- 作者: 中原英臣
- 出版社/メーカー: ナツメ社
- 発売日: 1999/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
・・・と思ったが、巻末のプロフィールを見ると、慈恵医大卒業、細菌学・衛生学専攻の医学博士。さらには20代のときにウイルス進化論を提唱した一人、ということで、バリバリの専門家のようだ。現在、早稲田大学講師とニューヨーク科学アカデミー会員とのことだが、格はどうあれ、山野〜よりも、早稲田〜かニューヨーク〜を肩書きにした方が、本の内容に安心感を与えるような気がする。
さて、一時期、数多く刊行された、ナツメ社の「図解」シリーズ。見開きの左側が解説文章、右側が図解、という体裁は読みやすいかもしれないが、あくまで見た目重視という内容なら理解も深まらないだろうと思い、特に興味を持たなかった。しかし、この本の図解は非常に適切だし、構成が上手い*1からか、ストーリー性を持って読み進めることができる。「本」としての出来が非常によくて、シリーズの他の本にも手を出したくなった。
内容としては、ダーウィンの進化論と、それを発展させた総合進化説(ネオ・ダーウィニズム)を軸に、それへの反論と、分子生物学のような先進的なアプローチを示したもの。5章で進化論の争点を説明した部分がまとまっているので、この部分だけを抜粋整理。
- 論点1「遺伝子の安定性」
- 遺伝子の安定性は生物の進化と矛盾する
- それを否定する「突然変異」については、進化に有利なものは少なく、継承されにくいという問題点あり
- 最近発見された「プラスミド」という遺伝子であれば、従来の「突然変異」よりも上手に説明が可能
- 論点2「進化の単位」
- 論点3「目的論と機械論」
- 目的論←ラマルク(生物に主体性を認める:ダチョウは飛ばないので羽が退化)
- 機械論←ダーウィン(生物に主体性は無く、偶然によって進化は起きる)
- ウイルス進化論は、目的論に近い
- 論点4「偶然と必然」
- 論点5「獲得形質の遺伝」
- 論点6「競争か協調か」
- 論点7「連続か不連続か」
最新の知見を扱うというよりは、進化論についての議論の全体像を俯瞰できる、という意味ですばらしい本。だが、後半部に書かれた分子生物学による年代判定や、グールドの断続平衡説については、もう少し突っ込んで読んでみたいところ。
さらに、進化論絡みのSFを2、3冊固め打ちすれば、かなり勉強になるだろうなあ・・・と思いつつも、やっぱりSFは読みにくいんだよな。
*1:特に、重要なことは複数回繰り返す点などは感心した。見た目を重視するあまり、図にしやすい内容を博覧会的に並べるような見せ方ではなかった。理解してほしいという著者の意図が伝わってきた。