Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

司馬遼太郎『燃えよ剣(下)』〜途中

燃えよ剣(下) (新潮文庫)
下巻に入り、俄然、面白さが増した。
後半の展開を見ると、池田屋襲撃が新選組のピークだったのだとわかる。つまり、下巻は新選組が衰退していく中での土方歳三の生き様にスポットが当たる。
伊東甲子太郎の残党に(大砲で!)襲われた近藤勇を見ながら、近藤のことを「勢いに乗ると実力の数倍の能力を発揮するが、風がなくなると力を失う凧」に喩え、対して自分のことをこう評価する。

おれはちがう、と歳三は思っていた。
むしろ、頽勢になればなるほど、土方歳三は強くなる。
本来、風に乗っている凧ではない。
自力で飛んでいる鳥である。
(P114)

その後、鳥羽伏見の戦いが「もはや戦闘ではなく虐殺」となり、本陣伏見奉行所が燃え盛るのを見ながら

おれの真の人生は、この戦場からだ
(P149)

と漏らす。
これは、ずばり『逆境ナイン』であり、『燃えるV』。島本和彦*1は、この作品が好きなのだろうなあ、と改めて思う。
本当に、下巻に入って、土方歳三の魅力がスパークしてきた。近藤勇は、賊軍となることへの恐れから思想と政治に揺らぎが生じてきた。僕にとっては、時流に合わせて自己を振り返る近藤勇の実直さにも好感が持てる。
しかし、土方歳三は、対照的に、思想は単純であるべきで、新選組は節義にのみ生きるべきと説く。
新選組はこの先、どうなるのでしょう」という沖田の問いに

「どうなる?」
歳三は、からからと笑った。
「どうなる、とは漢の思案ではない。婦女子のいうことだ。おとことは、どうする、ということ以外に思案はないぞ。」
(P85)

と答える、土方のかっこよさ。下巻は、それこそ土方歳三、名言集・名場面集のようだ。
現在、伏見の戦いがひと段落して、大阪城まで退くところまで読んだが、この後も楽しみ。

*1:漫画家。本人を模した漫画家・炎尾燃が主人公の作品のタイトルは『燃えよ!ペン』。