Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

桐野夏生『リアルワールド』★★

リアルワールド (集英社文庫(日本))
自分が思っていることを一番上手くあらわせるとしても、安易に使いたくない言葉がある。
例えば「リアル」という言葉がそうだ。
ちょっとした流行り言葉のようで、使ってしまうと気恥ずかしくなる。
例えば、木村カエラが「REAL LIFE REAL HEART」のことを「リルラリルハ」というタイトルで歌っているのも、直接「リアル」という言葉を使うのを避けたかったからなのだろう。
逆に、何らかの作品で「リアル」という言葉が用いられるときは、きっと「あえて」使う作者の決意表明のように受け取ってしまう。
井上雄彦『リアル』は、非現実的という意味で捉えられることも多い「漫画」だからこそ、あえて「リアル」というタイトルにしたのだろう。そのタイトルに込めた思いがわかる作品だからこそ、「恥ずかしさ」は感じない。
KAT-TUNへのスガシカオの提供曲『Real Face』についての違和感の理由は、「リアル」という安易な言葉を、よりによってスガシカオが使う意味がよくわからなかったことだ。「リアルを手に入れるんだ」という、あまりに恥ずかしすぎる歌詞。いや、別にKAT-TUNの人が作詞であれば、それはそれで「そういう年頃だからなあ」と納得できるんですよ。
でも、スガシカオの歌詞へのこだわりからすると到底考えられない。どうしてこうなるんだ?
 
さて、話は本題。
小説読みたいモードが高まっている中、web本の雑誌で、採点員6名のうち、3名が5点満点、残り3人が4点という高得点の作品を見つけた。
それが、桐野夏生『リアルワールド』。
売れっ子作家が、あえて「リアル」、しかも「ワールド」なんてタイトルをつけるからには、相当の自信作だろう。
桐野夏生も(映画も含めて)初めてだし、ちょうどよい。
読み始めると、4人の女子高生(ホリニンナ、ユウザン、キラリン、テラウチ)と、母親を殺した男子高校生(ミミズ)、登場人物それぞれの視点から物語が描写される、吉田修一『パレード』*1と同じ構成だし、全体的な雰囲気が、古谷実を想起させる。期待は高まるばかり。
 
で、だ。
よくわからなかった。
全く面白くないわけではない。
結局、登場人物の誰にも共感できなかった。直前に読んだ重松清『流星ワゴン』のシンクロ率が異常に高かったこともあるが、とても読みにくい小説だった。
唯一、夢中になって読めたのは、女子高生4人組のうちの一人「キラリン」の章。
これを書いて、分かり合える人がいるのか疑問に思うが、「キラリン」は、自分の中で、完全に、朝ドラ『純情きらり』の桜子(宮崎あおい)の友人・薫子(松本まりか)だ。それだけに、登場人物の中では群を抜いて生き生きしていた。
そして、母親殺しのダメ男は、同じく『純情きらり』出演中の松尾(村杉蝉之介)だ!グループ魂の「バイト君」だ!
このキャスティングは、自分の中で、かなりのヒットで、今後、朝ドラで薫子を見たら、「この子は、ぶりっ子しているが、実は遊んでいるんだ」とか、バイト君を見たら「軍隊オタクだ」と思うに違いない。
 
で、元に戻るが、作中でキーワード的に語られる「取り返しのつかないこと」もよくわからないし、テラウチの辿りついた「リアルワールド」にも共感できない。理解したいとも思わない。
結局、タイトルから期待されるような作品では全然なかった。
得るものも少なかった。
解説の斎藤環は「関係性」という言葉を使って、うまく作品の特徴を表現していると思うが、彼の説明する「リアルワールド」もまた、僕にはよくわからないのだ。
初めて読む作家の作品には「良い印象」を持ちたかったのに残念。
 

*1:大傑作!感想はこちら→http://d.hatena.ne.jp/rararapocari/20050118#parade