Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

不二家とコンプライアンス

今週は朝のニュースをつけていることが多かった
毎日のように、不二家の一連の不祥事についての報道がなされていたのだが、テレビでの報道のされ方に違和感がひとつ。
まずは、事件のおおもとの部分を朝日新聞から引用。

 一連の問題の発端は、「(06年)11月7日消費期限の牛乳4ロット分を11月8日に使用した」との社内告発があったことだ。同社は11月中にこの事実を把握し、対策会議まで開いていた。

 ここで幹部は二つの判断を誤った。

 一つは公表を見送ったことだ。「公表すべきだ」と言う幹部はいなかったという。11日の1回目の記者会見での発表は、マスコミ報道に押されてのものだった。

 同社はここ数年、少子化などの影響で業績不振が続き、昨年5月に発表した2カ年計画で、再建に取り組んでいるさなかだった。食品業界は、雪印乳業食中毒事件、牛肉偽装事件などで、速やかな情報公開が企業の生命線になることを学んでいたはずだった。

 コンプライアンスの専門家は「速やかな公表は、会社の信用を維持し、損害の拡大防止とするための経営者の義務でもある。不二家は過去の教訓を生かせず、公表の重要性を認識していなかったのだろう。クリスマス商戦だったこともあったかもしれないが、判断が鈍いという印象だ」と指摘する。

この部分については、不二家の判断ミスの部分が大きいことに異論はないし、しつこいくらい「雪印」「雪印」というのも定型的過ぎて嫌だが、それはいい。
違和感を覚えたのは、ニュースを読み上げたキャスターが、そのあと、怒った口調で
コンプライアンスが全くわかっていませんね。コンプライアンスは、日本語で訳すと「法令遵守」というような意味ですが、このくらいのことは守ってほしいものです」
というまとめ方をする、そういう報道番組が複数あったことだ。
自分には、このキャスターがコンプライアンスについて理解しているとは思えなかった。
コンプライアンスが何かと論じる立場には無いが、この言葉は「法令遵守」という訳語に引っ張られるとずれた方向に行くと思う。むしろ「法令を遵守すること」よりも「法令を遵守できなかったことを認め、公表できること」という方が近いと思う。
今回の不二家の事件がまさにそうだろう。法令遵守が第一で、「法令に違反していること」は、あってはならないことだから隠蔽したのだ。
もう少し一般的にいえば、個人レベルでいう「倫理」を、会社レベルで守るためのシステムを組織として持つことが、コンプライアンスなのではないかと思う。
それは、換言すれば、原因究明や再発防止の措置がスムーズに取れることを示す。

パロマコンプライアンスがなっていなかったという人もいるが、実は法令違反は何一つしていません。過去の一酸化炭素中毒事故で死者が出るたびに民事・刑事で追及を受けたが、責任をすべて回避し、何回か和解金などを100万円払っただけでした。法令遵守という意味では、パロマコンプライアンス対策は万全だったといえます。
(略)
パロマの危機を招いた根本的原因は別にあるのです」。
郷原氏は「過去20年もの間、なぜ法令が事故を防ぐことができなかったのか」と問う。それは事故が起きるたびに、誰の責任かという議論はあっても、原因や根本的な問題の究明は行われなかったからだ。
(略)
郷原氏は、「コンプライアンス法令遵守」と思い込み、法令規則を守ることばかりに汲々とすると、肝心の基本や本質に注意が向かなくなり、細かいことばかりに目が行って、ヘボ選手のように球を取りこぼすことになるという。
前述したように司法も原因究明や再発防止の役割を担ってこなかったので、結局、誰も事故の原因を突き止めようとしなかったのだ。こうした背景には「自由競争と法令遵守の組み合わせだけで、世の中がうまくいくという考え方がある」と郷原氏は言う。

引用先では、パロマの事件について、コンプライアンスの考え方が述べられている。結構難しい内容なので飛ばし読みだが、欧米との文化の違いもあり、日本では「法令遵守」が欧米と同様に機能しない、という。むしろ、リスクマネジメントや、マスコミ対応などの「クライシスマネジメント」が重要、との指摘も「コンプライアンス」という言葉で、不二家事件を強引にまとめようとするキャスターより数倍わかりやすい。
パターン化された不祥事を起こした不二家も問題だが、何も考えていないパターン化したコメントでまとめようとする報道番組も大いに問題だ。
ところで、不二家に対しては、営業再開時期について、「バレンタインの前になるのは許せない」と怒りを露にするコメンテーターもいたが、一方で、営業停止している小売店を「可哀想」と騒ぐのだから、終始一貫していない。とにかく「悪は叩きたい」というだけなのだろう。
コンプライアンス的に大いに問題のある「発掘!あるある大事典」のデータ捏造事件について、同じマスコミで、どのような扱われ方をするのか、非常に楽しみだ。