Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

森岡正博『感じない男』★★★★

感じない男 (ちくま新書)
この本を「トンデモ本」と言う人もいるだろう。しかし、この本は、作者自体が、そのトンデモ性をわかっていながら敢えて著しているものであり、トンデモな部分こそが、最大の特徴だ。冒頭にあるように、“世の中のほとんどの本は「男はこうだ」とか、「女はこうだ」とかいうふうにして、自分のことを棚に上げて語っているが、その中で、森岡は「私はこうだ」と恥ずかしげも無く言っている。(8p)”そこが凄い。*1
たとえば、1章。

この章では、日頃から考えている一つのテーマを考えてみたい。私はなぜミニスカートに欲情する(エッチな気分になる)のかという問題である。私は敢えて一人称で語っていく。なぜなら、全ての男がミニスカに欲情するとは限らないからである。ただ、かなりの割合の男が、ミニスカに欲情するということは経験的に確かなように思われる。(中略)
ミニスカについて、私は長いあいだ自問し続けてきた。いくつかのことがあきらかになったが、まだ分からないこともたくさん残されている。謎が解けて癒されたこともある。・・・(12-13p)

このあと、作者の経験と思考実験が繰り返され、検証が進む。テニスウェアではダメか?ボディコンは?マネキンは?アニメは?漫画ならどうか?男がミニスカをはいた場合は?・・・。一般論ではなく、あくまで森岡正博個人の感覚(セクシュアリティ)を追求する。読んでいる方が辛くなるくらいだ。なお、辛さは、第4章の「ロリコン」を扱うあたりでピークに達する。
なお、この本の主張の中心は「感じない男」=「男の不感症」*2で、僕自身、この考え方には共感する。*3しかし、これを根拠に制服フェチとロリコンを説明する第3章、第4章は、展開が進むにしたがって「そういう考え方もできる」という共感から「考えすぎだろう」という突っ込みへと、僕の思いは変化する。特に、「不感症で汚い体からの脱出願望」という仮説のあたりについては、全く共感できない。
しかし、僕は、この本が好きだ。まず、要所要所で、フェミニズムの考え方について言及しているところなど、マイワールドを突っ走っているわけでなく、行きつ戻りつ「私はこうだ」を検証している点で信頼がおける。*4また、全体を通して、作者の謙虚さがにじみ出ており、真面目な人柄が伝わってくる。著書『無痛文明論』を読むと、「感じない男」の思想的背景がわかるとのことなので、こちらも読んでみたい。

なお、この本専用のブログが、はてなダイアリーにあるようです。→id:kanjinai

*1:たとえば大谷昭宏氏の「フィギュア萌え族」などは、語呂の悪さもさることながら、「私はこうだ」と正反対の「決めつけ」である点が一番問題である。また『ケータイを持ったサル』も「決めつけ」要素が強い。

*2:この内容について具体的に書くのは、ちょっと恥ずかしいので伏せる。興味のある人は、本書を立ち読みしてください。

*3:また、「男の不感症」で性犯罪について説明を試みた“「すごい快感」という幻想からの解放”(最終章P171)などは、共感度が高い。

*4:以前読んだ荷宮和子は、完全に自分の世界を突っ走るタイプ。