- 作者: 夢枕獏,三輪士郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/10/25
- メディア: 文庫
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3巻では、このシリーズ最大の特徴がいかんなく発揮される。
それは「寄り道」だ!
まず、主人公の大鳳と久鬼の出番はほぼない。
最初に出てくるのが菊地。1巻の冒頭で共に大鳳を襲った灰島が「あの日から菊地は変わった」と印象を語る場面からスタートする。菊地ファンの自分にとって 猛烈にドキドキするオープニングだ。その後すぐに倒されるというのも菊地らしい。
そして、この巻では、様々なバックボーンを持っていると考えられる新キャラクターが登場する。(どのキャラクターも名前がカッコいい!)
- フリードリッヒ・ボック
- 巫炎(ふえん)
- 猩々(しょうじょう)
- 斑孟 (はんもう)
- 脇田涼子
このように、主要キャラを差し置いて新キャラクターが続々と登場するだけでなく、3巻の時点で巻の1/3は台湾を舞台にしていることからも、夢枕獏の壮大な構想が垣間見えてくる。それは一方で、壮大な構想ゆえの大きな回り道の癖がよく出ているともいえる。
なお、キマイラが「伝奇」小説たる所以は、この巻で登場する「鬼骨」にあると思う。
「キマイラ化」という超常的な現象を、実感を持って説明する言葉として使われるのが「鬼骨」。通常7つと考えられるうち最も下にあるムーラダーラ≒「尾閭」のさらに下に位置する8番目のチャクラ「気骨」を回すという「八位の外法」が、キマイラ化するための方法ではないかと語られるのだ。
この巻で登場するフリードリッヒ・ボックの位置づけは、その点で重要だ。既に「八位の外法」を知り、雲斎や猩々と同等に気功を操るボックは、物語の登場人物の中で、もっとも真相に近づいているかもしれない。
鍛錬の途中で誤って「鬼骨」を回してしまうということはあり得ない中で、何故、二人の少年が同時期にキマイラしたのか、そういった謎がメインストーリーの牽引力になる。しかし、謎解きの鍵を握るのは、久鬼や大鳳ではなく、雲斎やボックであるから、どうしても物語は寄り道してしまうことになるが、それが読者をヤキモキさせる原因でもある。
3巻の話
- 空手部の夏期合宿の最終日、鬼道館に、金髪、長身、鷲鼻(異相)の外国人が現れた。大鳳の居場所を聞くボックに、九十九のいる円空山を教える阿久津だが、帰ろうとしたボックに菊地が突っかかる。しかし、ボックは特殊な技を使って菊地の前歯を二本折り、気絶させる。
- 旧知の猩々のもとを訪れるために台湾の山中を行く雲斎。途中、ブヌン族の青年・斑孟(猩々の弟子)に襲われながらも、無事、猩々に会う。
- 雲斎の目的は、「八位の外法」(7つあるチャクラのさらに下のチャクラを回す外法のこと)について知り、特に「八位の外法」のために獣と化した巫炎の姿を目にすることだった。
- 10年前にブヌン族を襲った巫炎を捕らえたのは、猩々と乱蔵。斑孟は、両親を巫炎に喰われたのだという。
- なお、雲斎よりも前に、ボックが、台北の道場で、猩々に八位の外法について尋ねていたことが分かった。
- 舞台は再び小田原に戻る。さまざまな迷いを絶つため。久鬼玄造の屋敷に行く九十九。そこで「君は何のために生きておる?」と問われて、答えられなかったことは、その後、しばらく九十九自身を苦しめることになる。
- 久鬼玄造からの屋敷の帰り道、坂口の見舞いに行き、夜遅くに円空山に来た九十九。そこには、別れの言葉を告げに来た大鳳がいた。
- さらに遅れて来たボックだが、大鳳はすでに闇の中に姿を消し、残った九十九とボックの戦いが始まる。しかし、呆気なく九十九は発勁の技で倒されてしまう。
- 四章からの「九十九彷徨編」は小田原繁華街のスナックでウイスキーのストレートを飲む九十九から始まる。大鳳、久鬼、そして、ボックにも「置き去り」にされた自分はこれからどうすればいいのだ。
- そんな九十九を見つけた菊水組の連中は、九十九を泥酔させ、神社で大人数で襲う。しかし、その程度の相手に対しては十分強く、破壊する暴力に酔いしれる九十九。
- 相模湾を望む早川の河口で、電話で呼び出した深雪を「酔った勢い」で抱きしめる九十九。それを止めたのは坂口。波打ち際で、二人は互角の戦いを繰り広げるが、結局その場を収めたのは台湾から帰って来たばかりの雲斎。雲斎の目の前で九十九は泣きじゃくるのだった。
- 一晩明け、まだ迷いを見せる九十九に、雲斎は「自然石割り」をやって見せ、ボックの技は鬼勁という、これよりももっと恐ろしい技だという。
- 六章「修羅の男」は龍王院弘の話。大鳳に恐怖した自分を許せない龍王院弘は、歌舞伎町を歩いていて、大鳳を見つけるも見失う。
- 二日後、円空山に電話をかけ、九十九を新宿に呼び出す。結局闘うことになる二人だが、九十九はいまだ本調子ではなく、劣勢になる。「警察が来る」と声を出してその場を救ったのは、その日に九十九が掏摸から助けた女性・脇田涼子だった。
- 涼子のマンションで食事をご馳走になったあと、涼子に誘惑される九十九だが、その涼子が龍王院弘に攫われてしまう。しかし、公園で龍王院弘と戦う中で、少しずつ九十九に実践のカンが戻り、今回は、龍王院弘を倒すことが出来たのだった。
- この巻ラストの9章「月に哭える」では、1で大鳳、2で久鬼(と由魅)、そして3で、十年ぶりに自由の身になった巫炎が映し出される。