Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

シガテラ完結(ネタバレ)

ヤングマガジンで連載されていた古谷実の『シガテラ』が終わった。
前号で告知されて突然終了という終わらせ方も、幸福でも破滅でもない現実的な展開も、実に『シガテラ』らしい終わり方だったように思う。
(このあとネタバレあり)
最終回、前号から6年以上の月日が流れて、荻野君は「立派な大人」になっていた。過剰に自分のことを責めたりしなくなっていた。あれほど好きだった南雲さんとは別れて、別の彼女と付き合っていた。でも「つまんないやつ」になっていた。
ここの日記では、何度も繰り返す言葉だが「予想以上に 予想以上に 夢は夢で過ぎて」(中村一義『新世界』)いったのだ。世の中のほとんどの人がそうであるように。
6年前、まだ南雲さんと付き合っていた頃の浮き足だった荻野君は、そこにはいなかった。多くのマンガが、結晶化した青春時代を切り取った世界で成り立ち、その中で完結する故に、読む側は、現実社会の嫌なことには目をつむり、物語のカタルシスだけを得ることができる。岡村靖幸が歌うところの「激しく健気な頃の夏」、そんなフィクションの世界から一気に、現実の世界に引き戻されるような展開。
よく考えてみれば、それはいつもの『シガテラ』のやり方だった。『カイジ』みたいな直接的な問いかけとは違ったやり方で、読者に問題提起を投げかける。怖い怖いと何度も書いていた『シガテラ』だが、荻野君が「つまんないやつ」になるラストには、学生時代に読んだとしても、ちょっと実感できなかった「怖さ」がある。
でも、「つまんないやつ」になった自分を発見した荻野君は、ドゥカテイ*1を買うことを決意した。それで何かが変わるのかはわからないが、諦めない。浪人生のときに、南雲さんにふさわしい男になるんだ、変わるんだ、と思っていたときと同じように、自分は変わると信じて進んでいく。そういう意味では、希望の見えるラストだった。
しかし、長かったように思った物語が単行本だと全6巻しかない、というのは驚きだ。『シガテラ』の面白さは、焦らされてこそ、というところがあるので、これから単行本で読む方は、一話一話休憩を入れながら読みましょう。

参考

*1:高級バイク。よく知りません。