- 作者: 潮出版社
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 2011/06/02
- メディア: 単行本
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さて、内容は文庫版の巻末解説など、既に知っているものも多かったが、実際に『ブッダ』を読んだあとだけあってどれも楽しめたが、中でも二つが面白かった。
『日蓮』の可能性もあった『ブッダ』
一つは大下英治の書いたノンフィクション。(『手塚治虫−ロマン大宇宙』からの抜粋)
基本的に、文章は編集者(竹尾)から見た激務の手塚治虫の様子で、ちょうど、昨年売れた『ブラックジャック創作秘話』と同様の、裏話的な面白さがある。しかし『ブッダ』についていえば、仏教に詳しい編集者と手塚治虫のやりとりが、作品のテーマに直結しているという点で、さらに興味深い。
手塚はいった。
「それより、日蓮なんかいいんじゃないですか」
思わぬ展開であった。潮出版社が日蓮宗の流れを汲む創価学会系であることからの発言である。
竹尾は、編集長の栗生に、「どうしましょうか」と目で合図をした。
編集長の栗生は、やはり目で答えて切り出した。
「それも、ぜひお願いしたいんですが、その前に、入門編として、釈迦の生涯をテーマにしてはどうでしょうか。ヘルマン・ヘッセの『シッダルタ』のような」
すると手塚は身を乗り出した。
「それは、いいですね。おもしろいですね」
p31
このようにして始まったブッダについて、時折、手塚治虫が、編集者の竹尾に質問をする。
- 法華経の考え方をどうとらえていますか?
- 生命の中に、仏性があるということが、わたしにはよくわからない
こういった、宗教的な解釈のすり合わせを経て、『ブッダ』のセリフのひとつひとつが出来ているという。それだけブッダの言ったこと、というよりは、手塚治虫の解釈としての要素が大きいのだろう。あれだけ多忙だった手塚治虫が、そういう「解釈」の部分に時間をかけて作った作品ということに、改めて感動した。
乳粥のエピソード
もう一つは、中村光のインタビュー。
『聖☆おにいさん』にダイバダッタを出したかったけど、悪い奴なので「こいつダメだな」という結論になった話だとか、断食をしてガリガリになるブッダが一番笑えたシーンだとか、どうでもいい話が満載。
なかでも、『聖☆おにいさん』で、あまり好んで食べないのに、25世紀以上も毎年ブッダのところに(レトルトの)乳粥を送ってくれる人が、スジャータだと分かり、それだけでも『ブッダ』を読んだ甲斐があった。なお、インタビュワーが「スジャータは手塚版のオリジナル」という発言をしているが、これは違うみたい。
スジャータ(サンスクリット語及びパーリ語:Sujāhtā, 正確にはスジャーター)は、釈迦が悟る直前に乳がゆを供養し命を救ったという娘である。
作中でブッダを手塚信者にしてしまうほど手塚治虫を尊敬している中村光は、劇場公開されている『荒川アンダーザブリッジ』(未読)も含めて、いろいろ気になる漫画家です。