- 作者: 疋田智
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2008/11/13
- メディア: 新書
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一方で、本格的で速度が出る自転車は、自分みたいな素人が乗るには危険なのではないか?今利用しているママチャリのように使うこと自体ができないのではないか?という不安もある。
(実際、後述するように、日本における自転車の安全度は高くない)
自動車と歩行者には、法で定められた交通ルールがあり、これを守ることが、安全確保の最低条件となるだろう。しかし、日本の自転車に特有の事情として、そもそも守るべきルールが非常に曖昧だからこそ、わざわざ「安全鉄則」と名前をつけた本を出す意味が出てくる。
この本では、そもそもの元凶となっている「法律上の自転車の扱い」や「道路行政」、そして「誤った自転車推進」を取り上げながら、今からでも始められる「安全鉄則」 について書かれている。
そして、日本の自転車に関する諸問題を列挙するだけでなく、取り組むべき優先度をつけていることで、本気度合いが伝わってくる。
左側通行の徹底で事故死亡者は半減する!
日本において自転車は安全だろうか。
安全ではない。著者は、日本での交通事故による死亡者数を状態別に見た場合、自転車+歩行者が他の先進国と比べて突出していることを繰り返し挙げている。*1
この原因はいくつか考えられる。特に、日本では自転車が車道ではなく歩道を走っていること、また、歩道専用自転車という日本独自の規格である「ママチャリ」が9割を占めることなど、諸外国と異なる要素が多いため、分解して考えるのが難しい中で、事故を減らす秘策として、以下を挙げる。
自転車の走行空間は、とりあえず車道・歩道を問わない。ただし、どちらを通る場合であっても、左側通行を厳守すること。p90
これだけで、事故死亡者は半減すると主張する。
右側通行が危険な理由は3つ。
- 自転車事故の7割を占める「出会い頭事故」の元凶となっている(自動車運転手からは右側通行の自転車、特に左から来るものがほとんど見えないため)
- 正面衝突事故を避けることができない(自転車25?/h、自動車60?/hとして、相対速度は追突で35km/h、正面衝突で85km/h)
- 死亡事故となる確率が格段に上がる(エネルギーは質量×速度の二乗に比例するため、上記例では、正面衝突は追突の6倍の差がある)*2
例えば、今年2月に起きた、バランスを崩した自転車から投げ出された5歳の女の子が亡くなってしまった事故についても、著者の疋田智さんは、マスコミが「3人乗り自転車」に食いつくのは誤りで、「右側通行」にこそ着目すべきと諭している。
三人乗り自転車の欠陥(別の部分だ)はあるとはいうものの、私としては、今回のこの事故をもって、三人乗り子載せ自転車は危ない!ケシカラン!という話になるのには、まったく納得ができない。 主因と従因、幹と枝を取り違えていると思う。 この事故は「三人乗りだから」起きたのではない。「逆走で、狭い歩道が対面通行だったから」起きたのである。
つまり、理想的には「車道左側通行」が望ましいが、(車道でなくても)「左側通行」の徹底だけで、この事故は防ぐことができたというのだ。
これは、主要道への自転車レーンの設置など、ドラスティックな道路改革抜きでも実行できるため、良い案だと思う。…が、実際、そういう気持ちで、よう太と街を走りに行ったが、歩道が片側にしかない道路も多いことを再確認。左側通行の徹底というルールは、片側の歩道で対面通行が発生してしまうため、ルールがなし崩し的に守られなくなってしまう気もしている。
自転車は車道を走るという「理想論」
ということで、やはり「自転車は車道」とするしかないのかもしれない。(これは、本書では「理想論」としながらも「左側通行の徹底」の次に優先度が高いとされている。)
毎日新聞は「銀輪の死角」というテーマで自転車事故の問題を継続的に取り上げている。2011年1月6日には、日本では、車道ではなく歩道から交差点を渡る自転車と交差点を左折する自動車の間での交通事故死者が多い点が研究により明らかになったと報じている。
「自転車事故の7割超が交差点に集中し、その主要因は自転車の歩道走行にあるという分析結果が明らかになった。国内の自転車乗用中の死者は年間1000人近くで先進国の中で突出。欧州各国では道路幅が狭くても交差点付近の車道に自転車用通路を確保するなど対策が進んでおり、国内でも同様の対策が急務となっている。
元建設官僚で住信基礎研究所研究理事の古倉宗治氏によると、車のドライバーにとって自転車の歩道走行は街路樹などで死角となるだけでなく、自転車の存在感を薄れさせる「心理的死角」を生む。自転車の利用者も車への意識がにぶるという。このため、車道より歩道を走行する自転車の方が事故に遭う確率が高い、というのが古倉氏の分析だ。
自転車の歩道走行は、交通事故死者が史上最悪になった70年、車との接触事故を減らすため例外的に導入された。だが、40年余を経た現在、逆に事故多発の要因になるという事態が生じている。
さて、実際に自分が自転車で車道に出ることを考えると、やはり実用上も見た目もママチャリでは耐えられない。逆に、電動機付き自転車というママチャリスタイルの速く走れる自転車は、歩行者にとっては危険だから、当然車道を走るんだよな…とか色々な考えが湧いてくる。
実際、自分が対人の事故を起こす可能性も高いことを考えると、歩道でぬくぬくと漕いでいるのもどうかという気がしてくる。保険も入らないとなあ・・・(もやもや)
道路交通法改正案について
さて、つい先日、改正道路交通法が成立。自転車に関することでは大きく以下が変更になっているようだ。
改正法の施行後は、道路右側の路側帯を通る行為は、道路交通法第17条第1項の「路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない」に違反する行為となり、「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」の対象となります。
「路側帯」は歩道のない道路の端に設けられた通行区分で、全国約120万キロの道路のうち歩道や自転車歩行者道のない約100万キロに設けられています。しかし、現在の道路交通法では自転車の双方向通行が可能なため、すれ違う自転車同士が正面衝突したり、接触したりする恐れがありました。このため、今回の改正試案では路側帯を自転車が通行する際は「道路の左側部分に限る」と規定。自転車による右側通行が禁止されることになったのです。
ということで、実際に自転車をめぐる環境は変わりつつあるようだ。
路側帯の右側通行していることなどは、これまで相当あったはずで、今後は意識しなければすぐに罰金扱いになる可能性がある。
自分の載る自転車や保険だけでなく、法律の動きにも気を付けて行きたい。
そのほか海外事例の扱い
自転車施策については比較対象として外国が語られることが多い。国内だけを見ていても、問題点は分かるが解決策が見えてこないが、一方で、海外の取り組みも先進的な事例と、後追いで模索中の事例がある。
例えば、この本で先進国とされるのはオランダやイギリスであり、フランスは後追いで模索している
したがって、通常は、好意的に取り上げられるばかりの「べリブ」についても、現在成功要因がどこにあり、今後の拡大のための課題についても明確に述べられているのが面白い。
自転車の「楽しみ」ではなく「安全」に特化した本として、色々興味深かったし、道路交通法改正のタイミングとも合っていたので、読むべきときに読めたと思う。
今後は、「楽しみ」系の自転車本を読むとともに、いつか「カッコいい自転車」を買って乗り回す日を思い描こう。
次はこれかな?
- 作者: 吉田戦車
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/03/15
- メディア: 文庫
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*1:国土交通省データ⇒http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/img/i_008.gif
*2:勿論、左側通行の追突でも、自動車側に避ける意志がないと大変なことになる⇒母子の乗る自転車を100mに渡ってひきずって死傷させた男を逮捕