の国民が付き合っていられる時代ではない。 p109
  • 今後、人口が減少していくなかで、歴史の深い町や村がなくなるのは不可避である。財政状況改善のためには、公共事業や補助金を削減して、人口減少により維持不可能になりそうな過疎の町村を、今のうちから「安楽死」させるシナリオが有効である。
  • それ以外のシナリオとして、外国人移民の大量受け入れがあるが、作者は、この可能性に懐疑的である。

 

第4章 なぜ破綻せずに借金をし続けられたのか

  • 借金が続けられた理由は、このような状況でも銀行が貸すからであり、郵貯、年金などの積立金が回ってしまうからである。
  • 特殊法人改革、郵政改革、年金改革、地方分権の改革、これら4つの改革は、財政投融資を通じてつながっている。(同時に進める必要がある)
  • 財政投融資は借金であり、税金ではない。借りたお金は返済する必要がある。
  • 一方で税金は国会の議決を経れば、どのように使い込んでも返済の心配は要らない。特殊法人地方自治体が、国から補助金(財源は税金)を受け取った場合、借金の返済に充てるのは当然である。つまり、「お金を貸した相手に、その横で補助金を注ぎ込むしくみ」が財政投融資の諸悪の根元である。
  • 特殊法人改革の過程で、約56兆円が国民の負担になることは確定している、と作者は見ている。 p155

 

第5章 財政破綻、そのとき国民は

 

第6章 破局を避ける道

  • 国家財政は何をなすべきかという基本に一度立ち返る必要がある。国家規模で国民から徴収した税金を、特定の地域や産業だけにしか便益をもたらさない歳出に使うのは問題である。基本的には、国家財政は、国家規模で便益が及ぶ財政サービスのみを対象とするべきである。
  • さらに、最近の財政支出は、「保険金の支払」という性質を帯びるものが多くなり、財政状況を圧迫している。セーフティ・ネットは重要であるが、過度な「安心」は「怠慢」(モラル・ハザード)を生む。これらの保険のいくつかは「清算」してしまうべきであり、残ったものについては、怠慢な加入者に保険金を給付しないような制度に改めるべき。
  • 公平性よりも効率性を重視すべきであり、公平性を重視した地域間の所得再分配政策を大規模に行う必要はない。
  • 補助金バラマキをなくすには、国会議員に、地元に利益誘導する権限を与えないことが重要である。その権限があるから、国会議員が国家戦略を考えるより、補助金分配に熱心になる。
  • 日本の従来の「お約束」(年功序列、終身雇用等)は人口ピラミッドの維持のもとでしか働かないものである。今後の日本経済にとって重要なのは、「自己責任の原則」と「他者を思いやる秩序」である

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特に、3章、4章が力の入った部分で、地方自治体の「安楽死」にまで言及してしまうところは根性が座っている。が、それほどまでに国の財政は悪化しているし、各種制度も財政悪化を止める方向に作用しない、ということだ。これらをどう解決していくかについて先の衆院選では、ほとんど議論にならなかったのは残念だ。
このような借金を抱えた日本は、これからどうなってしまうのか、それが5章の話であるが、これについては、改めて書く予定。
いずれにしても、読みやすいし内容が濃い、作者の主張もある程度はっきりしているし、自分にとっても大きな問題であり、多くの人にお薦めできる本だった。

*1:本当は道路公団関連の本も読みたかったが、時間がなかった。