Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

映像化を強く希望〜梨木香歩『家守綺譚』

家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)


これは、意表を突かれた。


そもそも、梨木香歩作品に対しては、自分が頭に描く漠然としたイメージがあって、これまで読んできた本には、それが当て嵌まってきた。

さて、以前も同様のことを書いたが、これまで読んだ梨木香歩の作品には共通点がある。

  1. 主人公は、現代的な生活(両親の生活)に違和感や漠然とした不安を持っている少女。
  2. 主人公の両親など現役世代は物語にはほとんど登場しない。むしろ一方的に批判される立場。
  3. 引退世代(おもに祖母)が、これから生きていくことについての重要なアドバイスを授ける。

(略)
というように、部分部分で、ばっちりツボに嵌る作家ではないけれども、「(おばあちゃんの)名言に出会いたかったら梨木香歩」という個人的評価は確立してきた。
人形の使命って何?〜梨木香歩『りかさん』


というように、自分は、説教を聞きたくて梨木香歩を読むようなところがあったのだが、今回、全く説教臭くない。いつも鼻について仕方のなかった「ロハス」的空気も少ない。
それは、舞台が現代でないこととも関係しているのかもしれない。また、連作短編という形式にも由来しているのかもしれない。
『家守綺譚』は、まさに「奇譚」で、明治時代の日本を舞台に、人里離れた湖畔で暮らす主人公が様々な怪異に出逢う話だ。しかし、解説でも書かれているように、登場人物は「怪異」を「悠然と」受け流す。これが、この作品の特徴でもあり、魅力だ。
この文庫解説がとても上手くまとまっているので、一番好きなシーンの紹介も兼ねて吉田伸子さんの文を引用する。

主人公の綿貫征四郎は、大卒の学士であり、駆け出しの物書きである。物語はその征四郎が早世した学友・高堂の実家に「家守」(いえもり)として住まうところから始まる。
ある日、その家の床の間の掛け軸の中から、高堂がボートを漕いで此方にやって来る(彼はボート部に所属していた。ある湖でボートを漕いでいる最中に行方不明となったのだ)。不意に表れた高堂に、征四郎は思わず声をかけるのだ。「どうした高堂」と。「逝ってしまったのではなかったのか」と(この「どうした高堂」のくだりは、何度読んでもくすりと可笑しい)。高堂も高堂で「雨に紛れて漕いできたのだ」と泰然と答える。(略)
物語は一事が万事、このような調子で悠然と進んでいく。征四郎が拾った得体の知れないものが、実は陸にあがった河童であったり、その河童を征四郎の飼い犬のゴローが滝壺まで送り届けたり、ゴローはゴローで、それが縁で河童と親しくなったり、と、此方と彼方がある時は重なり、ある時は交差して、たゆたうように流れていく。
四季折々の植物があり、風があり、雨があり、折々にささやかな怪異…白木蓮タツノオトシゴを孕む、信心深い狸の恩返し、小鬼との遭遇、等々…がある。その真ん中に征四郎はいる。「分かっていないことは分かっている」ことを、「理解はできないが受け容れる」ことを、ごく当たり前のことのように身の内に持っている征四郎がいるのだ。


素晴らしい。あらすじの説明として、ほとんど完璧な紹介文だと思う。
「四季折々の植物」「ささやかな怪異」、「その真ん中に征四郎はいる」のだ。
時間が止まったような、かといって超然とし過ぎず、生活費のことについても悩み、人間的成長を前向きに望む征四郎は、これまでに読んだ梨木香歩の小説の主人公たちよりも大人なのかもしれない。隣のおかみさんは色々とアドバイスをくれるのだが、征四郎には、梨木小説特有の「おばあちゃん」は不要で、何やら自らジャッジして前に進む。
この小説の中では、歴史や伝統、自然の素晴らしさの「押しつけ」は全くなく、ただひたすらに自然が、景色がそこにあるのだ。
そこが心地よい。


縁側で釣りができる。
わかるようなわからないような、この小説内世界ならではの風景は『崖の上のポニョ』の洪水後の世界に近いのかもしれない。
これこそ、アニメなどの映像作品として観ていたい…と書いていて、この本を読んだきっかけを思い出した。たしか、ビブリオバトルで紹介もしくは、梨木香歩を紹介したバトラー仲間から教えてもらったというのが一つなのだが、直接のきっかけは、サンキュータツオさんがやっているpodcast『熱量と文字数』で、アニメ化して欲しい小説として挙げられていたのだった。聞き返すと、BLの空気のある作品ということでリスナーが挙げたものだったが、このリスナーの目の付け所は素晴らしい。(2017/2/16 回)
調べてみると、NHKラジオの「青春アドベンチャー」枠で、2005年にラジオドラマ化されていることがわかったが、映像化はやはりまだ。
文庫表紙の物言いそうな雀もとても良い味をだしているが、紙芝居的なものでもいいので、やはり映像で観てみたい。
小説の方は、関連作品と続編があるということで、こちらも読んでみよう。

冬虫夏草 (新潮文庫)

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