Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

解説が上手いということはどういうことか〜織田信成『フィギュアほど泣けるスポーツはない!』


今日2/17は号外級のニュースが2本ありました。
ひとつは、フィギュアスケートの羽生君の五輪金メダル2連覇(さらには宇野昌磨君の銀メダル)。
もうひとつは、将棋の中学生棋士・藤井五段の 朝日杯将棋オープン戦での最年少優勝(準決勝で羽生竜王永世七冠を破っての優勝)。
自分は、羽生君が金メダルを確認したあと、そのまま、朝日杯の決勝戦の中継に移って最後まで2時間近く見てしまいました。これは野球中継は勿論、サッカー中継でも途中でやめたりする飽きっぽい自分にとっては珍しいことです。
何故、見続けたのか、といえば、勿論「注目の一戦」だったからというのは大きいのですが、それ以上に、佐藤天彦名人と 山口恵梨子女流二段の解説が 素晴らしかったからでした。それでは、解説の素晴らしさとは何でしょうか。
それは、「選手の凄さ」を分からせてくれること、そして競技そのものへの愛情が溢れていること、だと思います。その意味で、その競技者自身が解説をする、というのは、部外者が「わかりやすく」説明する何倍も説得力があります。
今回の藤井「六段」の妙手は終盤に出た「4四桂」なのですが、あのときの解説2人の興奮度合いは本当にこちらに伝わってきて、その「凄さ」が、素人にも体感できたのです。そして直後に、その凄さを言語化して納得させてくれる。その対応の素早さにはさすが現役トップ棋士と感動しました。


そして今回読んだ『フィギュアほど泣けるスポーツはない!』の織田信成君も、同じ意味で名解説なのだと思います。
選手の凄さを、言葉と、涙と、興奮でわからせてくれる、勿論、フィギュアスケートへの愛情が溢れている。
読む前は、「このタイトルはどうか」と思っていたのですが、織田信成君にとって、フィギュアほど泣けるスポーツはないのは、紛れもない事実なので、読後は、まさにこれしかないタイトルと納得しました。
そして、テレビを見ていると、タレント的に活躍しているように見える織田君も、2017年4月から、母校であるアイススケート部の監督をしているなど、指導者としても頑張っていることを知り、改めてフィギュアスケートへの愛情と責任感、そして人間的魅力を知ったのでした。
「はじめに」に書かれた文章が、彼の誠実さをよく表していると思います。
いろんな人に薦めたい一冊となりました。

引退を決めたその日から、僕の第二の人生における目標は「フィギュアスケートに恩返しをする」ことに変わりました。当時は漠然とした思いでしたが、指導者として選手を育てること、アイスショーに出場して観客の皆さんに喜んでいただけるような演技をすること、解説者として映像ではわかりにくいポイントを丁寧に伝えること、テレビなどメディアに出演してお茶の間の皆さんにフィギュアスケートの魅力を知っていただくこと…、そうしたすべてが、フィギュアスケートへの恩返しになるのだと、考えるようになりました。現在の僕は、一人でも多くの方にフィギュアスケートに関心を持っていただくために精進する、そんな充実した毎日を送っています。


そもそも、今回の平昌五輪はフィギュアに一番注目していたのですが、直前の特番などで気になったのは、平野歩夢選手のスノーボードハーフパイプでした。 この本には 、平野選手を破って金メダルを取ったショーン・ホワイトについてのコメントもあり、興味深く読みました。バンクーバー五輪に出場し、選手村での空気の重みを感じた部分の話です。

が、冷静に見渡すと、そこに異質な人たちが混ざっています。平たく言うと、まったく背負ってなさそうに見える人たちです。彼らは、僕をはじめとする一般的な五輪代表とは別次元にいる選手でした。中でも印象に残っているのが、スノーボードアメリカ合衆国代表のショーン・ホワイト選手でした。とても楽しそうにしていて、余裕すら彼の周りには漂っていました。実力があるから余裕なのか、余裕があるから実力を出せるのか…そんなことを考えてしまうほど、すごい選手はひと目でわかるオーラを放つものなんです。p66


そして、一章に渡って文章を書いている羽生結弦選手も、当然その「すごい選手」です。

羽生結弦選手はただの現役でトップのフィギュアスケーター、というだけの存在ではありません。僕の個人的な意見を言うならば、「こんな選手はフィギュアスケート史に存在しない、そして金輪際出てこない」、そう思ってしまうほど傑出したスケーターなのです。 p148

織田君はさらに以下のように続けます。

他の競技でたとえるなら、体操の内村航平選手が存在として近いかもしれません。内村選手は個人総合でオリンピック2連覇、世界選手権6連覇を果たした、生ける伝説にして、最強のオールラウンダーです。

たしかに内村航平選手ほど「生ける伝説」という言葉が似合う日本人アスリートはいないのかもしれません。
羽生君もそうですが、さらに最終章で書かれている浅田真央選手にも、織田君が並々ならぬ愛情を注いでいるのがよくわかります。
そのほか、今回、五輪代表争いに敗れた選手も含めて、織田君の、他人をほめる言葉は、読んでいて気持ちが良いです。


ただ、自身の競技者人生を振り返った第1章も この本の読みどころで、 滑ったプログラムで印象に残っているものを挙げているのも、動画で確認ができこともあり楽しいです。
1位はチャップリンメドレーなのですが、それ以外に、ジュニア選手権で優勝したときのSP「スーパーマリオブラザーズ」&FS「座頭市」を挙げているのも印象的です。組み合わせ自体が面白いですが、動画で確認すると、スーパーマリオはいかにも彼らしい楽しい滑りでした!


繰り返しますが、この本は、羽生結弦選手の凄さを再確認し、フィギュアスケートの魅力と、織田信成君自身の、競技に対する愛情と感謝の気持ちを実感できる素晴らしい本です。
五輪は女子がまだ残っていますし、3月には世界選手権も開かれるので、予習のためにも自信を持ってオススメします!