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尾木直樹『ウェブ汚染社会』

ウェブ汚染社会 (講談社+α新書)

ウェブ汚染社会 (講談社+α新書)

中高生のケータイに関する意識調査の結果に関する記事を読んだ。

友だちからメールが来た場合、何分以内に返信するのがマナーだと思うかという質問には、「即答」という回答が37%で最も多かった。「5分以内」「10分以内」がともに18%で2位。(略)
 ケータイを持って友だち関係がどう変わったかについては、「つながりの浅い友だちが増えた」と考えている中高生が42%に達している。「特に変わらない」という回答は20%。そのほか、「遊びや勉強など目的別で友達と付き合うようになった」が27%、「本音が言える友達が増えた」が24%となった。
 なお、携帯メールで自分だけにメールが来ない「メール無視」をされたことのある人は22%、悪口をメールでまわされた経験のある人は12%。ケータイに振り回されていると感じる人は59%に達した。

ここでは、調査結果についての分析は見ることができなかったが、結果から言えるのは、(調査機関が携帯向けポータルサイトであることを割り引いたとしても)大きく以下の二つであると思う。

  • ケータイは人づき合いに大きな影響を与えている。
  • 中高生にとってケータイは、もはや欠かすことのできない存在になりつつある。

二つの観点のうち、後者を無視して「中高生にケータイを持たせるな」と結論付けるのが、短絡的な自分の考え方だとすれば、尾木直樹は、後者を無視せずに、よりよい道を探ろうとする。
『ウェブ汚染社会』というタイトルは、「ウェブ叩き」を連想させるものだが、実際には、新たなライフスタイルを認めたうえで、それをどの程度補正していくか、という、前向きな内容となっていた。

例えば、以下の通り、最新のITツールについて、それを鼻から否定してみせるのではなく、利点を十分理解した上で、問題点のみを摘み取る、という、非常に「大人」な方針で、物事を考えている。

  • YouTube」をいかに健全に発展させるか・・・(P90)
  • 「カメラ付きケータイ」社会の問題点を「学習」対象として、自主的に学び、どのように豊かに発展させるべきか、一人の市民として社会形成の参画意識に基づいたビジョンを持たせることも必要だろう。(P91)
  • 実体のある友人関係を築くには、一日百回のメール交換を行っても、必ず対面交流を忘れないことが大切である。(P113)

著者の主張は、フィルタリングや、ケータイの料金プラン(一定額を超えると機能が制限)などのかたちで、親が、子どものネット・ケータイ利用を一部制限すること、と合わせて、本人へのマナー教育やメディアリテラシーへの理解が必要だというもの。これも筋が通っている。
ただし、そんな著者も、厳しい部分もあり、例えば、思春期にホームページ(ブログ)づくりをさせるのは危険(精神的自立が阻害される)と考えている。

  • 思春期には、自分を見つめる第二の自分(自分の影。ダーティーな部分も持ち合わせる)が意識に上ってくる
  • 思春期の子どもは、「人生とは何か」「どう生きるべきか」を考え続けている
  • そういった心の葛藤の中で、ときに落ち込んだりしながら自分自身(第二の自分を含む)を眺める機会が増える。ときにそれは日記を綴るなどというかたちで表れる
  • しかし、ホームページは、他社に読まれることを前提としているため、通常の日記とは異なり、「演出」面に心が配られることになる
  • 結果として、ダーティな部分もある「第二の自分」を直視することができず、また、他者からのコメントを意識して、それを隠したり、ちゃかしたりしているうちに混乱状態に陥る

かくして、精神的自立の阻害に繋がる、というわけだ。自分は、以前、小学校時代からブログを始めれば、自己表現能力が格段に上がるのでは?などと思っていたが、自己を確立し、社会的な能力を十分に持っていなければ、ブログを続けるのは難しい。「自己」が不明確であれば、どんな表現方法を知っていたとしても「自己表現」は不可能である。、また、ときに表れる心無いコメントに対して、適切な処理を行うことができない。
そのほか、第四章の終盤で、ウェブから一歩引いて、「親子の絆づくり」について取り上げられている部分が興味を引いた。家庭内での役割を子どもに与えることや、上手に叱る方法について、簡単に述べられており、参考になった。
一日4時間以上もメールのやりとりをする高校生が30.7%も存在し(P109:日本青少年研究所)、メールには即答しなければ友情に支障をきたすと思う人が増える中、自分も、短絡的に「ネット、ケータイ禁止!」という方向に行かず、上手に利用して生きる、という方法を練っていく必要があると感じた。
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なお、Amazon評にあるように、一章でのアンケート結果の扱いはかなり杜撰ではあるものの、全体としては、そこまで強引な論理展開はなく、すらっと読めた。ただし、著者自身も何度か指摘しているように、ケータイやネットで怖いのは「依存」であり、この部分に絞ったかたちで、全体の構成を変えた方が客にアピールできると感じた。内容はともあれ、インパクトの面で『脳内汚染』シリーズに負けてしまうのは、その部分に問題があると思う。