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大槻ケンヂ『グミ・チョコレート・パイン パイン編』

グミ・チョコレート・パイン パイン編 (角川文庫)

グミ・チョコレート・パイン パイン編 (角川文庫)

青春大河小説3部作の完結編。
大団円と言っていいと思う、とにかくラストが素晴らしい。
バンド内での居場所がなかった賢三が、最後に見つけた自分の「役割」。賢三が文字通りのアイドルとして、そしてライバルとして、恋心を抱いていたヒロイン山口美甘子との距離の絶妙なとり方。山口に翻弄された男性アイドル羽村の心の動き。そういったものがすべて納得のいくかたちで昇華されたラストには、スカッとした、というと軽いが、読者を明るくさせるものがあった。
描写も変わった。グミ編、チョコ編で目立った、オーケン自身による突っ込みに代表される「自意識過剰さ」「くどい描写」などは影を潜めた。勿論、そういった作風は、グミ編、チョコ編における閉塞感を表すのに適していたと思うが、ラストは、「青春大河巨編」として「開いた」感じになるのは必然だった。
あとがきで本人が言うように、自伝的小説として始まった、この物語が、中盤から登場人物が勝手に動き出した、というところが影響しているのであろう。彼らの持つ躍動感が、読む側にも伝わってきたし、事実、山之上のじーさんとの修行シーン、羽村とのバイクシーンなど、「お話」っぽいところにも嘘臭さを感じず物語に入り込めたのは、キャラクターの魅力あってのことだ。
エピローグで語られる、山口美甘子から見た賢三への見下すような思いを含め、非常に辛い現実をこれでもかと書きながらも、「希望」を感じさせるストーリー。年齢に関わらず、今が青春と思っている人に大プッシュできる作品だと思う。