Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

『崖の上のポニョ』の描く世界とメッセージ

崖の上のポニョ [DVD]

崖の上のポニョ [DVD]

最近、DVD『崖の上のポニョ』を繰り返し見ています。
夏ちゃん(あと少しで2歳)が、これをじっと見るので、ぐずり出したときに有効というのもありますが、自分も大好きな映画だからです。


好きな理由は、ポニョと宗介のキャラクタの可愛らしさもありますが、第一には、その「絵」です。その全編が、絵葉書として成立しそうな「絵」は、とにかく見ていて飽きません。
特に「動き」のある絵としては、劇場公開時から好きだった、ポニョ率いる大波と車のカーチェイスシーン。ポニョが人間の体になってから宗介に会うまでの流れは、波の上を赤い服を着た女の子が高速で走って追いかけてくる、という、あり得ない感じがたまりません。
実際に起きたら大変なことになるはずなのに、妙にコミカルなこのシーンは、一方では、自然の無邪気、つまり「邪気がない」感じを、よく表しています。
最近、山の遭難事故や、土砂災害、さらには竜巻など、自然災害が絶えませんが、こういったニュースに対して「自然が牙を剥く」という言葉が添えられるたびに、多少の違和感を覚えるのは、そのためです。牙を剥いた、のではなく、5歳の女の子みたいに、何も考えずに、気ままに動くから、ときに、それが災害につながると思ってしまいます。ポニョからの連想で。*1


『ポニョ』では、一度、海面の上昇で、世界が沈んでしまいます。そのことについて、映画の中では特に描写はありませんが、「崖の上」の宗介の家が床ひたひたまで浸かってしまうのですから、いわゆるゼロメートル地帯なんかは、完全に水没してしまっていることになります。
人的被害も含めて「甚大な被害」が生じているはずですが、そのことをスルーしてしまっているのは、「物語」よりも「絵」を優先させている面があるのかな、と思います。エヴァンゲリオンもそうですが、「世界の水没」という設定は、魅力に満ちているのでしょう。最近、タイトルに惹かれて読んだ、この本も、地下鉄の代わりに(ネコバスならぬ)ウツボ電車が走り、ビルの中には沢山の熱帯魚、という、何となく静かでホッとする雰囲気の東京が描かれていました。

東京は海のそこ (えほんとなかよし)

東京は海のそこ (えほんとなかよし)

(ここで、そういった作品群をアーカイブ的に眺められれば格好いいですが、知識不足のためできません。あしからず。)


ちなみに、星新一に「午後の恐竜」という作品があり、この漫画版をしばらく前に読みました。ある日、突如として町のいたるところに現れた恐竜の幻影が、時間を経るにつれ進化して・・・という話ですが、これには、ポニョの描く、道路の上を古代魚が泳ぐ世界と共通のものを感じました。「絵」だけでなく「牧歌的な終末」という意味でも共通しているように思います。

コミック星新一―ショートショート招待席 (秋田文庫 58-1)

コミック星新一―ショートショート招待席 (秋田文庫 58-1)

そう、最後に、少し作品のテーマ・メッセージ的な部分について触れると、ポニョは「牧歌的な終末」を描いた映画だと思います。宮崎駿監督が、いわゆる「環境問題」の解決を諦めてしまったのか分かりませんが、現代社会がそういった問題を含む不安が増大していく世の中だとしても、互いが「生まれてきてよかった」と思えるような、人間関係を築くことが、見ている自分たちに求められている気がします。

*1:勿論、多くの方が被害に遭われており、そのこと自体はとても悲惨なことです。