「売れ筋本ばかりの図書館はいらない」と、朝日新聞6/20オピニオン欄のインタビュー記事で、佐野眞一さん*1が、最近の図書館の変貌ぶりに警鐘を鳴らす。いわく
冒頭部分だけ見ると、「昔はよかった」的な意味合いも感じられるが、記事全体を読むと、非常に納得性の高い主張で感動した。
佐野さんは、インタビューの中で、売れ筋本を図書館に置くことについての「個人的な違和感」から語り、図書館の「強み」の部分と、それが上手く評価されない現状の問題点を指摘する。
まず、感覚的な部分として、例えばベストセラーに100人以上の予約が入っている現状に対する違和感が語られる。
本が好きだ、読みたいという情熱と、図書館にリクエストして半年1年待ってもいいというのがぼくの中では結びつかない。好きなアイドルの握手会が隣町であるのに、電車賃がないからと半年1年待ちますか。
自分も常に変だなとは思っていたが、その違和感を的確に指摘できないもどかしさを感じていたので、このわかりやすい比喩は説得力があるという以上に、何だかうれしい。確かに新刊本は高いし、ホイホイ買えるものではないだろうが、自分の場合は、読みたい情熱は半年1年経ったら失せている可能性が高いし、そもそも、もっと読みたい本が、棚に並んでいる。
とはいえ、利用者によって図書館に求めるものが異なるため、本の借り方は、個人の方法で構わないはずだ。したがって、上記意見は自分の考え方とは非常にシンクロ率が高いが、あまり万人に納得できるというものではない。
しかし、図書館の強みとして「閲覧性」を挙げて、それが失われることへの危機感を語る部分は、個人の感覚を超えて、公共施設としての図書館のあり方がうまく照らし出されている。
売れ筋本には、館内の活性化、知への入口として一定の役割がある。だけど蓄積としての蔵書が充実していないと、図書館の強みである「閲覧」という機能が働かない。人気小説の隣に建築学の棚が現れたり、右に曲がると古代の植物の本の一群と出会ったりするのが図書館の面白さ。深度と網羅性を備えた知の迷路を形づくる。新刊書店やブックオフのように「商品」だけが集まっている場所では「閲覧」はできない。
例として、『銀河鉄道の夜』を読んだ少年が、ガモフの宇宙物理の本や樺太の歴史、古生物学や鉱物について興味を持つ話を挙げているが、広い分野へ興味の幅を広げられるのが「閲覧」の意味するところだろう。自分は、そこまで野心的に幅を広げられるタイプではないが、小中学校のときに通い詰めた図書館では、特に借りようと思っていない部分でも、棚の並びを見ているのが好きだった。何となくでも「これ、面白そう」を発見するために、眺めていた部分はある。
最近の大型書店でも棚の並びは似ているのかもしれないが、目の前にあるこの本を家に持ちかえって読めるかどうか、という前提の違いからくるものは大きく、図書館で感じる「これ、読みたい」という気持ちは、本屋では浮かばない。
最近でこそ、多く利用するようになったが、自分が図書館で予約貸出をあまりしないのも同じ理由で、棚を眺めて「これ、読みたい」に出会うことこそ、図書館の一番の魅力であると思う。借りたい本が決まっているというのは、それはそれで退屈な気がしてしまうのだ。何だか非効率だが。
記事では、最後に、図書館側の事情についても語られる。すなわち、予算削減や効率化が進む中で、利用者数や貸出冊数などの見えやすい指標で評価されることが増え、その分だけ、知的な深さや広がりというものを切り捨てざるをえない状況になってきたのだという。
民間委託も増え、購入図書の基本ラインは、詳細なデータを持つ「図書館流通センター」(TRC)任せというところも増えているのではないでしょうか。彼らは、管理番号もふってくれ、カバーもつけてくれる。
ここら辺の話は、以前読んだ「私がディスクユニオンを辞めたわけ」でも出てきた、目利きよりもPOSシステムが有難がられるようになる状況と似ているのだろう。囲み記事によれば、
- 最近では6館に1館が業務を外部委託(03年の指定管理者制度がきっかけ)
- 蔵書管理のIT化が進み、蔵書選びから貸出管理まで、システムで売り込む民間企業が影響力を強めている
結果として、蔵書の平板化、館の特色の喪失を懸念する声も上がっているとあるが、既に街の本屋やCD屋が辿ってきた道だろう。カードとスタンプで貸し借りし、蔵書確認もカードでしていた時代とは雲泥の差だが、やはり便利になればすべてうまく行くのではないという当たり前のことに改めて気づく。
図書館は宇宙に例えられますよね。本は散らばった星ですよ。図書館での読書体験は、この星と星とをつないで星座を作ることだと思う。(中略)ある人はオリオンを描き、別の人はカシオペアを描く。それを最低限支えてくれる空間であってもらいたい。
その通り。
勿論、星と星とをつなぐのは、図書館側ではなく、星を眺める利用者の方。最近、妖怪本ばかりを偏愛する我が子よう太にも、そういった星座を描ける力をつけられるよう、導いていきたい。