Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

よしながふみ『フラワー・オブ・ライフ』とラジオ深夜便

フラワー・オブ・ライフ (1) (ウィングス・コミックス)フラワー・オブ・ライフ (2) (Wings comics)フラワー・オブ・ライフ (3) (ウィングス・コミックス)フラワー・オブ・ライフ (4) (ウィングス・コミックス)

図書館でよく借りる朗読CDだが、今回、「ラジオ深夜便」を借りてきた。
落語も、宮沢賢治も、館内にある分はそれなりに聞いたので、他の分野も開拓しようとする意図と合致し、ちょうどよかった。聞いたのは以下のCD。

放送されたのは、昭和60年9月だというから今から20年以上前、1911年生まれの日野原先生*1も、まだ74歳だ。だが74年の蓄積は大きく、その一言一言には、非常に重みがあり、理屈などとは違った次元で、わかりやすく共感できる、いい話を聞けた。
80分ほどの収録時間の内容は、多岐にわたるも、すべて「いのちの質」の話に尽きる。
病院話を中心に具体的な例も多く出てくるが、中では、ちょうどラジオ放送の一ヶ月ほど前に起こった日航ジャンボ機墜落事故の犠牲者、河口博次さんの遺書の話が心に残った。墜落する飛行機の中で家族に向けて書かれたものだ。
遺書については多くのサイトに引用されているので、全文を孫引きする。

 マリコ 津慶 知代子
 どうか仲良くがんばって ママをたすけて下さい
 パパは本当に残念だ きっと助かるまい
 原因は分からない 今5分たった
 もう飛行機には乗りたくない
 どうか神様 たすけて下さい 
 きのうみんなと食事したのは
 最后とは
 何か機内で 爆発したような形で
 煙が出て 降下しだした
 どこへどうなるのか
 津慶 しっかりたのんだぞ
 ママ こんな事になるとは残念だ
 さようなら 子供達の事をよろしくたのむ
 今6時半だ 
 飛行機はまわりながら
 急速に降下中だ 
 本当に今までは 幸せな人生だったと感謝している

日野原先生が強調するのは、最後の一文。
「残念」ではなく「感謝」の気持ちが表れる凄さ。
予期されず、突然やってくる最期にあたっても、これまでの人生に対して感謝できるか、悔いを残すかは、結局のところ、それまでの生き方や価値観によってきまってくる。

では、どのようにして、河口さんのような考え方に到達できるのか?これについては、大きく二つが語られていたように思う。

一つ目は、感性を高めること。
日野原先生は、医学生に、いつもこう教えているという。
「患者に触れて医学や看護を実践する際に、問題解決のために必要なことの2/3は教科書に書いてあるが、1/3は書いていない。不足する部分は、文学を愛し、詩の心を学び、人と交わることによって養っていけるのだ。」
これについては、ガイド役の若林一美さんも含めて、繰り返し「死」の重要性が語られる。すなわち、病気や死(特に自分が直面するもの)に触れることで、自分だけではなく、他人の痛みがわかるようになる。
感性を高めることで、延命することよりも重要な「いのちの質」が見えてくる。

そしてもう一つは、毎日を誠実に生きること。
毎日が、神様からギフトとして与えられた日であると考え、感謝し、一日一日を大切に、誠心誠意、力一杯生きていこうとすること。こちらは、むしろ高齢者向けとして取り上げられた言葉だったが、全世代に普遍的に通じるものだろう。
普通に過ぎていく一日一日が、いかに素晴らしく、いかにかけがえの無いものであることか?

そして、『フラワー・オブ・ライフ

つまり、『フラワー・オブ・ライフ』は、そんな話だったのだ。
4巻帯に書いてあるように「平凡で最高な高校生ライフ」、すべての青春漫画に通用するような惹き文句だが、その平凡、なんでもない日常のなかに幸せがつまっていることが、ここまで実感できる作品もない。
4巻終盤以降の展開が怒涛だが、実は、1巻から一貫して取り上げられてきたことのダメ押しであり、全く無理のない展開。
感動した。
だけでなく、真面目に生きよう、と思わせる力を持った素晴らしい作品だと思う。
以下、名言集。

1巻

  • 自分の言ったことで 相手が多少気を遣うだろうなくらいの想像もできなかったとしたら あんたは馬鹿で子供で無神経だわ(斉藤滋)
  • その時「ごめんね」って言ってもらえたら あたしもあれは冗談だったんだって思えたと思うんだ。(相沢さん)
  • 作れるのに作らないのと最初から作れないのは全然違うんだよ・・・!!(春太郎の父)

2巻

  • 失くした萌えには新しい萌えを(真島海)

3巻

  • すみません!!このライトボックス下さい!!(武田隅子)
  • 男の子がだらしないって言われるのとは重みが違うんだよね・・・(坂井亜弥)
  • いたよ 言い争ったあとにこんなに気持ちよく笑い合える友達が僕にはいたよ・・・(三国翔太)
  • もしかしてクリスマス会楽しみにしてんのって俺一人なの?(辻)
  • あたし後期の中間あたりの今頃が一学年の中で一番好き(相沢)

4巻

  • 結局 あなたの人生を誰よりも考えられるのは あなた自身だけなのよ(春太郎の母)
  • こういうのをさ 大人っぽくなったって 大人は俺らを見て言うのかもね(春太郎)
  • あんたみたいにいつも友達と仲良くやれてる人間に分かるもんか!!(春太郎の姉・さくら)
  • あたしはあんたが勝手に作った筋書きの中のキャラクターとは違うのよ!!(斉藤滋)
  • 俺は普通がいい!!普通の高校生で 普通に恋愛して 普通に失恋して 普通に恥じかいて 普通に普通の人間にはなりたくないと思いたい!!(春太郎)

それにしても、主人公の一人・三国翔太の可愛さ。彼がいなければだいぶ違う雰囲気の漫画になっていたと思う。
そしてメイン主人公・花園春太郎。性格は勿論だが、造形のかっこよさに特に惹かれる。髪型、キリっとした眉、高い鼻、いかにもな、漫画的なタイプだが、絵的なバランスとしては、非常に好み。
三番手の真島海は、やはり扱いにくいキャラクターだと思う。彼のキャラクターの面白さだけで、あと1.5巻分くらいは引っ張れた気がする*2が、ラストへ向けての展開を考えれば、登場頻度を最小限に抑えた3、4巻は素晴らしい。

今後の展開

いやあ、本当に面白かった。
1巻なんかを読み返すと、猛烈に、ある漫画が思い出されるが、ネタばれになるので、ここでは書かない。けど、久しぶりなので読み返してみようと思う。*3
なお、『フラワー・オブ・ライフ』は、元はといえば、otokinokiさんのエントリ「95年エヴァンゲリオン文化圏の終わり−−知的な塹壕としての「ゼロ年代の想像力」スタートと、よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」完結について」をさらっと見て、これは漫画史的にもかなり重要な作品だと理解したのがきっかけだ。当時、ネタばれをおそれて飛ばしていた部分を今読み直すと、「難しい」人である真島の存在などについても丁寧に分析されており、ここまで読める人がいるのだなあと感心する。

また、このエントリの言及日記から、hanemimiさん*4のところのエントリ(優れた青春小説/マンガはすべからく群像劇になる。)も読んだが、引きこもりに焦点を置いたこちらの分析も素晴らしい。『フラワー・オブ・ライフ』は、これだけ語らせてしまう力のある漫画という云い方もできるのかもしれない。*5

少女ファイト』もSFマガジン?もチェックしたいし、読みたい本(漫画)は増えるばかり。
僕が『少女ファイト』を読むその間、皆さんは、『フラワー・オブ:ライフ』を読んでください。

*1:日野原重明の場合は、明確に「先に生きている方」という意味で、意識することなく「先生」という呼び方になってしまう。

*2:実際、2巻はほぼ全話に渡って彼が大活躍している。

*3:こういう書き方はいやらしくて好きではないのだが・・・

*4:一度トラバをいただいて以降、いつも面白く読ませていただいています。書店ネタはツボです。

*5:なお、これらを読むと、自分の文章のネタばれ度というのは実はものすごーく高いような気がする(汗)