Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

伊坂幸太郎『オーデュポンの祈り』★★★☆

自分の頭の中で小説の登場人物が、直前に読んでいたマンガのキャラクターの顔になってしまう。最近はあまりないけれども、以前はそういうことが多かった。
今回、直前に読んでいたわけでないのに、最後まで頭から離れなかったのは伊藤潤二*1。それは、小説の主要な舞台である、仙台近くの離島「荻島」が、まさに伊藤潤二の描くマンガの世界観そのものだったからである。
話の中で重要な位置を占める人物「桜」は、僕の頭の中では、操り人形ジャン・ピエールと四つ辻の美少年*2のイメージとなっていたし、それ以外の田中、園山、ウサギなどのキャラクターもいかにも伊藤潤二な奇抜なキャラクター。
昔、恩田陸六番目の小夜子』を読んで、あまりに吉田秋生吉祥天女』を彷彿とさせる作品だったので、辟易した*3が、今回はそういう悪いイメージはなかった。
それは、作品の中で「非」伊藤潤二的な世界も重要な位置を占めていたからだと思う。それは「絶対的な悪」と「都市」、「名探偵」。
「絶対的な悪」とは「城山」、「都市」は仙台。荻島の話と平行して、仙台で、主人公伊藤の元恋人に迫る城山の魔の手みが、いいアクセントとなっている。
「名探偵」的な役割は、初め、かかしの優午が担うが、結局は登場しないといってもいいと思う。しかし、何度か繰り返される名探偵の存在についての考察が、作品を構造的に面白くしている。
話が戻るが、伊藤潤二の話は、基本的に「解決しない」。登場人物と一緒に、読者も不安になりっぱなしで終わる。それが面白い。半ばレギュラー的に登場する押切君にまつわる話も、ほとんど解決しないので、押切君の笑顔というのは、きっと見ることができないのだろう。絶対的な悪が登場しないのも、「解決しない」からなのだろう。そういうバランスの上に伊藤潤二的な世界というのが成立している。
『オーデュポンの祈り』も、最終的には、やはり同じバランスの上に成立している物語だ。後半部分で、城山が全てを破壊するような展開もありかと思っていたが、そうはならなかった。そういう意味では、やはり伊藤潤二と世界観が類似していると言わざるを得ない。
まあ、僕の気のせいかもしれないし、これはこれで気に入っているので、他の作品も是非読んでみたい。
いろいろ書きましたが、注目されている若手作家の作品で、文庫で入手しやすく、非常に面白いので、お薦めです。

*1:伊藤潤二は「富江」シリーズが有名なホラー漫画家で、ほとんどの作品が短編である割には、ビデオ化、映画化したものも多い。発売されたコミックの形態が多種多様に渡っているが、現在は文庫でそろえるのが一番だと思う。僕は当初、ハロウィンコミックス(単行本)でそろえていたので、文庫で再編されて、結局同じ話も2度買うことになってしまっている。

*2:伊藤潤二のマンガのキャラクターです。わからなくてすみません

*3:のちに同作品が『吉祥天女』の"オマージュ"的な作品であったことを何かで読んで知りました