- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/06/19
- メディア: コミック
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ヤマト編
ヤマト編は、奈良県明日香村に残る石舞台古墳が、何故このようなかたちで残っているのか、という歴史謎解きの話をベースに、ヤマトの国の王子(オグナ)と、クマソの国の娘(カジカ)の悲恋を辿る物語となっている。
そして、時系列的に言えば、黎明編の最後のシーンから80年後の日本を描く物語。
前作のラストで、火の鳥の巣のある穴から脱出したタケルは、その後、約束通り、遠くの国から妻を迎え、穴の中にいた両親や兄弟とともに、クマソを再び栄えさせることになった。
その子孫(4代あとくらい?)であり、独自に日本の歴史を記録していたクマソの長・川上タケルを討伐するため、ヤマトから来た王子ヤマト・オグナ(のちのヤマトタケル)が今作の主人公となる。
ヤマトタケルが、女装して川上タケルを討つシーンや、火が燃え盛る野原の中を草薙剣で薙ぎ払いながら進むシーン*1もあり、大王(オグナの父)が古事記執筆に力を入れていたり、など、日本史で勉強したような部分も多い。また、殉死という名で何人もの人が大王の死の道連れになることに反対し、代わりに土人形を埋めることをオグナが提案したことが、埴輪の由来となっている。
というように、歴史にリンクさせながら、史実とは無関係のカジカという魅力的な女性キャラクターを生みだし、そして、オグナと火の鳥の関わりも描く、という、黎明編〜宇宙編までの4作の中では、最も綺麗にまとまり、後味の悪い部分が少ないストーリーになっている。ここでの火の鳥は、何かを教え諭すのではなく、あくまでもオグナ(ヤマトタケル)のサポートに徹するのがいい。
宇宙編
宇宙船の中の4人+1名の話ということで、「未来編」の序盤以上の密室劇となっており、冒頭は、主人公タイプの牧村が、死体で登場するという、トリッキーな設定で始まる。
このような宇宙密室ミステリは、自分が知っているだけでも、萩尾望都『11人いる!』や映画『エイリアン』、荒木飛呂彦『バージニアによろしく』などの名作があるが、「宇宙編」序盤は、バラバラの救命艇で宇宙に漂う4人が謎について話し合うという特異な状況と、その真相も含めて、非常によくできた話になっている。
- 牧村の死体はミイラ化しており、“ぼくはころされる”というダイイングメッセージが残されていた。これに対して…
- 城之内「牧村は大きな鳥の血をなめて不死になったという話を聞いた」
- 猿田「鳥ではなく、ある星の女にもらった薬のせいで、肉体が時間に逆行して若返るらしいという話を聞いた」
- ナナ「牧村がカツラを外し、頭が金属でできているのを盗み見た。彼はロボットだ」
キャラクター達の語る牧村像はどれも食い違うという謎が物語を引っ張り、そして、真実も火の鳥ならではの内容で腑に落ちる。
実質的に猿田が主人公の話となった後半部は、牧村の残忍さと、猿田の過ち、それらに対して火の鳥から受けた罰が、猿田の口から語られる。そこには、残虐的なシーンこそあれ、「未来編」や「鳳凰編」のような圧倒的なメッセージ性はないが、『火の鳥』構想全体をつなぎ合せるものとして、有効に機能している。
そういう意味では、この「ヤマト編」「宇宙編」は、ボリュームもちょうどよく、とても綺麗にまとまった「火の鳥」ということになる。
逆に言えば、手塚治虫ならではの、くどいメッセージ性が少なく、やや物足りなさを感じた。やっぱり手塚治虫は、全世界に説教してやる!くらいの勢いで書かれた漫画の方が面白い。「未来編」も語られるメッセージには反発を感じたりもしたが、あの強烈さがあってこその手塚漫画だったように思う。
その不満は「鳳凰編」で満たされることになるのだが…。
*1:「焼津」という地名はそこから来ているんだとか。