Yondaful Days!

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武田教授のパルシステムに関する記事がひどすぎる件について

中部大学の武田邦彦教授のパルシステムに関するブログ記事が、あまりにひどいのでエントリにしました。(その後の状況を追記し、内容を読みやすく修正しました)

経緯について、発端となったエントリから、時系列的に整理しました。

武田教授の記事「生協のパルシステムで子供が被爆する」 8/8 14:00アップ

(まず、以下は生協のパルシステムについての生協自体のホームページの記載事項です。読者の方からのご連絡です。)

「暫定規制値を下回る基準を独自に設定することは、長年培ってきた産直産地との関係を否定しかねず、日本の農業に大きな打撃を与えることが懸念されます。
パルシステムは、産直産地との長年の取り組みを通じて、日本の農業を応援し食料を自給できる国にすることをめざしてきました。とりわけ東日本には多くの産地が集中しています。問題の長期化が確実となっている中で、
……」

……
生協を信頼し、生協で食材を買い、そして若くしてガンになった人が、「補償できないから」ということで納得するでしょうか? 生協の人はもう一度、原点に返り、理屈ではなく「誠」で考えてください。


8/8の14時執筆の、この文章は、BLOGOSにも掲載され、インパクトのあるタイトルだったこともあり、案の定、ツイッター上で広く拡散していきました。主旨は、消費者の立場になって商品を提供すべき生協が、政府の暫定基準値を無批判に受け入れ(言い訳をして)、結果的に、利用者を被曝させている!対応に誠実さが欠けている!という指摘です。
しかし、この記事には重大な誤りがあります。「読者の方からのご連絡」のみを根拠として挙げ、非難の対象とした冒頭の文章は、パルシステムが6月半ばまで取っていた方針(パルシステムの対応(2011年5月25日版))で、現在は、この方針は改められているのです。*1
当時、パルシステムがこういった対応を取っていたことは、当然ながら、非難の対象となり、結局、パルシステムはこの方針を取り下げ、6/13に改めて出された方針では、消費者のことを考え、政府にも物を言っていくという、かなり前向きな対応になっています。

1.暫定規制値の見直しを政府に求めるとともに、できる商品群から自主基準を定めます。
2.パルシステムとしての自主検査を大幅に拡充します。
3.行政による検査結果など、放射能に関する情報をよりわかりやすく提供します。
4.組合員、生産者とともに十分話し合いながら、放射能対策に取り組みます。

自分は、この情報をツイッターで入手して安心した(うちもパルシステムを利用しているため)ので、よく覚えています。

そういう対応を求めていました!“@palsystem_tokyo: 放射性物質の食品汚染への対応について(2011年6月13日版)  (パルシステムリンク) - tinyurl.com/6bf8d45”


つまり、今回、武田教授が文章にした、パルシステムに対する非難自体が、6/12以前に盛んに議論されていたものであり、これについて興味・関心があった多くの人にとって、この記事は「何を今さら」な話であり、かつ、パルシステムのその後の対応の意味を全く無にする、ひどい「風評被害」記事だといえます。

武田教授の記事「パルシステムのことについて(今日のブログの追補)」 8/8 18:00アップ

多くの人から同じ指摘があったのでしょう。
その後、ブログのトップに、「いろいろな指摘を読者から受けているが、誤っている部分は修正する」という意味の文章が追記されていました(現在は削除)。武田教授なりの「誠実」の現われなのでしょう。
さらに、追加の記事がアップされました。

5月にパルシステムは、政府の暫定基準値に従う旨のステートメントを出し、6月にその修正版を出していますが、「政府に要求する、検討する」となっているだけで、現実には暫定基準を適応していると理解しました。
……


この追加記事自体に、謝罪の姿勢が感じられない点は個人的に不快ですが、非常に「不誠実」だと感じるのは、元記事(“生協のパルシステムで子供が被爆する”)が、全くそのまま生きていることです。
「誠実」以前の問題として、通常であれば、「事実誤認でした」として、記事を取り下げるのが筋だと思います。非難対象としているパルシステムの方針自体が、現在は無いものなのですから、文章の構成自体を大幅に変更する等しないと、意味が通じません。


また、重箱の隅をつつくようですがが、武田教授が、かなりいい加減に元資料を当たって記事を書いているのだなあ、と思う部分は他にもあります。*2

  • 現実に「1年1ミリシーベルトを超える食材は、店頭に並べない」などの記述が無かった
  • 本当に生協が食材を食べる子供の立場で、慎重に計算し、汚染された食材を売り場に置かないという決意をされたかどうか、まだ確信が持てません。

武田教授は、パルシステムが、宅配システムであることすら分かっていないように読めます

また、このような記事を名指しで書いているにしては、大手スーパーや、その他の宅配システムの対応について、全て把握しているようには見えません。*3
例えば、イオンや西友などの大手スーパーの対応と具体的な比較の上で、パルシステムが明らかにダメというのであれば、名指し批判もありうるとは思いますが、それすらも出来ているように見えません。


武田教授風に言えば、自分は、教授のように「偉い人」*4ではありませんから、どの情報が正しいかを見抜く力が不足しているのかもしれません。
しかし、消費者からの批判を受け止めた上で、独自の取り組みをして、過程をなるべくオープンにしたうえで、生産者と消費者を繋げる努力を続ける*5姿勢が見えるパルシステムのの方が、どうしても信頼が置けると考えます。
武田教授は、読者からの情報や噂話を検証せずに記事にした挙句、自身の記事がそれなりの影響力を持っていることを知っているにもかかわらず、批判を真摯に受け止める姿勢に欠けるというのでは、教授の記事で頻発される「誠実」という言葉にかなっている人物なのかどうかは疑問です。常に批判の対象としているマスコミの「分かりやすさ」の罠に自らが陥っているように思います。
何が安全なのかを、素人にも分かりやすい言葉で、ひとつひとつ探っていこうとする姿勢は、武田教授のいいところだと思いますが、分かりやすさのために、事実をないがしろにして、自らの主張に無理やり繋げて文章をつくっている危うさが、ときに垣間見えます。


武田教授自体が、専門家の言うことをそのまま信じてはいけない、ということを体現する、いわば反面教師としての役割を自認しているという可能性もあります。
が、分かりにくいので、やめてください。

パルシステム“「生協のパルシステムで子供が被爆する」というインターネット上の記事について” 8/9アップ

その後、パルシステムが、武田教授の記事に対する反論を丁寧に出しています。

8月8日、インターネット上に「生協のパルシステムで子供が被爆する」というタイトルの記事が掲載され、組合員からお問い合わせをいただいています。


当該の記事では、5月25日付でパルシステムがホームページに掲載した方針の一部分が引用されていますが、この文章は旧版の対応方針であり、現在は新しい対応方針に則って取り組みを進めています。

文章は、このあとに【自主検査】【「暫定規制値」の見直しとより厳しい農産物の扱い】【除染対策】【政府への働きかけ】【組合員議論による政策つくり】などの具体的な取り組みが示されています。
武田教授には、この反論を読んで、なお“もう一度、原点に返り、理屈ではなく「誠」で考えてください”と強く言えるのかどうか、再反論をしていただきたいと思っています。

武田教授からの再反論

(理屈ではなく「誠」で考える武田教授ならば、パルシステムから出された反論に対して、改めてコメントすることと思います。)


補足1(武田教授について)

武田教授の過去の記事の危うさについて、分かりやすく取り上げているブログは、いろいろとあります。是非、参考にしてください。

生活情報として参考にする人が多い武田先生の記事中に、モニタリングや行政対応や「専門家」の言葉が不正確に紹介されていて、生産者や行政や「専門家」に対しての不信感を書いているのでは、昨今話題になっているリスクコミュニケーションを混乱させる要因になります。だからものすごく問題が大きいと考えるのです

⇒その通りだと思います。武田教授のHPは、消費者の味方を装えば何書いてもOKという不法地帯になっているとすら思えます。

武田氏は、しばしば情報源を明示しない。学者として、あるいは論者として、致命的な欠点である。情報源、引用元が明示されていないと、その情報の信頼性について、読者は判断できない。

⇒今回の記事でも、ずばりそこが問題となりました。

補足2(パルシステムについて)

コメント欄で、「今頃になって、3月に出荷した卵にセシウムが検出されたと発表」とありましたが、調べきれませんでした。
しかし、パルシステムが評判を落とす原因として、4月11日に出荷制限の掛かっている千葉県多古町産(有限会社 北総ベジタブル)のホウレンソウを、配達してしまった事件(参照:放射性物質の検出に関わる農産物のお届けについてのお詫びとお知らせ)があったようです。
特に原発事故直後には、食べ物を巡ってかなりの混乱(政府の対応方針に一因があると思います)があったので、こういった失敗は生じうると思っていますので、個人的には、あまり気になりません。健康被害が生じる可能性があるのは、たった一回ほうれん草を食べることではなく、継続的な摂取であることを考えれば、こういった「失敗」を隠さずに出していく姿勢の方が重要だと感じています。

補足3(生産者保護の視点について)

個人的な意見ですが、我が家にも小さな子どもがいますので、当然、食品に含まれる放射能には敏感にならざるを得ません。一方で、日本の農業がもともと存続の危機に瀕していることを思えば、無意味な風評被害は避けたいと思っています。
そういう意味で、風評被害を煽りまくって支持を集める武田教授のやり方は、好きではありません。例えば、(比較するのもどうかとは思いますが)反原発で名を馳せた小出裕章先生なんかは、食品放射能の話題のときには、セットで生産者保護の視点について語られており、そこに「誠実」を感じます。
武田教授も、人気と影響力のある方なので、過度な人気取りに走らないで、「誠実」な発言を期待しています。

*1:現在もHP上に残っています。http://www.pal-system.co.jp/topics/radiation/houshin_110525.html

*2:今回に限っては、どうでもいい話ですが、当初記事の「被爆する」は「被曝する」の誤りである旨、池田信夫さんからツッコミが入っていました。人によって着目点が違って面白いですが、武田教授が、自分の書いた文章に無頓着なのは分かります。

*3:自分も把握していないので、是非知りたいです

*4:武田教授は、「専門家」を揶揄して「偉い人」と言い換えます。

*5:自主検査以外にも、政府に対し「原発事故・放射能汚染対策に関する要請書」を提出するなど、具体的に行動をしています。http://www.pal-system.co.jp/topics/2011/110801/index.html