Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

白石一文『一瞬の光』★★★☆

『消えた少年たち』に続いて、本の雑誌の選ぶ、「2003年の文庫ベスト10」の2位にあたるこの作品にチャレンジしたが、『消えた少年たち』よりも、僕の思う「面白い小説」に近い。久しぶりに、次の頁をめくるのが楽しみで仕方のない読書体験を味わった。
読後感も悪くないが、気になるのは主人公がスーパーエリート過ぎて鼻につく点。ラストで、主人公は二者択一を迫られるわけだが、主人公の選択が格好よすぎて、僕とは相容れない。少し前に、上原 隆『友がみな我よりえらく見える日は』や、西原理恵子ぼくんち』などのどん底の人生を描いた作品を読んでいたから、なんだかんだ言っても「恵まれている」主人公には共感を覚えにくかった。
とは言いつつも、やはり以下に挙げるようないろいろな点で、「読ませる小説」になっている。580頁もすんなり読ませる筆力は只者ではない。(デビュー作品とのことですが)

  • 人物(心理)描写が丁寧で、巧い。
  • 政治も巻き込んだ企業内の派閥争いがリアル。
  • 物語中の企業名が、実名で登場。(サントリー、味の素・・・)
  • 性描写が必要以上にいやらしい。(数は少ないですが、作者の異常な気の入れようには驚きます)
  • ストーリーの筋が複雑ではない。

なお、メインキャラクターの数人の人生観が、作中に短い言葉で表現されているので、下に引用する。

生の最中、我々は死の中にいる。誕生の瞬間から常に人間は、いつ死ぬかわからない可能性がある。そして、この可能性は必然的に遅かれ早かれ既成事実になる。理想的にはすべての人間が人生の一瞬一瞬を、次の瞬間が最後の瞬間となるかのように生きなければならない。(アーノルド・トインビー『歴史の研究』からの引用)
→P454、主人公橋田浩介

なにか大事が起きたとき、人は自問自答して、多くの人は“誰かがことに当たるだろう”と考えるが、稀には“なぜ私がことにあたらないでおられよう”と考える人がいる。この両者のあいだに、人類の道徳的進化の全過程がある。(ウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相』からの引用)
→P453、親友駿河

人生ってさ、きっとそうやって何かを運んでいくことなんだよ。私たちは一人一人が何かを運んでいるの。次に生まれてくる人たちのために。だけど、それでも二人になるんだったら、必死で一生懸命は込んでいる人と一緒に生きて生きたいじゃない。
→P527、藤山瑠衣

書き出してみると、基本的なことではあるが、「人物の描き分け」がしっかり出来ている。多くの人に支持される小説というのは、やはりこういう作品を言うのだろう。登場人物に共感できるかどうかは別として、いろいろな人にお薦めできる作品。*1

参考:http://www.webdokusho.com/frame-kikaku.htmlおすすめ文庫王国〈2003年度版〉

*1:ただ、作中でも指摘されているように、男性的な視点での物語である、という気はする。女性が読むと、感想はまた変わってくるのかもしれない。P487