Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

人生はあっという間~シャマラン『オールド』×大江千里『マンハッタンに陽はまた昇る』

M・ナイト・シャマラン『オールド』


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シックス・センス」「スプリット」のM・ナイト・シャマラン監督が、異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われた一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラー。

この映画を見て感じることは、とにかく「時間はあっという間に過ぎる」ということ。映画の設定はSFだけれど、映画の中で起きていることは現実に起きていることと変わらない。年齢の高い人から亡くなる、病気を持っている人から亡くなる。ちょっと見ないうちに皺が増えている。視力・聴力に陰りが見られる。
ひとつの映画の最初と終わりで主人公の年齢が10~20歳変わっているのはよくあるだろうし、世代が変わることもある。しかし、一日で世代が変わってしまう映画を見るとなると、同じ2時間の映画を見ても受け取り方が全く違ってくる。
普通の映画ならば、他人の人生を他人として味わうが、『OLD』を見て、自分自身の人生に対する「切迫感」が増大した。これはおそらく、「死ぬ前に人生を振り返るときってこんな感じ」と漠然と頭に描いている風景とイメージが一致しているからで、そう受け取る人が多いのではないか。特に死ぬ間際のガイとマドックスが目や耳を近づけて会話するシーンは、二人の愛が感じられる感動シーンでもありながら、自分事として受け止めた。


そして状況は、コロナ禍の今と重なる。
いわゆる飲み会や対面のビブリオバトルから離れて1年半以上が経っている。それまで定期的に会っていた人とも年単位で会っていない。直接の知人の中にはいないが、COVIDで亡くなった人が出てもおかしくない状況ではある。
振り返れば5年、10年はあっという間だが、2020年に入ってからの1年半は本当に早い。今後、マラソン大会にも出ず、海水浴にもいかないままで人生を終えるということも、もしかしたらあり得るかもしれない…。
そんな状況で見た『OLD』は本当に怖いと感じる映画だった。高2中2の子どもたちと見た映画だったので、その後、30分で1年経つんだぞ!と脅していたが、彼らにはこの「怖さ」は実感を持って感じられなかったのだろう。


一方で別の怖さも感じたのは、シャマランが1970年生まれの51歳であるということ。*1自分と4歳しか違わない。
自分は、著名人と比べて、同年齢のときに自分は何かを成し遂げただろうか、ということに(考えこそすれ)ショックを受けることは少ない。しかし、『OLD』を見ると、もうすぐ死んでしまうのに、自分はやりたいことを出来ているのか、という気持ちが湧いてくる。
30分で1年が過ぎてしまう…そんな風に考えていたら毎日では疲れてしまうが、それくらいの切迫感を持って、真剣に考えていかなくちゃいけない、と自分を戒め、引き締める映画体験だった。

大江千里『マンハッタンに陽はまた昇る』

80年代のエピック・ソニーといえば、渡辺美里小比類巻かほる岡村靖幸が好きだったが、大江千里はほとんど聴いていなかった。ところが、先日、たまたま渡辺美里を聴いていてサビの暗さが最高!と懐かしく感じた「夏が来た!」の曲提供が大江千里と知る。よくよく見れば「10years」も「すき」もじゃないか。*2
ちょうど10日ほど前にダイアモンド・オンラインの大江千里のインタビュー*3が話題になったこともあり、本を読んでみようということになった。

ところが、期せずして『OLD』と同じ思いに襲われることになる。
この本のプロローグは「還暦の僕からあの頃の「君」へ贈る言葉」と題して、20歳、30歳、40歳…の自身に向けてメッセージを贈っている。

40歳の君は、喪失とあり余る創作意欲とのはざまにいる。30歳のときよりシリアスで悲しい目をしているね。限りある一回きりの人生をどう生きるか、すぐ先の道が分かれていることをすでにわかっているのだろう。(略)
君は47歳でアメリカに「ジャズ留学」し、50歳では念願のジャズ大学で20歳の学生たちに交じって再び夢中の日々を送る。吹っ切れたように明るいのに、どこかポップからジャズに来たことに引け目を感じている。「堂々と」していればいい。若さは瞬間風速だ。君は負けない。心の熱の温度こそが自分を測る物差しだよ。
10年先もジャズ山の途中で地団駄踏んでいることは、今言うとかわいそうなので秘密だが、人生は君が今思っているよりも本当にあっという間だから、「この先も失うことを恐れちゃいけない」とだけ伝えたい。

そうだった。大江千里のジャズ留学は今の自分と同じ47歳だった。
そうか、この年から大学で20前後の若者たちと学び直すのか。学生として過ごす4年間を考えると、また自分の日常の時間の見方が変わってくる。
それと同時に本の中でも繰り返される「限りある一回きりの人生」という言葉、そして、50歳の自分に向けたメッセージ。

人生は君が今思っているよりも本当にあっという間だから、「この先も失うことを恐れちゃいけない」とだけ伝えたい。

この辺りは映画『OLD』から受け取ったものと一致で、背筋が伸びる。


本の内容は、基本的には「60歳から始まる青春グラフィティ」という 副題の通りニューヨークでの生活を綴るエッセイ。授業で学生たちに夢を聴いたり、ツアーの準備に忙しかったり。その文体は、とてもテンポよくさっぱりしている。
今回初めて大江千里の近作(ジャズアルバム)も聴いてみたが、ピアノは目立ち過ぎず、ベースやドラムとのバランスが良く、文章から受けるのと同じ印象で面白い。
また、本は何といっても時折挟まる写真がいい!愛犬「ぴ」の写真もいいが、大江千里本人の笑顔がキュートで素晴らしい。こんな60歳になりたい!


さて、時系列に語られるエッセイの後半は丸々新型コロナウイルス関連の話題。
「Hmmm」ツアーの中止から始まり、ニューヨークでのロックダウンの生活が語られる。この部分は日本との感覚の違いが大きいと感じる。
「わかっているのは元にはもう戻れないということだけ」(p293)というような言葉が繰り返されるのは、ニューヨークでの惨状*4が本当に辛かったからなのだろう。
しかし、何となく日本人が「あと数か月待てば”元通り”の生活になるのでは?」と思い続けているのに対して、もう以前の生活は続けられない、と思いきってしまった方がこれからの世界には適応していける気がする。


本の最後は、「人生100年」の時代ということで、70歳、80歳、90歳、100歳になった「君」に向けたメッセージがある。夢に溢れていて、大江千里の笑顔の写真を思い出して、読みながら幸せな気持ちになる。
自分は、「今」を生きるのに必死で、こんな風に過去の自分、未来の自分と向き合ってこなかったように思う。『OLD』を見て、また『マンハッタンに陽はまた昇る』を読んだのをきっかけに、一日一日を大切に生きるのと合わせて、過去・未来の自分と向き合う時間を多く取ろうと思った。

*1:シックスセンス』(1999)という圧倒的な作品は29歳のときの作品だったのか。

*2:関連して、大江千里渡辺美里のデュエット曲「本降りになったら」も教えてもらった!こんな曲も!

*3:大江千里氏が「ラーメン1杯2200円」の米国から語る、安い日本の深刻問題 | 週刊ダイヤモンド特集セレクション | ダイヤモンド・オンライン

*4:実際、大江千里も地下鉄に「地獄」を見たと書いている