Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

谷岡一郎『「社会調査」のウソ』★★★★

帯の文句は「データに騙されるな」。副題は「リサーチ・リテラシー」のすすめ。
日本のずさんな社会調査、また新聞アンケートの巧みな誘導などの実例を見ながら、社会調査についての正しい方法論を学ぶという内容。
イラクの事件に関連して最近取り上げられることの多い「メディア・リテラシー」。新聞やテレビ番組がつくった「国民の声」をどう読んでいくかという問題意識で読んでみた。

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具体的な実例に対して、この調査のおかしな点はどこかと読者に問う形が多く、論理クイズみたいで、読みやすい。ただ、具体例が出ているからといって過激というほどのものでもなかった。過激(痛快)という意味では、日垣隆『「買ってはいけない」は嘘である』*1に軍配が上がる。
いくつかの質問に答えるうちに、アンケート作成者の意図する回答を選びがちになるキャリーオーバー効果や、因果関係と相関関係の取り違えなど、典型的な事例が列挙されていることで、正しい調査手法を学んでいけるというのが、この本のよいところ。
著者は大阪商業大学学長の立場から、「第3章 研究者と調査」では、論文の質をそれが引用された回数で計る citation index (googleみたいなものでしょうか)よりも論文数を重視したり、基本的に調査データの公開を嫌う日本の大学や研究機関に対する批判も行っている。
データの非公開については、自分が仕事をする中で感じることも多いのだが、縦割り行政の中で、例えば農水省が所有するデータを国土交通省に見せないために、国交省の新たな調査が必要になる、というようなことも実際にあるわけで、そういうのが日本固有の問題なのだとしたら、早く何とかしてほしいものだ。

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さて、今回の本を読んだ後で、仲間うちで話題になっていた「乳幼児のテレビ・ビデオ長時間視聴は危険です」(日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会)を検証(?)した。
http://www.jpeds.or.jp/saisin.html#67
この調査の結論の部分は「長時間視聴は1歳6ケ月時点における意味のある言葉(有意語)の出現の遅れと関係がある」ということになるが、よく読むと「テレビ=危険」という報道のされ方は、やや違うのかなあと思う。
全部をよく読むと、

  • 視聴時間が4時間未満の子供と比べて、4時間以上の子供の「有意語出現がない率」は有意に高いとはいえない。(A群、B群の比較)
  • 「このような長時間視聴家庭では親の生活がテレビに偏って親子の関わりの時間や他の活動が少なく」と書いてあるように、コミュニケーションの時間の量が最も影響を与えているように読める。
  • 「子どもの言語能力は一方的に聞くだけでは発達しない」と書いてあるように、お互いの顔を見た相互のコミュニケーションが言語の発達には必要だ、と言っているように見える。
  • かなり穿った見方をすれば、コミュニケーション不足→言語発達や社会性の遅れ→コミュニケーションの減退→テレビに任せる、という因果関係の逆転も含まれる。

結局、「テレビを見せておけば、子供はしゃべるようになる」と思っている人に対する警告としては、「テレビ=危険」でいいのかもしれないが、もっと丁寧に「テレビで楽して直接的なコミュニケーションをさぼると言語がなかなか発達しないから注意しなさい」という方が、メッセージとして間違っていないと思う。
でも、僕は調査内容がどうあれ、テレビ単体での直接的影響は「ある」と思います。子供にはあまり見せないようにします。勿論、直接的なコミュニケーションを大事にします。

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(補足)
あとで確認してみると、友人に紹介されたのはこちらの情報のようでした。

TV見過ぎると集中力弱い子に・米小児科学会で報告
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20040405AT3K0500T05042004.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040405-00000063-kyodo-soci

「1歳と3歳の各グループ、計2623人のデータを分析して」「7歳になった時に注意欠陥障害が起こる可能性は10%高くなっていることが判明」するしくみがよく分かりません。また、「視聴時間が1時間延びるごとに」「可能性は10%高くなっている」というのも以下のような複数の可能性があり、どの程度の意味があるのか、もう少し詳しい情報を見ないと分かりません。
 2時間→ 0%、3時間→10%(それ以降は調査対象にない場合)
 2時間→50%、3時間→60%(〃             )
 2時間→20%、3時間→30%・・・10時間→100%
でも、「米」小児学会というだけで、「NASA」級の説得力があります。
幾つかのHPを見ると、最近は、英語教育などのために、小さい子供にビデオを見せる機会が多い、ということが背景にあることがわかりました。確かに、自分も語学ビデオを喜んで見せそうな気がするので、この情報の真偽は知りたいです。

*1:買ってはいけない』がいかに科学的根拠なく書かれているかを追及する内容。日垣隆は絶対的に回したくない人物の一人。