Yondaful Days!

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ユニバーサルデザインとは「譲り合い」の思想

道のユニバーサルデザイン―誰だって街を歩きたい

道のユニバーサルデザイン―誰だって街を歩きたい

ユニバーサルデザインという言葉がある。*1
バリアフリーの上位概念のようなかたちで用いられている、という程度の認識はあるが、違いを説明しろと言われれば戸惑ってしまう。
例えば、今年度の国土交通白書では以下のように記されている。

(1)ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進
 高齢者や障害者を含むすべての人々が安心して生活できるバリアフリー環境の整備は重要であり、従来より、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」や「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」に基づき、病院等の不特定多数の方が利用する建築物、公共交通機関や主な鉄道駅周辺等の歩行空間におけるバリアフリー化等を推進してきた。
 バリアフリー施策を更に進めるためには、どこでも、だれでも、自由に、使いやすくというユニバーサルデザインの考え方に基づき、個々の施設のバリアフリー化、公共交通機関と建築物の連続的なバリアフリー化のみならず、心のバリアフリー等のソフト面も含めた施策を推進する必要があり、平成17年には、それらを内容とするユニバーサルデザイン政策大綱を取りまとめた。

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第II部 国土交通行政の動向>第4章 自立した個人の生き生きとした暮らしの実現
>第1節 ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー化の実現
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h18/hakusho/h19/index.html

これを読むと、ユニバーサルデザインは「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」という意味のようだが、バリアフリーという言葉との関係はよくわからない。実際、白書では、このあとも「バリアフリー」という言葉が連発され、この章を通読しても、ユニバーサルデザインバリアフリーという印象しかない。

本書は、そういった曖昧模糊とした「ユニバーサルデザイン」の概念について、道路という具体例を示しながら説明がなされており、非常にわかりやすかった。
ユニバーサルデザインバリアフリーとの違いについて短く表した記述を抜き出すと以下のようになる。上述の悩みは、この文章である程度解消できるはずだ。

  • ユニバーサルデザインは、一つのバリアを除去するとき、それによって別の立場の人の新たなバリアが生じない、誰にとっても使いやすいものをつくるためのデザインなのです。(P4)
  • ユニバーサルデザインは(略)「障害をもつかわいそうな人のために何かをしてあげよう」という慈善の心ではなく、障害の有無にかかわらず、すべての人が気持ちよく生活できる環境をデザインすることを意味しています。(弱者のためではなく、すべての人のための環境整備)(P5)

また、もう少し具体的に定義するために、「ユニバーサルデザインの7つの原則」というものが挙げられている。

  1. 公平な利用:誰もが差別感や屈辱感なく利用できる。プライバシーの保護。
  2. 利用における柔軟性:例えば「だれでもトイレ」。
  3. 単純で直感的な利用:例えばiPod。マニュアルフリー。
  4. 分かりやすい情報:例えばピクトグラム
  5. 間違いに対する寛大さ:フェイルセーフ。
  6. 少ない身体的負担:例えば腰をかがめずに商品を取れる自販機。
  7. スペースの確保。

こういった原則を見ると、ユニバーサルデザインの合い言葉である「誰でも」の対象が、いわゆる健常者/障害者の区別だけではなく、年齢、性別、体格、国籍などを含んだものであることがわかるだろう。
さらに理解を深めるのには、13章「譲り合いこそがユニバーサルデザイン」がわかりやすい。
メインテーマである「道路」のユニバーサルデザインとして、具体的な例が多数示され、どうすればユニバーサルデザインが可能なのか、その難しさはどこにあるのかが感覚として理解できる。
核は、章タイトルにも使われている「譲り合い」という言葉にある。「誰もが使えるためには、誰かに少し不自由をかける」というトレードオフに対して意識的でないと、道のユニバーサルデザインは果たせない。「譲り合い」が見られる事例としては以下のようなものがある。

  • 横断歩道前の段差:縁石の段差が大きいと、車椅子や歩行車を押している人が渡れない。縁石の段差をなくしてしまうと目の不自由な人が境界を判断できなくなる。⇒2cm程度の段差にする。
  • 信号の継続時間:横断歩道の青の時間が短ければ、目の不自由な人や足が不自由な人、高齢者などが渡りきれないおそれあり。長ければ、交通渋滞の原因になることがある。⇒たとえば、青時間延長用信号ボタンを設置する。
  • 視覚障害者誘導用ブロック:目に障害のある人は安全に移動できるが、車椅子や歩行車を押す人にとっては通りにくい。⇒できるだけ歩道の有効幅員を広げる。
  • 横断勾配:横断勾配がなければ水溜りができる。横断勾配がきつければ、歩行が困難になる。

また、数回にわたって取り上げられているが、自転車と自動車、歩行車の共存の問題も、譲り合い=ユニバーサルデザインの問題としては大きい。
流し読みだったが、具体的な法令を掘り下げて調べたり、勉強するにも十分な情報が入っているし、関連情報を通読するにもうまくまとまっている本だと感じた。

参考(過去日記)

*1:書いた後に気づきましたが、はてなのキーワードの説明もわかりやすいですね。7つの原則についても載っています。