Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

スガシカオ『TIME』★★★☆

TIME(初回)(DVD付)
10月にリリースされたスガシカオの7枚目のアルバム。
全体的な感想を言えば、少し前にも書いたように、前作『SMILE』に比べてインパクトが弱い。確かに「はじめての気持ち」のような怪作、「GO!GO!」のようなお笑い要素を備えた前作のインパクトが強すぎたのかもしれない。しかし、曲の粒が揃っている分、アルバム単位で評価できるアルバムだと思う。
そんなアルバムの中で、一番のお気に入りは2曲目「カラッポ」。*1
「世界を嘆いて吐き捨てるのは誰にでも出来る、自分はその先の再生へと向かう部分をメッセージとして表現したい。」DVDのインタビュー*2の最後で、こういう主旨の発言があった。それは、「光の川」*3や「風なぎ」のなかで「明日」と言う言葉を使ってはっきりと示されている。
「カラッポ」という曲は、一面においては、それを歌詞に出来るスガシカオ自身の自負と、それを歌わない「カラッポな奴ばっかり」のことを歌った曲ではないか、と思う。それが実際どうかは別として、独特の自己中心的な歌詞は単純に面白い。スガシカオならではだ。
一方、アルバム最大の盛り上がりは5曲目、タイトルどおりの「クライマックス」。「ふられた高校生の絶望」を歌って、ここまでかっこいいライブ向けの曲を書ける、というのはすごい。
逆に、苦手なのは「あくび」。ここに、どファンクが一曲入っていれば、僕の中での評価はもっと高かったかもしれない。ところで、出だしを口ずさむと、矢野顕子「釣りに行こう」と少し被ってしまう。
今回のアルバムはエロが少ないのが残念だが、それは、自らが語るように「汚れる前の自分自身」を照らし合わせながら歌った曲が中盤の要所を占めるからだろう。だからこそ逆に「June」のような佳曲も出来たともいえる。
田島貴男と比較したとき、スガシカオは「完成」されているなあ、と感じる。DVDのインタビューではオリジナリティを追求したいというようなことを言っているが、実際には、スガシカオには確固たるスガシカオワールドが完成されている。しかも岡村ちゃん同様、その世界には他の追随を許さない強さがある。だからシカオは安心して聴ける。田島貴男は、いつも模索しているのが面白いところであり、不安なところでもあるんだよなあ・・・。
 
それにしても、歌詞に「家畜」という言葉が使われるのは単純に驚き。

家畜に名前がないように あなたの名前を忘れてしまうの(1曲目「サナギ」)

あと、「窓の外では"みかん売り"の枯れた声(7曲目「あくび」)」というのは、井上陽水「氷の世界」(♪窓の外ではリンゴ売り 声をからしてリンゴ売り)へのオマージュ?きっとそうなんだろう。

*1:コーラスの英語が何と言っているのかわからないのが残念。「ちゅ、ちゅ、からすみー」???

*2:初回限定でついてきたDVDは、シングル3枚のクリップにアルバム製作についてのインタビューがついて50分弱と充実の中身

*3:この曲は、派手ではないけれど、密度の高い傑作だと思う。