Yondaful Days!

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「驚異」「巨匠」「名作」に納得の一冊〜ペータース×スクイデン『闇の国々』

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々>――それは、我々の現実世界と紙一重の次元にある謎の都市群。
ある日突然増殖しはじめた謎の立方体に翻弄される人々を描く『狂騒のユルビカンド』、巨大な塔の秘密をめぐる冒険から、数奇な運命へと導かれる男を描く 『塔』、未知の天文現象により、体が斜めに傾いてしまった少女の半生を描く『傾いた少女』、傑作と名高い選りすぐりの3作品を収録した歴史的名作シリーズ の初邦訳。
メビウスエンキ・ビラルと並び、BD界の三大巨匠と称されるスクイテンが、ついに日本上陸。繊細な描線、計算されつくされた構図、あらゆる芸術のエッセンスを詰め込んだBD芸術の真骨頂!


メタ要素あり、写真とコミックの融合や、白黒とカラーの巧みな使い分けなど、とにかくアイデアが豊富。3作品は発表年代が異なるものなので、まとめて評価するのは難しいところもあるが、バンド・デシネのフランス(ベルギー)での位置づけが何となくわかった気がした。つまり、BDというのは映画に近い総合芸術であって、日本のような貸本漫画から週刊少年誌を経て発展した「軽い読み物」とは完全に別物のようだ。
収められた3作品に共通するのは、<闇の国々>の特殊な世界観。そういう意味では、ストーリーが読みにくくテンポが遅いとも言えるが、海外旅行にも似て何処に連れてかれるのかわからないまま読むという楽しさがある。自分は昔熱中したゲーム「MYST」を思い出した。
ただ、アメコミもそうだが、やはり値段がこれではとっつきにくいというのが最大の問題だが…。

狂騒のユルビカンド(1985年発表)

主人公である都市計画建築家(ユルバテクトと呼ばれる)のユーゲン・ロビックの図版入り手記から始まるという変わったオープニング。
増殖する謎の立方体がつくる「網状組織」について謎を解こうとするのはユーゲン・ロビックで、漫画が辿るのも、彼の行動に関する内容だ。しかし、それだけでなく、終盤には、ユーゲンの日記を読んだ人々による網状組織の謎についての仮説の紹介があるなど、物語全体がメタ構造を持っている。
増殖する立方体はユルビカンドという都市を覆い、人々は、それを利用して活動範囲を立体的に広げるという部分が非常に面白い。建築物のゴチャゴチャした感じは、「塔」にも繋がる。

塔(1987年発表)

塔の上まで登って降りる話だが、内容はやや哲学的、かつ背景の描き込まれ方が細かく、一部で使われるカラー描画部分がストーリーの中で意味を持ってくる終盤に驚く。
ブノワ・ペータース自身によるネタバレ解説を読むとブリューゲルの描くバベルの塔などからの着想とのことだが、文学からの影響としてカフカの『城』も挙げている。オリジナル・ラブの同名曲もあり気になっていたので、読んでみたいと思って調べると、漫画があるらしい。少し気になる。

カフカの「城」他三篇

カフカの「城」他三篇

傾いた少女(1996年発表)

遊園地のアトラクションに乗った後で、体が傾いてしまう(重力が斜めに作用する)ようになった少女メリーの話と、天文学者ワッペンドルフの話、そして、パリの芸術家デゾンブルの話(写真で構成されたBD)が合流して一つの話になる(しかも合流後に、ジュール・ヴェルヌも登場する)という、かなり変わった話。
インタビューなどを見ると、主人公のメリー・フォン・ラッテンは他の物語にも出てくるようだ。物語のラストの空白期に、メリーの政界での活躍話が入るはずなのだが、その辺りの話なのだろうか。「傾いた少女」の印象からは想像がつかないが、こういった抜けた部分がどうなっているのかを知るためにも続刊は読んでみたい。


ところで、最初に、BDは、日本の漫画とは位置づけが異なるようだと書いたのは、『水曜日のアニメが待ち遠しい』で作者のトリスタン・ブルネが、BDは子どもたちのものではなく大人が楽しむものだったと書いていたように記憶していたからなのだが、巻末のインタビューを読むと、そうでもないらしい。

初期のBDは、完全に子ども向けのものでしたが、その後、読者層は思春期の子どもたちへと移り、最終的に数名の作家の登場によって大人の読み物としての地位を確立しつつありました。おかげで私たちは、10〜15年前だったら見向きもされなかったようなテーマを扱うことができたんです。

つまり、エルジェの『タンタンの冒険』などは、やはり子ども向けのBDであって、それ以降、対象年齢層が上がって行ったようだ。なお、インタビュー記事からは、やはりBD作家が最初に挙げる日本の漫画家は谷口ジローのようだ。最近の漫画として『デスノート』や『NARUTO』も挙げてはいるが、熱量が違う。

BDの歴史についてはWikipediaにも詳しく、、21世紀に入ってからは日本風バンド・デシネ、アジア風バンド・デシネというものも登場しているとのことで、ベルギーやフランスなどの国の違いや歴史とも合わせて、もう少し勉強して行きたい。

1980年代の成人向け漫画は、セックスと暴力に満ちた陳腐な作品が大勢を占めていた。例として、この期間のヘビー・メタル誌が挙げられる。ラソシアシオン、アモク、フレオンなどのインディペンデント系出版社の出現により、1990年代にバンド・デシネの復興が始まった。これらの出版社から発行される作品は、大手出版社の通常出版物よりも絵画表現および物語表現の両面でより芸術的に洗練され、上質の装丁を施されている。この潮流は、英語圏でのグラフィックノベルとも相互に影響関係を持っている。
21世紀に入ると、日本の漫画に影響を受けたフランス語オリジナルの日本風バンド・デシネが登場し、これはマンフラ (manfra) あるいはフランガ (franga) と呼ばれている。さらに韓国漫画のマンファ、中国風漫画のマンホアなど、アジア風バンド・デシネが市場で意識されるに至っている。


闇の国々II (ShoPro Books)

闇の国々II (ShoPro Books)

闇の国々III

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闇の国々IV

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