Yondaful Days!

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「答えを知る」のと「理解する」のとは違う〜清水徳子『1秒の長さは、だれがきめたの?』

1秒の長さは、だれがきめたの? (調べるっておもしろい!)

1秒の長さは、だれがきめたの? (調べるっておもしろい!)

先日読んだ『10秒の壁』にも1秒をめぐる話があったので、図書館の児童書コーナーで目についたこれも読んでみた。


タイトル通り、「1秒の長さは、いつ、だれが決めたの?」という素朴な疑問から地道に調べて答えに迫る。
スラスラ読める内容からは、その「答え」以上に、出発点となる「疑問」の設定の仕方が適切であれば、「調べること」は、沢山の面白さを引き出してくれるということが分かる。

「1秒って誰が決めたの?」という質問自体は、人によっては即答できるくらいの質問かもしれないが、作者の興味は他にも多岐にわたる。

  • ふつうの人が1秒という時間を知るようになったのはいつ?
  • 1秒は1日を基準にして決めたの?1年を基準にして決めたの?
  • 秒針つきの時計が生まれたとき、時計職人は1秒をどうやって計ったの?


調べるたびに湧いてきたいくつかの疑問を束ねて調べたのがこの本で、派生していろいろなことが分かってくる。

  • 江戸時代の「1とき」は、およそ2時間。それより短い時間としては「半とき」「四半とき」が当時の人たちの時間単位。
  • 1930より前は、100m走のタイムは5分の1単位。
  • ヨーロッパでは、5世紀頃に、キリスト教修道院で祈祷のスケジュールのために、日時計水時計を用いて1時間単位の時間を計っていた。
  • ストップウォッチは、もともと医者が脈拍を計るために開発された。
  • ふつうの人々の暮らしの中に時計の精度が活かされるようになったのは、鉄道とラジオがきっかけ。
  • 1秒は長らく1日の86400分の1として定義されていたが1956年に1年を基準に改められ、さらに1967年にセシウム原子を基準に改められた。
  • 今後、1秒の定義が変わる可能性もあり、候補としてはパルサー(目に見えない星)がある。


さて、実際に、このような疑問に対して、まず最初に図書館に調べに行くところが、この本の面白いところ、本の中では、ネット検索ではすぐに答えが出ないものと直感的に判断して、地域の図書館→中央図書館→都立中央図書館セイコー時計資料館→国立博物館の先生 とレベルを追って調べていく。
途中でネットでも確認してみるが、あまり有益な情報を得られなかったようだ。
ただし、この本の刊行された10年前と、今とでは、この部分は状況が異なり、2012年現在では、Wikipediaで「秒」を調べると、本書で長い時間をかけて調べたことが、かなり系統だてて記述されている。

しかし、理解する過程を追っているため、読み物としては、当然、本書の方が面白い。
このように、疑問符をどんどん膨らませて書かれる文章は分かりやすく、新書などでも多いが、特に科学絵本は、常に移り気な子どもたちの興味を引き続ける必要があるから、その点はかなり意識されているのだろう。

最近読んだ本でいうと、例えば

あなたのいえ わたしのいえ (かがくのとも絵本)

あなたのいえ わたしのいえ (かがくのとも絵本)

もっとはやいものは―スピードのはなし (科学の本)

もっとはやいものは―スピードのはなし (科学の本)

などが、ひとことで答えが出るテーマを、子どもの理解に合わせて順々に追っていく良書だった。特に後者はラストが面白い。

この世でいちばんや速いものは何でしょう? 一緒に比べてみましょう。ウサギよりチータは速い。陸上で走る動物ではチータが一番だけれど、実は、海にはチータより速く泳ぐ魚、空にはそれより速く飛ぶ鳥がいます。そして鳥より速い新幹線。新幹線よりジェット機ジェット機よりゴーンと聞こえるお寺の鐘の音…。まだまだ続きます。音より地球の自転速度。自転速度より地球が太陽のまわりをまわる速さ!

 目には見えないものの速さが鮮やかに比べられていく絵本の中で、子どもたちがたくさんの驚きに出合うことうけあいです。そして、この世で一番速いものは、光と落ち着きそうなところですが、この絵本ではそうなりません。光より速いものがあるのです。意外だけど納得の答えが、絵本の中で待っています。


まとめ。
ググることで「答え」は分かるのかもしれない。
しかし、物事を理解する過程を考えれば、「疑問」と「答え」の相互作用こそが、実際にはもっと重要で、その意味では、ネット検索は弊害が大きいということに今さらながら気づかされた本だった。当然のことだが「答えを知る」のと「理解する」のとは全く異なるのだ。
「調べるっておもしろい!」はシリーズ化されているので、他の本も読んでみたい。