Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

乙一『ZOO(1)』

ZOO 1 (集英社文庫)

ZOO 1 (集英社文庫)

帯には、北上次郎の「何なんだこれは。」という言葉が大きく紹介されているが、奇妙な味わいを持った短編集の前編。
5編とも、登場人物が少なく、人物を指し示す固有名詞がほぼゼロで、そういう意味では「童話」に近いのかもしれない。また、いずれの話も、特殊な状況設定ありきの話で、これについては、巻末の古屋兎丸との対談でも触れられている。

古屋:乙一さんはデビュー以降、ライトのベルを中心に活動されてきましたよね。だからでしょうか、物語のつくり方として、奇抜な環境設定がまずあって、そこからいかに物語を転換させていくかとか、ラストでぐっとこさせるにはどうするか、といったテクニックを持っていますね。

ちなみに、これに対する乙一の回答は、「物心ついてからの最初の読書体験が(ライトのベルの)『スレイヤーズ』だったからではないか、というもの。ちょっと面白い。
そして、乙一といえば、叙述トリックのイメージが強いのだが、今回は、完全独白体で話を綴る『ZOO』、かなりトリッキーな『SO-far』が乙一っぽい。(どちらも叙述トリックがオチの話ではない)
強烈な印象を残したのは『SEVEN ROOMS』。映画『SAW』をイメージさせるような密室の中で話は進むが、この緊迫感はすごい。そして、投げっぱなしな物語の締め方も後味が悪くて堪らない。
そして、「火の鳥」を連想させる、少女とロボットの物語「陽だまりの詩」は一転して、生と死の意味を問う、感動的な短編だった。ここでは、絶望的な世界の中でも新たな命を生み出す人間の歴史についてが、それこそ「詩的」に、イマジネーション豊かに描かれていると思う。
なお、上でも少し引用したが、古屋兎丸との対談は、なかなか興味深い。二人そろって伊集院光の深夜ラジオを崇め奉る様子も含めて、気が合うようだ。古屋兎丸は、『ショートカッツ』が大好きなのにもかかわらず、それ以外の作品にあまり触れていないので、少し読んでみよう。