Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

奥山修司『おばあちゃんにやさしいデマンド交通システム』

おばあちゃんにやさしいデマンド交通システム

おばあちゃんにやさしいデマンド交通システム

デマンド型の乗り合いタクシーについて、システム提唱者自身が紹介した本。地域の公共交通には以前から興味があり、こういった事例も耳にしたことはあったが、詳しく読むと、なかなか「なるほど」と思わせる部分が多く、勉強になった。
今回も引用が多くなるが、その仕組みは以下のようなもの。(リンク先にタクシーの写真あり)

1. 老若男女、誰でも利用できますが運行範囲は旧小高町の行政区内に限られます。
2. 料金は300円と100円の2料金体制で全てチケットで精算されます。
3. エリア毎に乗り降りの場所の違う複数の人が乗車する乗合が原則になっています。
4. 利用できる時間は平日の午前8時から午後4時までの時刻表に基づいた運行になります。
(なお、土、日、祝祭日、年末年始は運休となります。)

時刻表に基づいた、大まかな路線の決まった運行はするが、バス停がフリーというイメージ。時刻表もフリーというわけではない。
特に、面白いと思ったのは、以下の部分。

  1. 行政と住民、ではなく、行政・住民・地元タクシー会社の三者を考えたシステム
  2. コスト的には、劇的に減少!というわけではない(特にシステム費が高額)
  3. ニーズによって、運行方法を変更

ひとつめについては、地方の公共交通の問題点をHPより引用。

バス利用者の多くが高齢者及び子供と考えられることから、赤字路線が廃止されることにより、高齢者や子供を含む多くのバス利用者は、移動手段の確保が困難になってしまいます。
また、タクシー業界では、不景気の中で利用者と実車率が伸び悩み、経営の悪化などから、倒産に追い込まれるといったケースも出てきています。
これに対して地方自治は、「地域住民の足の確保」という住民からの要請に答えるため、福祉バスやスクールバスを運行したり、バス赤字路線への補助金を支出するなどの政策を実施していますが、地方バス路線に対する国庫補助の要件変更により、同一市町村を運行する路線は補助対象外となり、多額の財政支出が必要となってしまいます。

この三者に利益を生む(三方一両得となる)のが、このタクシーのシステムだというのが、基本的な考え方。
http://www.f.do-fukushima.or.jp/e-machi/system2/images/zu.gif
タクシー会社がここに加わるのは、直接的には、車両貸し出しのためだが、これがあることで、システムが安定して見えるし、システムの存続圧力が高まるのかもしれない。(行政だけではじめたシステムは、住民がそっぽを向くリスクがあると感じる)

二つ目(コスト)は飛ばして、三つ目(ニーズにより運行方法を変更)について、これもHPより引用。

お年寄りにお聞きした「使いにくい」点は、全部直しました。
現在では時刻表も、路線図も単純明快。けれども最初はバス路線を踏襲して6路線を作り、時刻表も複雑でしたから、とても使い勝手の悪いものでした。運転手さんやオペレーターとも何回も話し合って、極力スムーズに迎えに行けるようにしました。利用実績データを活用して利用者数に併せた変更も行い、現行の形態になるまで、5回ほど改訂しています。

利用されればされるほど、ニーズに関する情報が蓄積されることもあり、ニーズに応じた修正がしやすい柔軟なシステムである、という点は、非常に強みとなっている。上記インタビュー記事によれば、基本的には高齢者の足としてスタートした印象が強かったが、平成18年度からは、小学生や園児の送迎にも使われるようになったという。
システム費用についての初期投資はかかるようだが、ある程度、どこの町でも導入のメリットのある方法であるように感じた。


最近は、道路特定財源の話題に関連して「地方に道路を」という話もよく聞く。しかし、ハード整備だけで、地方が発展するわけではなく、本書の最後の方で書かれている通り、そういったハードをどううまく使っていくか、という地元のアイデアややる気が問われているのかもしれない。
先日のコメント欄での話題に絡めて言えば、それは、個人にとってのライフハックについても言えるのかもしれない。ライフハックという「道路」*1は手に入れても、その道路に何を走らせたいか、という部分が重要で、それが無ければ、地方も人も寂れていくのかもしれない。
そんな危機感を感じる今日この頃です。

*1:ちなみに、最近ヒットのライフハックは、こちらです。ココロ社さんの才能をこれでもかと感じます。→ライフハックを書くためのライフハック