Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ドタバタでも筋の通った青春ミステリ〜初野晴『退出ゲーム』

退出ゲーム

退出ゲーム

「わたしはこんな三角関係をぜったいに認めない」
―穂村チカ、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。
 上条ハルタ、チカの幼なじみのホルン奏者。
音楽教師・草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る2人に、難題がふりかかる。化学部から盗まれた劇薬の行方、六面全部が白いルービックキューブの謎、演劇部との即興劇対決…。2人の推理が冴える、青春ミステリの決定版、“ハルチカ”シリーズ第1弾。

4編からなる短編集で、Amazonの紹介文通りの青春ミステリ。シリーズものというのは驚きましたが、「蹴りたい背中」を思い起こさせる*1凸凹コンビの二人の活躍をもっと見てみたいのは確かです。


何より血生臭くないのがいいところです。
解くべき謎は、こんな感じ↓で、殺人どころか誘拐も起きません。

  • 結晶泥棒:文化祭の準備中に無くなった硫酸銅の結晶。盗んだのは誰?
  • クロスキューブ:パズル好きだった少年が遺した真っ白なルービックキューブの意味は?
  • 退出ゲーム:舞台から退出した方が勝ちという即興劇*2の中で、どのように退出するか?(笑)
  • エレファンツ・ブレス:名称は色彩辞典に記載されながら、どのような色か明らかにされていない謎の色「エレファンツ・ブレス」は、どのような色か?

どれも、短編ならではの、ワンアイデアがとんがり過ぎた話ばかりで、また、登場人物達のふざけた会話が、その異常な展開を盛り上げます。
また、吹奏楽部存続のために、二人が事件ごとに仲間を増やしていくさまは、ワンピースを彷彿させます。


一番好きなのは、「エレファンツ・ブレス」。
発明部の萩本兄弟が通信販売(校則違反)を始めた自慢の一品「オモイデマクラ」は、現実にあった思い出を夢の中で再生できる枕。原理は、かなり独創的で「思い出を三つの色に置き換え、その比率を申請してもらう」ことによって、思い出再生が可能になるという・・・。
出鱈目なのに説得力のある、オモイデマクラのプレゼンをする萩本兄弟は神々しいくらいにキャラが立っており、続編での活躍も楽しみです。
ただ、この短編なんかは、ラストで社会派っぽい展開を見せたりとか、なかなか気が抜けない感じで、初めて読んだのですが、初野晴という作家の実力を垣間見た気がします。


なお、ジャケは文庫本よりも単行本の方が断然いいですね。
続編の『初恋ソムリエ』も同系統の表紙のようで、こちらも読んでみたいと思います。

退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

初恋ソムリエ

初恋ソムリエ

*1:実際に、チカはハルタの背中を何度も蹴ります(笑) 

*2:演劇部の「マヤ」が登場します!