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鎌田浩毅『成功術 時間の戦略』★★★★★

成功術 時間の戦略 (文春新書 (443))

成功術 時間の戦略 (文春新書 (443))

『火山はすごい』の鎌田浩毅の書いた本。背表紙の写真を見て、『火山は〜』を読んだときの印象とは異なり、だいぶハンサムでお洒落な感じの人であることに驚く。
目次は以下の通り。

第1章 時間管理の戦略―活きた時間、死んだ時間
第2章 人に負けない“武器”を持つ方法―スペシャリストになるための助走
第3章 人間関係の戦略―貴人が人生を拓く
第4章 フレームワーク利用術―世界観の違いを乗り越えるために
第5章 戦略的な読書家になる―読書の楽しみと効用
第6章 効率的に教養を身につける方法―エグゼクティブはジェネラリスト
第7章 無意識活用法―意識下にある膨大な能力の活用
第8章 クリエイティブになる方法―まず常識を疑う
第9章 「オフ」の戦略―豊かな人生を創り出すために

内容は多岐に渡り、ややバラバラ感もあるが、具体例に富み、読みやすい。ただ、第二章をはじめ、一流になるには、海外留学をすることが前提との考え方が通低するのには違和感というよりは拒否感がある。自分として非常に可能性の低いことだからだ。
最も印象に残ったのは4章の「フレームワーク」について。
フレームワークとは「思い込み、思考パターン、考え方の枠組み」のことで、

という性質を持つ。
したがって、「コミュニケーションを成り立つということは、ある人のフレームワークともう一人のフレームワークが合うということ(P82)」であり、その橋渡し作業のためには何らかの処置が必要となる。
ここで、挙げられている処方箋は二つ。

  1. 自分の考えが相手に伝わらないときは、自分の言い方に問題があると考えること。(常に"受け手”を主語にして考えること)
  2. 通じなければ、別の言葉で言い換えてみる。つまりフレームワークの代替案を多数用意しておくこと。

主に、専門家が一般の人に説明する際の心構えという観点で話が進められているが、後者の説明が非常に技巧的で、わかりやすかった。
フレームワークの話を読者に伝えるために、第4章では4つの例(①火山噴火の用語選択②小学校の出前授業③デカルトの考え方④カルロス・ゴーンの手法=CFTという対話システム)が提示されている。つまり、この第4章の構造自体が、代替案を凝らした好例であるという、メタ構造になっているのだ。
〜〜〜
サッカー日本代表監督就任が決まったオシムも、こういったフレームワークの引き出しが多い人と言える。(ひねくれない言い方をすれば、「比喩が得意」ということなのだが)
W杯前にジーコジャパンを評した言葉として有名?な「水運び役」理論は以下の通り。

日本で言えば、例えば中盤に小野がいますよね、小笠原、中村、中田英寿、それだけいてアレックス(三都主)もいます。さらに前線に玉田や柳沢といっぱいいるわけです。誰が見てもこの選手は試合に出るべきだという選手が6人はいます。ただ、そういう選手のうち、ディフェンシブな選手はいるのですか。全員攻撃的な選手です。では、一体誰がディフェンスをやるのですか。サッカーは4人で守ることはできないのです。

ここまでだと結構普通のことを言っているようにも聞こえます。

サッカーというのは、バランスを保つために水を運ぶ役割をする選手が必要になってくるわけです。そういう意味ではジーコのチームでも同じことが起こっているわけで、その話をさっきしていたわけです。福西ひとりで水が運べるでしょうか。福西がトラックを運転して運ぶことはできますけど(笑)、チームのバランスというのはそういうことを言うのだと思います。

ここで必殺の比喩が出ました。でも、これだけだとわかりにくい。

誰でも攻撃的な選手というのは好きなものです。たぶん、ここにいるほとんどというか全員の人が忘れていると思いますけど、忘れないでほしいのは、いま代表に集まっている選手というのは実際に各々に所属クラブがあって、中村がセルティック中田英寿ボルトン、小野が浦和…。彼らはクラブの中で『ひとり』の存在であって、残りの10人でディフェンスを補っているという部分があるわけです。そういうメンバーがひとつのチームに6人も集まってしまって、それでチームが成り立つのでしょうか。簡単な数学ですよね。

先ほどの比喩に対して、具体的な話で肉付けすることでかなりわかりやすくなりました。

そういう(テーマという)のはメディアの皆さんにとって書くと面白いんじゃないですか。皆さんも各新聞社やいろいろな会社から来ているわけで、会社に戻ればひとりの存在ですよね。でも、あなた達が全員集まってひとつの新聞に書いてみてください。果たして良い記事ですかね(笑)

駄目押しです。自分の説明を、情報の受け手である新聞記者のフレームワークに置き換えて説明しています。これ以上分かりやすい説明はない。
感服です。
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フレームワークの重要性については、養老孟司の「バカの壁」、畑村洋太郎の「テンプレート」、さらには、梅津信幸『「伝わる!」説明術』での「アナロジー」の話と、これまでも何度も本質的には同じ内容の文章に自分で触れてきたものだが、まさに、鎌田浩毅の説明は、自分の「フレームワーク」にあったといったところだろうか。
現実的な話として、説明したい事柄がある場合、それに対する説明の代替案を常に複数用意していくことは、非常に有効な策だろう。


これ以外では、第7章で述べられる「ロールモデル」については、自分でも今後意識してみようという気になった。

「こんな人になりたい」と思うようなモデルを、ふだんから見つけておく。そして、その人の行動パターンをいつも参照するようにする。「その人だったらどうするか」とつねに考えながら、自分の行動を決めるのだ。(P156)

確かにその通りだ。
こういう思考法に感動するというのは、自分がこれまであまり意識していなかったからだが、損した気分だ。真似するということは、ある部分では楽に成長できる方法だから、これもかなり有効な方法だろうと思う。


最後にひとつ。
仕事をしない「オフ」の時間の重要性を説いた最終章。
ここで紹介されている「行方不明になるオフ」が衝撃的だ。
カルロス・ゴーン川那部浩哉生態学者)が例に出されているが、多くの経営者や学者が取る方法だという。その重要性はわかるが、川那部浩哉などは、家族も含めて、1〜2週間の間その行方を誰も知らないというから驚きだ。ただし、この人のように一時代前の人は特殊な例で、現代の学者・経営者であれば、1〜2日程度なのだろうと思う。

参考